07

「なんか全てが違うように見えるのは大袈裟かな」


 建物が大きい、広い、人も沢山で早くも負けそうになっている自分がいた。

 何回か来ていることで慣れているのか彼女が元気でいてくれているからなんとかなっているけどどっちもやばい状態だったら終わっていたと思う。


「んーあっちよりはこっちの方が人も多いですからね」

「手を繋いでいこう、なんかみこちゃんから少しでも離れたら駄目になる気がする」

「いやいや、私もあっちで生まれましたから変わりませんよ」


 でも、手は繋いでくれるみたいだったから少し不安じゃなくなった。

 ただ、一緒にいくことになって彼女のお母さんの実家で待つことになったときは余裕がなかった。

 もっとも、結局は泊まらせてもらうことには変わらないからいまから慣れておけと神様が言っているのかもしれないと片付けて少なくとも情けないところは見せないようにする。


「み、みこちゃんや……」

「珍しく緊張していますね、ふふ、今日は私がお姉さんですね」

「それでいいから盾になっておくれよ、お母さんのお母さんが振り返ったら――」


 なんてね、優しい人達だから特に気にならない。

 いいのかどうかもわからないけどお墓参りもできたし、これで後はご飯なんかを食べて休むだけだ。

 私の母の実家と違って周りは田んぼや畑だらけ、お店まで車を使わないといけないなんてこともないから外に――は出てきていなかった、作ってくれるとのことだったから甘えることにしんだ。

 いくのと帰るのでお金が結構かかるからこれはありがたいことだった、ここならではの料理は……また今度でいい。


「ぷはあ、食べたなあ……」

「すぐに寝転ぶと太りますよ」

「よし、ちょっとお散歩をしよう」

「駄目ですよ、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんがお風呂に入れなくなるので早く入りましょう、一緒に入りましょう」


 なるほど、確かにこれは彼女の言う通りだ、向こうでも私達が入るまで意地でも入らないから急がなければならない。


「いいの?」


 それよりもこっちだけどね。

 二人のことを考えられるのはいいけど後悔してほしくないからちゃんと聞いておかなければならないんだ。


「はい」

「じゃあ入らせてもらおっか」


 奇麗で広いお風呂場だったからそう苦労はしなかった、嫌がるだろうからなるべく見ないようにしたことの方が大変だった。

 並んで湯舟につかっている最中、なにも喋ってくれなかったから流石に気になったね、こういうときこそ何回も話しかけてほしいんだけど……。


「これは流石に言えませんね」

「そうだね、言われても困るだろうからね」


 姉と入るのとは違うしなあ、あまり気にしない私でも無理だ。


「いま結構やばいんです、もう出てもいいですか?」

「うん、じゃあみこちゃんが拭いて服を着た後に私もすぐに出るね」

「それなら先にまち先輩がお願いします」

「わかった」


 お風呂場から出てしっかり拭いて、服を着たところですっかりいつも通りの私に戻った。

 廊下で待っていると「お待たせしました」と彼女がすぐに出てきてくれたのはよかったけど、あまり拭けていなかったから客間的な場所で拭かせてもらうことにした。

 本当ならゆっくり彼女と話したかっただろうに全く来なかったことを考えて申し訳ない気持ちになったものの、寝るまではフラットな状態で過ごせて、うん。


「いつもベッドだから新鮮だよ」

「あの、そっちで……いいですか?」

「ここは涼しいし、寝るときは体温も下がるからみこちゃんがいるぐらいで丁度いいだろうからね、おいで」


 確かにと言いたくなってしまったのはこの後のこと、ちゃんとツッコむことは忘れていないようで「たまに学校でも床に寝転がっていますけどね」と刺されてしまったね。


「あれ? はは、今日は甘えん坊だね」

「まち先輩のおかげですから」

「私は付いてきただけだけどね。それに優しくしてくれたあの人達に申し訳ないよ、これじゃあ私がみこちゃんを独占しちゃっているみたいだからさ」


 いきやすい雰囲気を作ってあげれば彼女はすぐにそうする。

 本人の口から出る前に直接いってきなよと言うのも効果的ではあるけどこういう少し遠まわしな言い方の方がいいときもあった。


「あ……確かにそうかもしれません、だってまち先輩とは帰ってからもいられるわけで……」

「ほら、いまからでもいってあげて?」

「いってきますっ」


 私的にアレだったのは寝てしまうのを我慢できなかったことだ。

 だから気が付いたら朝だった、母の実家があるところとは違って夏でも朝は冷えるということはなかったけど動きづらいし、起こしづらい。

 出ていく前と同じだったのはみこちゃんが一緒のお布団に寝ていた点だけ、早寝早起きタイプだからまた寝るというのも現実的ではない……。


「みこちゃん」

「……早起きですね」

「おはよ、あのさ、歯を磨いてから歩かない?」

「はい……」


 あ、駄目だ、連れ出してもふらふらしているところが容易に想像できる。

 仕方がないから天井でも見ながらじっとしていようと決めた。

 結局、ねむねむな彼女は再び寝息を立て始めて笑うしかなかった。




「そっか」


 この県ならではの料理はまた今度と片付けた私だけど今日の夕方に帰るからまだ時間はあるんだ。

 夜遅くまで盛り上がっていたのかみこちゃんの起床時間的にあまり余裕もないものの、それでも食べてから帰ることができるわけだ。


「んー結構遠くまでいかないと無理みたいですね」


 でも、調べてくれていた彼女からそんなことを言われて仕方がないとまた片付けることになった。

 正直、美味しいご飯を食べられればそれでいいというのもあるかな。


「私的にはまち先輩がいてくれればいいのでもう帰ってもいいぐらいですけどね」

「え、さ、流石にもう少しぐらいは見ていこうよ」

「心配しなくてもちゃんと合わせますよ?」


 だけどいきたいところもないというか、そもそもなにがあるのかもわからない。

 駅までの道を歩いているだけでも楽しめるし、やはり人が多くて疲れるから帰った方がいいのかもしれない。


「か、帰る?」

「まち先輩がそうしたいならそうしましょう」

「みこちゃんが決めてっ」

「なら帰りましょうか、それでまち先輩のお家でゆっくりしましょう」


 これは……考えてくれた結果か。

 よし、それならささっと帰ってごろーんとしてやろう、今日は読書なんかも忘れて休もう。

 多分、あっちに戻ったら同じようには甘えてくれないだろうけど気にしなくていい。


「あれ?」

「……いいですよね?」

「うん、私的にはいいけどみこちゃん的にいいの?」


 って、よくなかったらこうしてきてはいないんだから馬鹿な質問だった。

 少し緊張していたからとかじゃなくて今度は完全に甘えてくれているのが嬉しい。

 だから正直、新幹線内にいられているときからごろーんとしなくていいかと考えてしまうぐらいだった。


「着いたー――ぶぇ」


 両手を上げた瞬間にこれ……。

 人間違いだったらどうするんだろうか、謝ったところで怖い人は怖いんだよと言いたくなる。

 とにかく、そんなことをしてくれた人は「そろそろかなーと思って駅までいってみたら間抜けな顔をした妹がいたからつい攻撃しちゃったよ」と反省した様子はなかった。


「あのね、みんなで集まっているから二人も来てよ」

「うん」

「特にくみちゃんがやばくてね、ここはまちとかみこちゃんがいないと……はぁ」


 休む必要があるほど体力も減っていなかったうえに寝ないとなれば時間も沢山あるから付いていく。

 するとジュースが入ったコップを片手にハイテンションな露木さんをすぐに見られた、でも、別に暴れているわけじゃないからいつも通りと言えばいつも通りだ。


「なんかね、ずっと欲しかった物を買ってもらえたらしいのよ」

「それでですか、可愛いですね」

「まあ、ご両親的には喜んでもらえて嬉しいだろうけどずっとこのままだから困るのよね。欲しい物を買ってもらえて集まろうとするのが面白いけど」


 そうか、姉がじゃないか。

 近づいてよかったねと言わせてもらったら「ありがとうまちちゃんっ」といい笑みを浮かべて返してくれた。


「ふぅ、だけど流石にそろそろ落ち着かないとね」

「うん」

「急だけどみこちゃんとどうだったの?」

「楽しかったよ? 私からすれば都会感が凄くて落ち着かない場所だったけどね」


 慣れるまではこう……歩くだけで疲れる感じ、ずっといることはできないから一生慣れることもないまま終わる話だ。

 大きくなってから本当に旅行とかしないからね、みこちゃんが誘ってくればもう一回ぐらいはあるかも、というところか。


「でも、よく付いていったよね、私だったらその先のことを気にしてやめていたところだったよ」

「時間はあったからね、あと甘えてくれることが少なかったからさ」


 本命がいたうえにその人が近くにいるとなれば当たり前なんだけど、こちらにばかり甘えていたら不安になるくせに少しアホな発言ではある。

 でも、実際そうだったから、お金も時間もある状態だったから付き合おうとなったんだ。

 別にこれは私だけじゃないと思う、甘えられたら他の人だって「わかった」となるんじゃないかな。


「ただ一つ気になるのはさ、なにも言わずに固まっているみこちゃんかな」

「喧嘩になったとかじゃないよ? 昨日、遅くまで起きていたから眠くなってきちゃったんじゃないかな」

「それなら布団を敷くよ」


 これは動こうとする前に本人に止められた、別に眠たいからじゃないらしい。

 なら何故と露木さんが聞くと「出しゃばらないようにしているだけです」と、更に言葉を重ねても首を左右に振るだけだ。


「あんたもうずっと私の側にいなさいよ、現れた瞬間に相手を落ち着かせられるとか立派な能力じゃない」

「呼んでもらえればいきますよ」


 いつでもフリーな状態みたいなものだから頼まれて嫌じゃなければ付いていく。

 更に頼まれてもできることならやるし、その場合なら無駄に時間を使わせてしまっているみたいなことにもならないから堂々と存在しておくことができる。


「名前では呼んでくれないけどね」

「求めているんですか?」

「私だけが名前で呼んでいたら一方通行の可哀想な人間みたいに見えるじゃない」

「じゃあゆき先輩にします――あ、くみちゃんにもそうするね」

「ありがとうっ」「まあ、ありがと」


 自分から名前で呼ぶように求めるのもそれはそれで恥ずかしかったということだろう、いまだからこそ勢いでなんとかぶつけられただけだと先輩の顔を見ているとわかる。


「待った、くみちゃんは私のだから取らないでよ」

「いつあんたのくみになったのよ」


 こういうときは本当に助けてくれる人だ。


「ゆきは黙ってて」

「そんなに可愛くないことを言う子にはこうよ」

「くすぐりは効かないよ」


 止められるかどうかは別としても一人で戦わなければいけないわけじゃないからありがたい。

 でも、今回もまたすぐに止めるしかなかった、何故最近はこうなってしまったのか。

 くみちゃんが好きなら好きだと素直にそう言えばいい、けど、実際は私をぐぬぬ……という状態にしたくて言っているようにしか見えないから問題なんだ。

 前まではこんな子どもっぽい人じゃなくてそれこそ私がやられそうになっていたらやめてあげてって言ってくれる存在だったのにどうしてこんな……。


「お姉ちゃん」

「なに――な、なんで抱きしめるの」

「落ち着いて、私ならちゃんといるから」


 これはかなり勇気のいる行動だった、だってあくまで想像で動いているだけだし、真顔で「なにを言っているの?」などと言われたらある意味終わる一件だ。


「は、はい? わ、私はただくみちゃんを取られたくないだけだけど」


 助かったのは余裕のなさそうなところを見せてくれたこと、いやもう本当に心臓が試される数日間だ。


「よし、なら大丈夫だね、姉妹で迷惑をかけてすみませんでした」


 っと、こうしてしまえば終わる……はずだ。

 なんか変な空気になってしまったから違うお部屋で休ませてもらうことにした。

 客間的な場所にしたってお家によって違うから新鮮だった、心臓はまだ慌てていたからすぐには休めているとは言えなかったけども。


「なんでまち先輩が謝るんですか? 全くその必要はないじゃないですか」

「でもほら、私達のことで楽しめない時間ができてしまったからだよ」

「関係ないですよ、そういうところはまち先輩の悪いところです」


 まあ、確かに謝ればなんとかなると考えて実行している時点で彼女の言う通りだ、他者からすれば丸わかりということなのかもしれない。

 ただね、真っすぐに言葉で突き刺されると数秒の間はなにも言えなくなってしまうからね、ありがたいけどもう少しぐらいは優しくしてほしかったりもする。


「え……っと」

「うん?」

「と、とにかく、あの場合ではまち先輩が悪いわけじゃないですからっ」

「そっか、ありがとね」

「うぅ……」


 いっちゃった。

 なんとなくくみちゃんのお家でごろごろはできなかったから挨拶をしてから帰ることにした。

 お土産を買ってきているから早く冷蔵庫にしまいたいのもあったんだ、別に気まずくなったからとかじゃない。

 当然、この時間ならお休みか専業主でもない限りいないから挨拶はできなかった。


「なに先に帰っているの」

「やっぱり自宅が一番落ち着くよ」

「当たり前でしょ、自分から出ておいて馬鹿なんじゃないの」

「お姉ちゃんにも会えたからだよ? さっきのことがあってあんまりそういう風には見えないかもしれないけど」


 自分でも少し適当だと感じるから姉からすればもっとそう聞こえるし、見えるはずだ。

 だけど全てが嘘というわけじゃない、そこを誤解はしないでほしい。


「私は……いや、私もまちがいなくて寂しかった。あ、くみちゃんへのそれは適当じゃないよ? だけどそれとこれとは別なんだよ」

「よかった、私をどうにかしたいからじゃなかったんだね」

「当たり前だよ、だってそれじゃあくみちゃんが可哀想じゃん」


 また盛り上がっているだけで楽しめるようになるのか。

 これが一番のお土産みたいなものだった。

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