第107話 : 存在意義(プリシラの眼)
「私が持つ魔力は本来あってはいけないものなのですか」
「そう言う意味ではない。必要な魔力だが置かれた環境によって使う意味が違うのだ」
アンジェが持つ膨大な魔力を抑えるために私がいると言われても……
「私はアンジェの抑止力でしかないと言うことですか」
「アンジェも其方も『祝祭の聖女』としての役割はある。お前さんにはアンジェの暴走を止めるために特別な魔力が備わっているということだ。アンジェが傍にいない限り普通の魔法使いと変わるところはないのだよ」
夢に現れたフェニックス様とそんな議論を随分長く話している。
夢の中の世界だとわかっていても、そのリアル感は半端でなく、私の意識へ深く入ってくる。
「アンジェはどの様な存在なのですか」
「彼女は陽の魔法が全系統使える。そしてその魔力は膨大である」
それだけなのか。
「私が与えた力はそれだけだ。それをどう使うかはアンジェの自由だ。
ただ、この世界のパワーバランスが崩れると困る。その為に其方がいる。何度目かの繰り返しになるが其方に陰の魔力を与えた主目的はアンジェの暴走を防ぐためだ。ただし、其方にアンジェの傍にずっといろと言うのではない。アンジェの魔力が暴走しているのを感知したらそれを止めれば良いだけの話だ」
それではアンジェの付属物みたいなものだ。
私が魔法を使えるようになったのは喜ぶべきことだが、それは私の生きる意味の問題になってしまっている。
「心配は要らない、と言いたいところだがお前さんは納得しないだろうな」
「そうです。私はアンジェの添え物なのでしょうか」
アンジェがいなければ私の存在価値がないと言われているとしか感じられない。
「お前さんは今でも充分に魔法使いとして活躍できるだけの力を持っている。それをアンジェと同じ場所で使う必要なぞどこにもない。自分が活躍できる所は別にあると心得よ。その上で膨大な魔力の感知を怠るなと言いたいのだ」
「それは、私にこの場を離れろというのでしょうか。私の本国では魔法をこのように学べる場はありませんから、仮にアンジェを止めると言われてもその方法を学ぶこともできません」
「アンジェを止めるのは簡単だ。お前の魔力をぶつければ良い。アンジェと言えどもその魔力を簡単に打ち消すことはできない」
「では、私にどうしろと」
私がこの場から離れるのは仕方がないという思いはある。
けれども、私を送り出した帝国の立場もある。私の事で国家間の問題が起こってはそれこそ大問題ではないのだろうか。
「暫くはここで学ぶことだ。アンジェの魔法には特徴ある魔導波がある。通常の魔法使いでは感知できないほど微細な物しか発生しないものだが、彼女はその膨大な魔力ゆえ普通の魔法を使っているだけで感知魔法で捉えられるほどの波が起こる」
魔導波については私は何も知らない。
それを感知することを磨くと言うことはやはりアンジェの付属物でしかないと言うことなのではないのか。
「大きな魔導波を起こすのはアンジェとは限らない。一部のエルフや竜の連中などもいる。時と場合だが大きな魔力に対抗して世界を救えるのは世界で唯一陰の魔法が使えるお前さんの仕事だ。それは帝国側の利益でもあるだろうに」
陰の魔法とはそう言うものなのか。
「魔導波の感知能力を高めることは世界の危機管理に繋がる。それ以上の言葉がいるか」
世界の危機管理……そんな重大な役割と言われても。
アンジェの付属物も嫌だけど、重い責任を持つのも望まない。
「『祝祭の聖女』のような大きな力には大きな責任が伴うのだ」
「一つだけ質問してもよろしいですか」
神の遣いと名乗るフェニックスがそこまでアンジェに肩入れする理由は何なのだろう。
「アンジェは私と同じ『祝祭の聖女』なのですか」
「その通りだ。お前さんには申し訳ないが、本来はアンジェが唯一の『祝祭の聖女』になるはずだった。だが、想定外にアンジェの力が大きくなったのだ。そこでプリシラ、お前に力を与えた。『祝祭の聖女』として使える魔法は一緒だが、性質が違うようにしてある」
やはり、アンジェも『祝祭の聖女』だったのか。
「一つだけ忠告しておくが、お前自身がアンジェを『祝祭の聖女』だと第三者に伝えることがあれば、私はお前の全ての記憶を消し去るようにお前自身の体に印を打ってある。アンジェが優先だとは言わないが、アンジェに余計な危害を加えるようなことはするでない」
「それは……」
「あくまでも予防策だ。陰の魔法使いでないとできないことがある。それを磨くことがお前の役割だ」
私にしかできないこと……
「時間がなくなった。私はこれで消える。今までのことを良く考えて行動して欲しい」
え、ちょっと待って、私だけができることを教えてくれないの。
その時、私の意識は戻った。
リアルすぎる夢……背中には寝汗が凄い。
「え、これ……」
見たこともない印が左腕の内側にぼんやり見える。
さっきのは夢でなくて……
私は身の振り方まで考えなくてはいけなくなったのだ。
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