第2話 擬態

散歩がてらに近所のコンビニに来た。

別に僕は外に出られない訳じゃない。


学校のように集団で何かをしなくちゃいけないところだとか、たくさん人が集まっているところが苦手なだけ。


お菓子が陳列されている棚の前にいると急にレジカウンターの方から大きな声が聞こえてきた。


僕はビクッとして警戒する。


悪意ではないけど怒りの声。


男の人がレジの機械にスマホのバーコードが読み込まれないことに苛立っている。


お店の人が悪いわけじゃないんだけどな。


機械のトラブルと言う訳でもなさそうだしそんなに怒らなくても。


「おまえ、なんだよ何見てんだよ。」


あれっ?矛先が僕に?


人の苛立ちや悪意が自分に向けられる恐怖を感じる。


呼吸が激しくなってくる。


あーだめだ。


これは。


パッと目の前が強く光る。

一瞬視界が失われる。


眩惑から回復して視界が回復すると男の人はまるで目が覚めたかのように怒りや焦りを失っていた。


「えーっと、現金で払いますね。」


そう言ってまるで何事もなかったかのようにコンビニを出て行った。


レジカウンターの中の女の人が目を見開いて僕の背後を見ている。


その視線に従って振り返ると「それ」がいた。

大きなソーセージに大きな目とピンポン球のついたアンテナ。


パチパチとまばたきをして揺れている。


変な話し、僕は「それ」を見てなんだか嬉しかったんだ。


「それ」もまるで僕の心がわかって喜んでいるように見えた。


「それ」はその黒い穴を影のようにスライドさせながら当然みたいに家までついてきた。


行き違う人達にも見えているはずなのに誰も不審に思わないようだ。


「それ」は自分が人に与える印象を操作できるのだろうか?


リビングでそれと一緒にテレビを見ていた。


「僕はずーっと君といるよ。」


唐突に「それ」は話しを始めた。


「それ」はいつのまにか姿を変えていた。

口や耳が出来たので喋れるようになったんだと思う。


見た目は僕の好きなアニメのヒロインにそっくり。

小さな女の子で頭にはピンポン球のついたアンテナがある。


「どうしてその姿なの?」


「シンの頭の中にあった。」


やっぱり。


声まで一緒だし。


「ただいま。シンちゃん、ラドちゃんと仲良くしてた?」


母は帰ってくるなりそう言った。


妹と言うわけでもないけど「それ」はうちにいて当たり前の存在として認識されているようだ。


「それ」はラドって言う名前だったのか?


父も会社から帰ってくると


「おーっ、ラドちゃんいっつもかわいいねー。」


と言って抱き上げた。


うーむ。


なんだ?これ。

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