第9話 世界の王と呼ばれし者

 ナムタカが西国の事で。サイダが政治や経済のことなどで考えている一方でナーガは、もっとも悩まざるおえない立場にあった。


 北国の者達との戦いは一進一退の攻防が続いており攻略できず、優秀な家臣たちに砦を築かせても、海戦に慣れていないオーマ軍では北国軍の防衛を防ぎきれないようだった。


 それどころか逆に攻められるという始末で苦戦していた。


 ナーガはこのような状況に、側近でいくつもの砦の総司令官を任されているキーマウスから、悪い報告ばかりを聞く。


 ちなみにナーガはすでに59歳でキーマウスは55歳。すでに髭が生え白髪だらけの老人だ。


「上様、我が軍の黄色隊が北国の第5砦を攻めておりますが、落とせない状況にあります」


「ほう……」


「また、橙色隊の水軍が北国の海で海戦は勝っておりますが、被害は甚大。領地に攻め込めるほどの力はなく撤退しております」


「ほう……」


「赤色隊は第1砦を落としましたが、逆に敵に包囲され、第2砦と第4砦の部隊が救援している状況。しかし敵は強く包囲を突破できないとのこと」


「そうか……」


「一時全軍撤退しましょう」


「何を言う。時はかかっても敵の弱点をついて国を奪う。この程度であきらめる我ではない」


「ごもっともかと」


「我がどんなに老いていこうとも、我が夢は果たすのみ」


「さようにございます。ナーガ様のご三男、ナムタカ様が南国より不老長寿の薬を見つけ出したとの報告もございます」


「キーマウス、それは嘘ではないだろうな?」


「多くの間者から聞いた話でございます。間違いはないかと」


「ならばよし。今すぐに持ってこさせよ」


「かしこまりました」


 苦戦していてもナーガは撤退せず全軍を叱咤していた。


 ちなみにナーガは第3砦を無敵の城として建設している最中だった。


 玉座に座り、地球儀でどの場所にいてどこが苦戦しているのかを把握しており、宣教師の言葉を重視していた。


 このような話になると、ナーガ軍が苦戦しているように感じるだろうが、このままでは確実に負けるのは北国のほうだった。


 北国の皇帝はナーガに対抗しようと要塞に寒さ対策などをやっているが、内紛で困っていた。


 ナーガの調略で裏切り者が出たり、反乱が起きたりなどで北国は困っていた。その隙を突かれれば北国がどんなに守りが硬くて広大な領土でも滅ぼされるだろう。


 北国が広すぎて統治出来ないというのが原因だが、ナーガはその対処法をよく理解していた。


 そのため、ナーガやライトにその植民地から裏切り者が出てくるなんてことはなく、多くの者達がナーガを恐れた。


 その名前は世界各地に広まって私でさえ知っていて当たり前の人物だった。


 そんなナーガにも趣味はある。


 1つは茶会。ジーパンからやってきた茶人を何人か呼んでは様々な国の者や兵士達を集め頻繁に茶会を行っていた。


 お茶は温かく、茶人の話も面白い。寒い北国ではそういった飲み物や話は重要で戦闘で士気を上げることにつながった。


 もう1つは猛獣狩り。大将自ら虎だとか狼を鉄砲で狩るというもの。下手をすれば自分が襲われるリスクもある命懸けの趣味だが、こういった強い動物を狩ることは自らの力を誇示出来ることにもつながる。


 こういった恐れ知らずであることや、圧倒的なカリスマであるナーガは世界の王と呼ばれるほどだった。


 とはいえ西国の皇帝や王達はそんなことを認めていない。そのような王を生み出した原因が西国の宣教師達なのにそれを止められない皇帝や王達が認めないなんてどうかしていると私は思う。


 そんなナーガは、健康第一だというのに気分転換で猛獣狩りをした後、金平糖を食べる。


 そんな姿を見たナーガの側近であるラーマンがナーガを説得する。


「上様、金平糖を好むのはよろしいですが、不老長寿を望むならば、お控えするべきです」


「なぜだ? ラーマン」


「何やら甘い菓子というのはお体に悪く、胃を害するそうです。西国の医師の話にもそうありました」


「そうか。しかし我は、酒はたまにしか飲まぬし健康面は気をつけておる。何しろ忙しいからな」


「お気持ちは分かります。しかし世界を支配するためには長い時がかかるかと存じます。それにどれほどの苦労をすることかと」


「そのような心配はいらぬ。万が一のことも考えておいているからな」


 ナーガが考える万が一のことは、息子や娘婿、弟達といった親族を上手く利用することだった。


 すでにジーパンではナーガの長男の子が国をまとめており、ナーガの弟達もナーガの息子を支える立場にいる。また、それぞれの軍の司令官にもなっていた。


 植民地は三男のナムタカ、ライトは次男のセンチャに任せるなど、ナーガではやりきれないことを親族に任せるというオーマ家による世界支配という体制を作っていた。


 盤石な体制であることは間違いないが、それがいつまで続くかも気になる。


 この私アーチェリーはそんなオーマ家の欲望のために両目を失った。サイダには申し訳ないと思っているが、私がオーマ家を許せない。


 だからどんなにオーマ家が盤石で戦うことが無謀な相手であったとしても、この恨みは死んでも晴らす。


 左目には10歳の時に受けた傷跡が残り、前髪で左目を隠している。ちなみに右目に義眼を入れ、髪留めで右目は見せている。


 この義眼で私は、力をつけて最初の目標であるナーガの三男、ナムタカを倒すことと、サイダに再会することを目指す。

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