第4話 町が襲撃される

 アーチェリーは抹茶をゆっくりと飲む。味は苦い。


「にっが! 紅茶よりも苦い」


 これにセイエーが質問する。


「ほうほう、この地には紅茶というものがあるのですな?」


「東国から取り寄せた茶葉らしいのです」


「あのライトという国のものも西国と東国に経済文化を花を開かせてますな」


「ライトって?」


「ジーパンの隣国にある大国です。東国では経済の中心国家ですからなあ」


「そうなのですね」


「今、ジーパンの王、ナーガ様が制圧を済ませて貿易利権を獲得しておる頃ですな」


 そこへサイダが間に入る。


「父上のそんな話はなさらないでくだされ。機密情報ですぞ」


「どのような情報も茶人には入ります。船内でも小舟の者から情報を得られますからなあ」


「だとしてもです……」


「偽情報もありますからなあ。惑わされない事です」


 サイダは黙って頷く。


 私とサイダはゆっくりお茶を楽しんだら小屋を後にした。


 そして、サイダと別れを告げる。


「そろそろ、家臣に見つかりやすい時間だ。戻らないと」


 サイダが去ろうとすると、私は声をかける。


「あの……サイダ!」


「どうしたんだ?」


「また……出会ってくれる」


「ああ、出会えたら」


 それだけを言ってサイダは去っていった。


 サイダと一緒にいた時間は楽しいものだった。そのような時間がずっと続けばと思う。


 私は家に帰って複雑な気持ちでシーナ先生の宿題を終えると予習などを行った。私の楽しみは学ぶことしかない。生まれつきの記憶力の良さを利用して様々なことを学んだ。


 その日の夜、私の睡眠中に物騒な音がした。なんの騒ぎかと思って起きてみるとお父さんとお母さんが慌てる。


「アーチェリー!逃げるわよ!」


「ああ、逃げるぞ!」


 よく聞いたらそれは鉄砲の音。それだけではない、無数の矢が飛んで来て多くの人が亡くなっていく。


 しかも私達を襲っているのは東国の鎧を着た人達。顔にはお面をつけその姿は化け物のようだった。鎧は硬い糸で出来ており、兜は鉄、そして鉄の仮面も不気味。


 いわゆるジーパンの兵士だ。


 そんな人たちが容赦なく鉄砲で射撃したり弓矢で射抜いてくるから恐ろしい。


 お父さんは逃げるも鉄砲の鉛玉が背中に当たる。


「うぐぐ……」


「あっお父さん!」


「あなたあ!」


「にげ……ろ……」


 私は動揺を隠せず、固まってしまったが、お母さんが私の手を取って逃げ出す。私も走り出すしかなかった。


 町中に火矢が放たれ町が焼ける。そして鉄砲の射撃で町の人々が倒れていく。


 町の外まで逃げようとした時だ。東国の兵士が待ち伏せしていた。その姿は恐ろしく火の中を逃げる私達からしてみれば地獄の悪魔のようだ。


 兵士は私とお母さんを刀とかいう鋭い剣のような武器で斬ろうとする。


 お母さんは私を守るために背中を斬られる。


「おかあさん!」


「いきなさい…・・ゴフ!」


「でも……でも!」


「死にたくなかったら!」


 お母さんが兵士にやられている隙に私はただひたすら逃げる。しかし兵士がお母さんの息の根を止めると追ってきた。


 私は死にたくない一心で走り出した。しかし、逃げる方向に弓矢を構える兵士達がいて、一斉に矢を放ってきた。


 私は右に逃げるも、その一本の飛んできた矢が私の右目に当たる。


 「うわあああああ!」


  激痛だった。私は右目を失った。それでも左目は見えるため逃げ道を探す。町を出て大きな池のあるところに着いた。しかし、追ってきた兵士に見つかった。


 どうやらその兵士は私を逃がすつもりはなかったようだ。私は兵士に答える。


「どうしてこんなことをするの!」


「ご三男様の命だ」


 それだけを言って兵士は刀で私を斬ろうとする。腹を斬られると思ってよける。私は運が悪いのか良かったのか、左目を斬られてその痛みで倒れて池に落ちた。


 普通ならそのまま溺れ死んでいたが、何とか生きることが出来た。それはシーナ先生から水の中での泳ぎ方を教わっていたから、池で沈むことなく陸についた。


 兵士は私が目をやられて池に落ちたことで死んだと思っただろう。


 命は助かった。しかし私は両目を失った。右目には矢が刺さったままで痛みがある。左目も刀で斬られている。


 視界がないならもう痛みを持って死んでいいと思ったのだろう。私は右目に刺さった矢を抜いた。


「うわああああああ!」


 大きな悲鳴を上げた。とてつもない激痛だったからだ。それと同時に私は泣き出す。突然の襲撃で両親を失い、暮らした町も焼野原。


 もう生きていても仕方ないと思った。私は手に持った矢で自決して果てようとしたが、その時、それを止める人がいた。


「やめろ! 死んじゃだめだ!」


「その声は……」


 それは聞き覚えがある。サイダだ。サイダは私の目から出る血を包帯で止血しようとする。


「目から血? 止血するよ!」


「何よ! どうしてこんな! 私なんてどうなったって!」


「バカ言うな! 死んだらおしまいだ!」


「両親も失って目も失った。もう生きていけない!」


「そんなこと……」


「放して! あの兵士達は東国の兵士でしょ。ジーパンの兵士でしょ! サイダの部下なんだよね! ご三男様って誰!」


「ご三男はナムタカの兄上。俺の父上、ナーガ・オーマの三番目の息子だ」


「どうしてこんな……サイダも共犯者なんでしょ!」


「違う……俺もナムタカの兄上がこんなことをするとは思わなかったんだ。とりあえず隠れられる場所へ案内するよ」


 私はサイダにお姫様抱っこされて何処かへ連れて行かれた。目が見えなくて何も分からない。

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