第3話 最高だろ(お題:だんまり)

 実家への行き来の途中に必ずロードサイドダイナーに立ち寄る常連客がいる。

「やあフレディ。いまは夏季休暇かい?」

 首だけの彼は常連客たちについて、こと細かく覚えている。名前、乗っている車、どこから来てどこまでいくのか。ここで話した内容であれば、間違えることはない。

「ご明察。でも驚いた。この店コーヒーが出るようになったんだね」

 彼と向かい合うように腰掛けたフレディの前には、もうアイスコーヒーが置かれていた。

「いつからだっけ?」

「さあ、忘れた」

「そうだ。忘れるくらいにはもうずっとコーヒーを出してる」

 ココは少し減っただけのフレディのグラスにコーヒーを注ぎ足すと「ごゆっくり」と言ってカウンターから出た。エプロンはつけたままだったが、店の端に据えた棚から本を取り出してカウンターチェアに座る。会話には参加しない、という意思表示だった。

 ただし仕事もする。フレディのグラスから聞こえる氷の音が変わると、ココは無言で立ち上がってキッチンに入った。

 三杯目のときだ。

「ねえ、僕はフレディっていうんだけど、君は?」

 首だけの男から視線をあげる。

「はいどうぞ、フレディ」

 フレディの視界は目の前に出されたグラスでいっぱいになる。グラスを握るココの指先もぼやけていた。

「あ、ありがとう」

「私はココ。それ以外は聞かれても答えないから」

 ドリンクボトルをカウンター下の冷蔵庫に片付けながら、声を大きめにしてきっぱり言った。ドアを閉めて立ち上がると、また端のカウンターチェアに座る。高らかに笑い声を上げたのは首だけの男だった。

「先手を打たれたな。俺だってこの店に来る前のココのことは知らない。でもそれがなんだっていうんだ。今が心地いい。ココがいるとコーヒーもでるし腹も満たせる。俺も客が来ないあいだの話し相手がいる」

 最高だろ、と軽くウィンクしてみせた。

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