第20話 処刑
エドアルトはなけなしの勇気を振り絞った。一応身に付けていたブロードソードを抜いて、リュドミラの前に飛び出し、そして、ブロードソードでリュドミラを突こうとする。
「うおぉぉぉぉ」
そんな声を上げて、彼なりに必死に攻撃した。
だが、ずぶの素人が行った刺突は、ただ目標物を敵の前に置く行為に過ぎなかった。
リュドミラは、左斜め前に体を動かしてその攻撃を避けると、すかさず細剣を振り下ろす。
それだけでエドアルトの右腕が切り落とされた。その身体は脆弱だった。
「うああああ!」
エドアルトは叫びを上げてその場に座り込む。
「ひぃ!」
ジュリアンは情けない声を上げ、リュドミラに背を向けて逃げようとした。だが、その動きも素早いものではない。
リュドミラは容易く追いつき、下に向かって細剣を薙ぐ。ジュリアンの左足首の腱が切断された。ジュリアンは勢いよく前に転倒する。
「うわぁ!」
走ろうとする勢いのままに顔面から地面にぶつかったジュリアンは、そんな声を上げた。
「う、うぅぅ」
そして、倒れたまま呻く。
リュドミラは、余りに無様な男たちの醜態に冷たい視線を向けた。
そのうちに、フョードルに止めを刺したアレクセイがリュドミラの近くに歩み寄った。
彼は、フョードルを攻撃しつつも、リュドミラの方に注意を向けており、何かあれば助けに入ろうとしていたが、その必要はなかった。
リュドミラは、未だに地に伏せ呻いているジュリアンを指さしてアレクセイに告げる。
「あれは捕虜にします。色々騒がれても面倒なので、喉を念入りに潰しなさい」
「畏まりました。公爵様」
そう答えたアレクセイは、続けてリュドミラに問いかけた。
「もう1人は、如何なされますか?」
リュドミラは、エドアルトへと視線を移す。エドアルトも蹲ったままだ。
「捕虜は1人で十分です。私が処置します」
そして、そう告げてエドアルトの方へと歩く。
エドアルトの近く来たリュドミラは、躊躇わずにエドアルトの右肩を細剣で貫く。
「ぐぅ」
エドアルトは呻き声をあげた。彼は絶望した。リュドミラが致命傷にならない右肩を突いたという事は、自分を一思いに殺す気はないという事を証明していたからだ。
予想通り、背中や腹などいたる所に、細剣が振るわれ、直ぐには死なない程度の軽い傷を作ってゆく。
「……!」
エドアルトは、ひたすら痛みに耐えた。
命乞いの言葉は口にしなかった。
今更、何をどう言ったところで、リュドミラの意志を覆す事など出来ない。そう理解していたからだ。
無駄な事はしない。それが、先ほどから無様を晒し続けているエドアルトの、最後の矜持だった。
そして、その矜持を守ったまま、死んだ。
エドアルトへの処置を終えたリュドミラに、アレクセイが声をかける。
「こちらの対応は済みました」
見ると、ジュリアンは両手両足を縛られ、地面に転がっている。切られた左足首も出血は止まっていた。回復薬を使ったようだ。
「うッ、ぐッ」
そして、そんなくぐもった声を上げている。
リュドミラが命じた通り、喉が潰されていた。
「では、野営地に帰りましょう」
リュドミラは静かな口調でそう告げた。
この間、桟道にいた王国軍も激しい攻撃を受け続けており、何ら有効な対応ができていない。全滅は必至の情勢になっている。
王国軍は敗れたのである。
リシュコフ公爵軍の野営地に引っ立てられて来たジュリアンは、屋外に作られた台の上にその身を晒されていた。
2本の柱が建てられ、その柱と柱の間に渡された横木に両手を縄で括られ、吊り下げられていたのだ。
ジュリアンを晒す台の上に1人の騎士が乗り、台の前に集まった兵達に向かって口上を述べる。
「皆の者、聞け! これは、怨敵ゲオルギイの子、愚劣なるジュリアン。前公爵様の仇の一人だ。
これより処刑を執行するが、公爵様は、格別のご配慮を持って、我ら全員に恨みを晴らす機会をお与え下された。
この者は、我らの手で石撃ち刑に処す」
「おお!」
兵士たちは歓声をあげてこの決定を歓迎した。
騎士が注意事項を述べる。
「一石投じたならば、他の者と交代せよ。そして、投げる石は余り大きくない物を選ぶように。より長く苦しみを与えるためだ」
ジュリアンは、必死に首を左右に振りながら、何事か述べようとした。
「うぅ、ぐぅ~」
しかし、潰された喉からは、そんな音しか出ない。
騎士はジュリアンの声にならない訴えを無視して台から降りると、改めて号令をかけた。
「始めろ!」
その言葉が終わると同時に、兵士たちから無数の石礫が放たれた。兵士たちは命令通り小さな石を選んでいた。
バラバラと、小石がジュリアンに浴びせかけられる。一つ一つの打撃はたいしたことはない。
それはつまり、ジュリアンの苦痛が、長く、長く、続く事を意味していた。
騎士がまた声を上げた。
「焦る必要はないぞ。死にそうになったなら、回復薬を使って回復させることになっている。全員で石撃つまで、終わらせることはない!」
ジュリアンの絶望は更に深まった。
思わずジュリアンが目を見開くと、その左目に小石が当たった。
「ぐぁ」
そんな声を上げると、その口の中にいくつもの小石が飛び込む。
「がはぁ」
ジュリアンは激しく咽る。だが、吊るされた状態では石を吐き出すことは出来ず、石は食道を傷つけながら下って行った。
ジュリアンは更に激しく身悶えたが、委細かまわず処刑は続けられる。むしろ、処刑は始まったばかりだった。
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