2
北に向かったらオアシスに着いた。
さっきは南に向かってしまったので、余分にモンスターを倒してしまった。
この辺りのモンスターレベルがわかったからよしとする。
オアシスと言っても本当に小さい池?水溜まり?が一つあるだけ。
その内枯れるだろうこれは。
幸い人が居ないからこっそり水魔法で水を足しておいてみた。
すると、元水溜まりだった泉の中からザバーッと女が出てきた。
ヤバい…こんな冒頭でもう魔法を使った所を見られたか!?
女は今の俺と似たカラーリングだ。
この流れは水系の女神的なやつか。
女が俺を見て微笑む。
「私を救っていただき、有難うございます。」
「枯れかけていたのかやっぱり。」
「はい、貴方は異界の方ですね?」
異界……正体がばれるような事はしていないにもかかわらず、そのワードが出てくるということは…。
「お前が俺を召喚したのか?」
「はい。私達です。私達は神に祈りました。私達の生命エネルギーと引き替えに。」
何らかの力を持った集まりがその命を賭けて祈りという名の力の発動をすると、俺を召喚などという奇跡が起こる事があるのか。
俺の召喚の原因はわかった。
「私達はこの世界の神候補です。」
「つまりこの世界には、まだ神は居ない?」
「いえ、一人だけ。その神が暴走して、この世界の全てから力を吸収し続けているのです。私達は全力で愛する生命達を守っています。でも、先程のように私の泉が枯れつつあったように、ほかの仲間の居場所も枯れて、力が殆ど失くなってしまいました。」
成程。
それで最期の望みを賭けて、この状況を助けてくれそうな人物を召喚したのか。
そんな状況じゃ怒るわけにもいかない。
召喚されたのがつくづく俺で良かった。
妻が召喚されていたら、この世界を滅ぼしていたのはきっと俺だっただろう。
俺は神としての姿に戻ると、周囲を闇の結界で覆い、外からの侵入や音漏れを防ぐ。
「あ…貴方は…!?」
俺の姿だか力に驚いた様子の女ごと水魔法で包む。
大技なので結界で隠してやらせてもらった。
魔法が消えると同時に俺はまたウェルナートに戻る。
「ああ…!力が満ちている。有難うございます、闇の神様。」
女は丁重に土下座する。
どうやら俺の正体がわかったようだな。
「礼がしたいのなら正式な神になった今、世界の安定に力を尽くすことだな。」
そう、泉の回復だけでなく、神様候補を正当な神になるまで力を注いでみた。
「あ、あの…それとは別に私個人のお礼を…。」
「要らん。神は礼を貰うために助けているわけではない、お前もそうだろう?」
「…そうですね。リタリアと申します。」
名乗ってない事に漸く気付いたらしいリタリアが名乗る。
「ウェルナートだ。」
「ウェルナート様…。」
俺は名前を呼ばれて少しだけブルーになる。
この姿をしている時、俺の妻が呼んでくれた呼び方……。
もう三時間も離れてしまっているんだな。
早く帰りたい。
「どうなさいました?やはり闇の神様とお呼びした方が?」
「そうだな。人が居ない時はそっちで呼んでくれ。」
呼ばれる度に俺が精神ダメージを受けてしまう事に気付いた。
「そうだ、リタリアは他の神候補や元凶とはテレパシーというか、精神的なもので会話なんかは出来ないのか?」
出来るなら解決は早い。
俺がそのテレパシーを乗っ取り、他の奴らの場所へ転移してしまえば簡単に片付く。
「私は今闇の神様にお力を戴いたので、言葉を送る事は可能でしょう。でも…他の者は力を失っているので、会話も…下手をしたら居場所の発信も出来ないでしょう…。」
受信元が故障みたいなものだな。
「暴走している神の方はどうだ?」
「逆に他の者から奪った力が在りすぎて、私などでは居場所を把握出来ません。あの者は自分の気配を隠して生命のエネルギーを吸い続けているのです。」
さすがに会った事も無い奴の居場所を辿るのは俺としても難しい。
地道にクエこなすしかないのか……。
リタリアにこの辺のマップを口頭で聞き頭に叩き込むと、最短ルートを考えながら、まずは一番近い街へ急いだ。
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