第7話 脳ミソはゴリラ以下だわ

「婚約者としてのファーストダンスが終わったんだから、交代ですよぉ。ね、シュナイパー様ぁ。シュナイパー様も、リリと踊りたいっておっしゃってましたもんねぇ」


 相も変わらず腕力ゴリラなリリスに捕まれた腕が痛い。地味に爪を食い込ませる嫌がらせはやめてくれ。

 これで「離して」とか言おうものなら私が悪役になるんでしょ? 分かっているから痛くても我慢するしかないとか、普通にしんどい。


「エリザベートを離せ」

「もう、そんなに心配しなくてもリリは無事ですよぉ」

「……大人しくするから、卒業パーティーだけでも出たいと言わなかったか?」

「うふふ。私を一人占めしたいからって牢屋に入れたけど、今度は出すタイミングを逃しちゃってたじゃないですかぁ。だから、一緒にパーティーに出ようって誘ったんですよぉ」


 すごい! こんなにも会話が成立しないなんて!!


 変に感心しながらも、シュナイパーと共にリリスに捕まれた腕を懸命に外す。二人がかりとか、本当に腕力どうなってるわけ?

 

 どうにか捕まれていた腕は外せたものの、そこは赤くなっていて爪が食い込んでいた部分は出血している。

 あぁ、あざになるな。なんて、ぼんやり見ていたら舌打ちが聞こえた。


「えっ?」


 子どもの頃と違って、品行方正なシュナイパーが舌打ち!? しかも、すんごい眉間にシワがよってる。目付きも悪いし、何かぶつぶつ言って──。


「執行猶予期間中の傷害罪は確定だな。どこまで罪を問える? 国外追放は確実にしたいよな……」

 

 あれ? すごい物騒な感じ? 修道院送りじゃダメなのかな? 私の精神衛生上、一番それがいいんだけど。罪悪感も感じなくて済むし。


「ねぇ、これって私が着る予定だったドレスですよね? なんで着てるの? 人のものを奪うなんて信じられない! ひどいわ!!」

 

 あぁ、もう! なんで静かにできないかな!? 空気も読めないなんて脳ミソまでゴリラなの!? いや、ゴリラに失礼だ。ゴリラなら危険予知ができそうだもん。ゴリラ以下だわ。


「返して! 今すぐ脱いで返してよ!!」

 

 今すぐ脱ぐとか無理だし、周囲からの視線はすごいし……。これどうするのよ。

 卒業パーティーなのに、先輩方には本当に申し訳ない。私が退場すれば治まるだろうか。

 

「シュナイパー様。私、退場しますね。このままでは、卒業パーティーがめちゃくちゃになってしまいます」

 

 けれど、私は腰をシュナイパーに抱き寄せられてしまい、退場を阻まれる。

 

「退場するのはエリザベートじゃない。そこの罪人だ」

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