第4話 飯テロLv1
称賛の声を上げる二人に、トモヤは振り返り声をかける。
「これでもう大丈夫だと思うけど……怪我はないか?」
トモヤの言葉によって我に返る二人。そして金髪の少女が荷台から降りてくる。
腰元まで伸ばされた金髪に青色の瞳が魅力的な美貌だった。
身に纏う服装も格式高い物で、身分の高い少女だということは分かった。
「あの、ルースが私を庇って怪我をしたんです!」
「なっ、お嬢様、私よりもまず自分の怪我を……」
「私はほんのかすり傷だから大丈夫よ。あの、薬草などは持っていませんか? 御代はちゃんと払うので少し分けてくださると助かるのですが……」
「いや、薬草は必要ない。患部を見せてくれ」
トモヤはルースと呼ばれた男性のもとに歩み寄ると、怪我をしている右腕に視線をやる。肉は抉れ血が漏れている。なかなかの大怪我だ。
そこでトモヤは既に知っている、確か船橋理子のステータスカードに書かれてあった治癒魔法を使用する。するとトモヤの手には白色の暖かい光が現れ、それがルースの腕に当たると瞬く間に怪我は消えていった。
「なっ、すごいです。身体能力だけじゃなく、こんな魔法まで使えるのですか?」
「まあな。ほら、次はそっちだ。ちょっとした怪我でも治しておくべきだぞ」
「……はい」
顔を赤く染めながら頷き、少女は手で髪の毛をよける。すると額には既に血は止まっているものの小さな傷があった。
女性にとって顔に怪我など重大なことだろう。なのにルースを真っ先に治してほしいと告げた彼女に、トモヤは尊敬の念と好感を抱いていた。
トモヤがその額の傷と、ついでに馬の傷までも治し終えると、少女は改めて一礼する。
「助けていただき本当にありがとうございます。私の名はシンシア・フォン・エルニアーチ。こちらが従者のルースです」
「ルースでございます。私からも感謝を告げさせてください」
シンシアとルースの言葉を聞きトモヤは一度頷いた。ルースは茶髪でまだ若く、仕事人としては伸び盛りといった雰囲気を受ける風貌だった。
「あの、それで、貴方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。俺は夢……えっと、トモヤ・ユメサキだ。トモヤでいいよ」
「そうですか。ではトモヤさんと呼ばせてください。私のこともシンシアと呼んでください!」
「……分かった、シンシア」
お互いの名前を呼び合うと何だかおかしくなったのか、トモヤとシンシアは顔を合わせ笑う。
既に日は落ち辺りは闇に包まれようとしていた。
それを確認し、ルースがトモヤに声をかける。
「トモヤ殿。立ち話をするには時間もあれですのでそろそろ野営の準備をするつもりなのですが、トモヤ殿も一緒にいかがでしょう? 重ね重ね申し訳ないのですが、実はいま私達には護衛がおらず、トモヤ殿に助けて頂ければと……もちろん謝礼は弾みます!」
「それは別にいいけど、護衛も付けず二人でこの道を通っていたのか? それは少し危機感がなさすぎじゃ……」
「いえ、その、実は深い理由がありまして」
野営の準備――と言ってもルースが荷台からテントのマジックアイテムを取り出し起動しただけなのだが、その間にトモヤはルースからどうしてあのような状況になっていたかの説明を受けた。
シンシアはエルニアーチ家という伯爵家の子女であり、ルガールに本邸を持っている。
貴族絡みの用事で王都までやって来て、今日はその帰りだった。
当然行き来には護衛を雇っていたのだが、今日に限ってはBランクのキンググレイウルフが現れたため、護衛たちは一目散に逃げて行ったらしい。通常、王都からルガールに至る街道には高くてもCランク上位までの魔物しか現れないのだとか。
その後ルースが一人で粘るものの限界が近付いているところに、トモヤが助けに来たのである。
「そりゃ、何ていうか、紙一重のタイミングだったな」
「ええ、本当に。トモヤ殿が現れて次々と魔物を倒す姿を見た時は、これは本当に現実かと疑いましたよ」
「私も同じことを思いました! トモヤさん、とってもかっこよかったです!」
「そ、それはどうも」
目を輝かせながら見つめてくるシンシアにトモヤは少しだけ気まずさを感じながらも応答した。
結局、目的地が同じということでトモヤは護衛としてシンシア達と共にルガールに向かうこととなった。
その後、テントを建てたトモヤは中で休む前に外に散らばる肉の破片に視線をやった。
聞くところによると、魔物の肉や毛皮は商品として売ることが出来るらしい。
そこでトモヤは異空庫――別の空間に物を保存するスキルを使用し、片っ端から中に放り込んだ。ちなみに異空庫はトモヤが重たいものを持ちたくないなーと思った際に現れたスキルである。
異空庫は相当珍しいスキルらしく、シンシア達はこれまた目を丸くしていた。
その後、トモヤ達はテントの中で食事を取ることになった。
トモヤは異空庫の中に入れていた袋から食料を取り出し、シンシア達も馬車の荷台を持ってくる。どれもが魔物の干し肉という非常食だった。
実は先程一口食べてみたがゴムみたいな食感で美味しいものではなかった。
「そうだ」
いいことを思いついたと、トモヤは新たにスキルを使用した。
創造――欲しい物を手に入れたいときに使う馬鹿げた程に便利なスキルである。ただし、完成品の出来栄えは使用者のイメージ力によって左右されるらしい。これから先このスキルを利用する機会は何度もあるだろうが、実物がある際はそちらを使用する方がいいだろう。武器などはその中でも顕著な例だ。
そのスキルでトモヤはフライパンを生み出した。
「それは何ですか?」
シンシアには、まさかトモヤが創造のスキルも使えるとは思えず、フライパンを異空庫から取り出したと思ったらしい。純粋に見たことのない物が目の前に現れたという事実に興奮している様子だった。
ルースも似たような表情をしている。
「いいからいいから、とりあえず今くってる肉をこの中に入れてみてくれ」
不思議そうな顔をしつつも、二人はトモヤに従う。
「じゃ、始めるな」
右手でフライパンを持ち、その下から左手で火魔法を使用する。
ぱちぱちと火花が弾け、軽く焼き色がついたあたりでひっくり返す。
もうしばらく時間がしていい頃合いになると、トモヤはそれぞれのさらに干し肉を戻す。
「でもって、これをかけて食ってみてくれ」
「これは、何ですか?」
さらに創造でマヨネーズを容器ごと生み出しかけるように指示する。
二人は恐る恐るといった様子でマヨネーズを絞り出し、干し肉を食す。
最初は疑う様な表情だったが、何度も噛むごとに目が輝き始める。
「トモヤさん! これ、すっごく美味しいです! 干し肉を焼くこと自体はしたことがありますが、こんな美味しい調味料を使ったことはありません! すごいです!」
「これは……信じられない値段がするものなのでは……」
「いや、別にそんな大したもんじゃないけど。喜んでもらえたのならよかったよ」
苦笑しながら、トモヤも自分で食す。
日本で普段食べていた肉に比べれば微妙だが、それでも先程とは比較にならないほどの旨味が溢れ出てくる。マヨネーズがさらに食欲を促進する。
結局、三人は満足したまま食べ終えるのだった。
◇◆◇
それから数日後、トモヤ達は冒険者の町ルガールに辿り着いた。
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