第10話 アリシア、国家間問題に巻き込まれる

「なんでステンソンが⁉」


 いや、うん、言ってみただけー。

 わかるよ?

 わたしの記憶を使って適当な人を投影したって言うんでしょ。わかるけど……もっとほかに誰かいたでしょ!


【どこかおかしいっすか?】


「しゃべり方ー! そこまでコピーして投影してるの⁉」


【人の感情を真似るにはこうするのが一番でやんす】


 わかるけどー!

 間が抜けてる見た目も、しゃべり方も……マジでヤンスだよ!

 完璧にコピーされ過ぎてて気持ち悪っ! 石でも積んどけコノヤロー!


『見た目はどうでもいい』


「でもヤンスですよ? さすがにこのシリアスな場面にそぐわないっていうか……」


「アリシア。この場はスークルに任せましょう。あなたの出番が必要な時にはそう伝えますから」


 そう?

 うーん。まあ、ミニィちゃんがそういうなら……。

 じゃあ、わたし暇になっちゃうから、スーちゃんがお話している間、ミニィちゃん抱っこしてても良い?


「おとなしくできるなら……良いですよ」


「わーい♡ ちっちゃくってかわいい♡」


 ミニィちゃんの背中側から、ぬいぐるみを抱っこするみたいにお腹を持ち上げてギュッと抱きしめてみる。……あれ? なんかミニィちゃん、さらに縮んでない?


「本体と切断されてから魔力の供給がないので、この分身体は少しずつ消滅に向かっているかもしれません」


「ええっ⁉ ミニィちゃん消えちゃうの⁉ そんなのやだよー!」


 わたしが代わりに魔力を送り込んだらいいのかな!

 でもどうやって?


「女神と人では魔力と言っても根本が違うものなのでそれは難しいのです」


「じゃあここから早く脱出しないとダメってこと?」


「そうですね。魔力のパスが戻れば分身体としての力を取り戻すことができるでしょう」


「よし、じゃあ早く出ましょう! スーちゃん、早くここを出たいです!」


『話がまとまってからな。しばらくお前たちは少し静かにしていろ。こちらの話がまとまらん』


 はーい。おとなしくミニィちゃんを抱っこして待ってまーす。

 うーん、早く出たいねー。どうやったら出られるんだろう。壁を壊す? でも壁ってどこなんだろう。女神様の魔力も遮断するような結界が張られてるってことだよねー。結界に触れられさえすれば、構造を把握できるかもしれないんだけどなー。


「ねぇ、ミニィちゃん。身代わり護符の結果が戻ろうとしてミィちゃんの本体と接続しようとした時、一瞬だけここの結界(?)に穴が開いたってことだよね?」


「おそらくそうだと思います」


「つまり絶対破れない結界ってわけでもなくて、うまく何かできれば穴は開けられるってことだよねー」


「一度は突破できているわけですし、そうなりますね」


 何で突破できるんだろうなー。

 力? 速さ? それとも呪の類?


 種類さえわかればいろいろ試してみることもできるんだけどなー。


「強硬手段に出るのは最後だと思いますよ。今はスークルが平和的な解決を目指している最中ですから、まずはそれを見守りましょう」


 ミニィちゃんがスーちゃんのほうに視線を向ける。


 スーちゃんとヤンス(殿)が何かを話している……。

 ここからは声が聞こえないけれど、和やかなムードってわけでもないけど、険悪でもなく……。ヤンス(殿)が真面目な顔でしゃべってる……。マジで裏庭で石でも積んどけよ!


「ねぇねぇ、ミニィちゃん。あいつらの正体って何だと思う? やっぱり他国の人?」


「そうですね。話を総合すると、どうやら隣国の王のようです」


 あ、そっか。ミニィちゃんはスーちゃんと直接会話ができるんだった。


「今わかってることがあったら、わたしにも教えてー」


「彼らは隣国の者たちで、これまで交流のなかった国に対して国交を求めているようですね。ただし、肉体を持たない思念体のような存在なので、肉体を持つ種族が治めるパストルラン王国との対話の仕方がわからなかった、と主張しているようです」


 思念体?

 幽霊みたいなものかな?

 そんな種族もいるんだね。世界は広いなー。


「でも対話をしたいだけなら、なんでわたしたちを閉じ込めるの? もう対話できてるじゃない?」


「どうやらそこは彼らが国交を求めている目的と関係しているようですね」


「目的?」


「彼らは自分たちの状況を、進化の限界と捉えているようです」


 なにそれ?


「はるか昔、肉体を捨てたがゆえに爆発的な進化を遂げたが、肉体を捨てたがゆえにこれ以上の進化を望めなくなった、と」


 何を言っているのかさっぱりわかりません!


「肉体を持つ種族との国交……種の交わりを求めているようですね」


 それってエッチなこと?


「……エッチなことも含まれるでしょう」


 いやん♡


「でもそれならなおさら疑問に思うんだけど、なんで女神様を捕らえるの? 種族的な国交なら現国王様のところにいけばいいじゃない?」


 女神様は肉体を持っているようで持っていないから、なんなら思念体というその人たちと近い存在では?


「彼らは最終的に国交を結ぶべき相手が誰なのかは理解したようです。結界を破壊したのはパストルラン王国の力を測るため。そこに現れた者が最高の力を持つ者だという認識の下、まずはファーストコンタクトを取ってみたかったということのようですね」


 まずは、程度で閉じ込められると困るんですけどね……。


「あれ? そうなると、イニーシャ様は? 最初に結界を修復に行かれたはずでは?」


「そこが問題を複雑にしているようです……」


「というと?」


「ここにいる『殿』は隣国の最高権力者の立場にあるようですが、どうやら国内に対抗勢力がいるらしいのです。イニーシャを、彼らの言葉では『かすめ取った』のはその抵抗勢力だと主張しています」


 うわー、ややこしい!

 つまりわたしたちは内乱に巻き込まれてるってこと?


「種の進化をかけた内乱に巻き込まれた、おそらくそれが正しい認識でしょう」


「戦争を仕掛けてきて捕虜にしようとしたんじゃないなら、解放してほしいなーって思うんですけどー」


「今まさにスークルがその交渉を行っているところです。協力できることはする。王国側と対話できるように便宜を図ることも約束しています」


「じゃあ待ってたらもう少しで帰れるね!」


「おそらくそうなるでしょう」


 スーちゃんが平和的解決を行った!

 戦いの女神様なのに、戦わずして勝っちゃうなんてすごいね!


 と、思った瞬間だった。


 目の前の空間に巨大な歪みが発生したのだ。

 

「え、これって身代わり護符の時のと同じ⁉」


 結界に穴が開いたってこと⁉ 急になんで⁉

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