第6話 アリシア、即死身代わり作戦を実行する
スーちゃんの身代わり護符を使って、お試しで死んじゃう作戦も保険にはならなそう!
ということは、結局一発本番しかないってこと? うーん、せっかくスーちゃんの信徒にもなれたのにいきなり死にたくないなー。
『ちなみに、半殺しでは身代わり護符は発動しないからな』
それって、ホントに死ぬ時以外身代わりになってくれないってことですか? なんかもうちょっと……大ケガをした状況を回避するとか。
『うるさいな。命が助かるほうが大事だろ。人の命は脆い。ケガの大小は治せばどっちでもいいし、死ぬこと以外気にしても仕方ないだろ』
女神様ってば、考え方がおおざっぱ!
大ケガだって死にそうなくらい痛いし、普通に回避したい事案ですからね⁉
『もういい、尺を取り過ぎだ! いくぞ、構えろ!』
尺って⁉ 急に何の話ですか⁉
うわー、ぜんぜん聞いてない!
なんかスーちゃんのこぶしが光り輝いて、周囲をめちゃくちゃに照らしてる!
やばい! スーちゃんが本気だ! 本気でわたしのことを殺そうとしてきてる!
「ま、負けないぞ!」
わたしもライトサーベルを発光モードの白から戦闘モードの深緑に切り替える。
『いや、待て……構えろとは言ったが、武器を構えろという意味ではないよ』
えっ?
『「えっ?」じゃないだろ。なんでお前、抵抗しようとしてるんだ?』
だってぇ、ただでは殺されたくないっていうか……。
『そこは素直に殺されておけ!』
えー、そんなに怒らなくてもいいじゃないですかー。
つい、冒険者としての血が騒いだだけなんですよ?
『意味不明なことを言うな。だいたいお前は冒険者じゃないだろ』
わたしは冒険者ですぅ。
左手の指を広げて、手の甲をスーちゃんに向かって突き出す。
これがギルド登録時に授かった、このAランクの証をとくと見よ!
『そういう張りぼてのステータスのことを言っているんじゃないよ……。本当にな……そういうところだぞ、アリシア=グリーン』
「どういうことですかー?」
急にフルネームで呼んだりして。それになんでさっきからすっごいため息ばかりつくんですか?
『人は形じゃない。中身が大切なんだ』
そう、ですね? それはわかりますよ?
『Aランクに認定されたから立派な冒険者なのか? そう言い切れるくらい冒険の経験があるのか? 功績を上げたか? 誰かの役に立ったか?』
うーーーーん。
『少しステータスが高いおかげで高いランクに認定された。ただそれだけなんだよ。そんなことくらいで決して偉そうにしてはいけない。お前はまだ何も成していないひよっこなのだということを忘れてはいけないよ』
そう言って頭に乗せられたスーちゃんの手は、とても温かかった。
何も成していないことくらい、わたしだってわかってますよ……。でもね、だからこそ、与えられた地位に縋りたくなるっていうか、そういうものを支えに生きないと、どんどん自分に自信がなくなってきちゃうっていうか。みんなから嫌われたくないな……。
『そんなものをありがたがって頭を下げてくるような輩は、どのみちお前の友にはふさわしくないよ。今はまだ経験がなくてけっこう。もっと堂々としていなさい。オレの信徒が何も成さずに命を終えることなどないよ。自分に自信がないヤツが大成するかよってなっ!』
っつつつ!
急に背中を叩かないでくださいよー。痛いですよ!
堂々と自信をもって、か……。
わたしは堂々として、何をしたらいいんですかね……。
背中が鈍い痛みを訴えかけ続けている。
『今は……死ぬことだな』
やっぱりそれ⁉ それって避けて通れないんですねっ!
「もう……痛く……しないでくださいね……?」
『目をつぶって羊の数でも数えていろ』
「それは寝る時のやつです!」
スーちゃんの右手のこぶしがより一層光を放つ。
わたしは目を硬くつぶって歯を食いしばる。まぶたを貫通してくる光が眩しい……。
ぅ、死にたくないっ!
『いくぞ、女神パ~~~ンチ!』
ネーミングが死ぬほどダサいっ! いやー、こんなダサい攻撃でホントに死ぬのっ⁉
………。
………。
………。
……あれ?
「女神パンチは……?」
『もうお前は死んだぞ』
えっ⁉
『お前が死んで、即時身代わり護符が使用された』
一瞬過ぎてわからなかったけれど……成功ってことですか?
『喜ぶのはまだ早い。空間が――開くぞ!』
わたしの頭上、30cmくらいのところに、魔力の塊のような、淀みのようなものが集まり始めている。
「これが空間の歪み、ですか?」
『これはお前の死んだ体、の身代わりだ。飛び散ったそれが集まってきている。集まり切ったその時、空間が開いて使用済みの護符がミィシェリアのもとに帰るぞ!』
うおー! これがわたしの身代わり! 魂の集まりみたいな感じね。ちょっと不思議……。
塊がだんだんと大きくなっていく……。
『くる! 空間が開いたら、羽根を使用してミィシェリアに呼びかけろ』
「はい! それからどうするんですか⁉」
『そのあとはオレがやる。ミィシェリアにつながったら、直接手で、引っ張ってもらう。お前も絶対にオレの手を離すなよ』
そう言って、スーちゃんがわたしの手を力強く握ってくる。
手に汗握る……。わたしの手のひらは汗でびしょびしょだった。だけどスーちゃんの手はさらさら……。
『ぼうっとするな、今だ! 羽根を使え!』
スーちゃんは自身の腕を、二の腕くらいまで空間の歪みの中に突っ込みながら叫ぶ。
「は、はい!」
ミィちゃん! ミィちゃん! わたしたちはここです! 返事してください! ミィちゃん助けて!
≪アリ……シア……≫
遠くのほうでミィちゃんの声が聞こえた気がした。
とぎれとぎれでちゃんとは聞こえない。でもミィちゃんの声だってことはわかる!
「ミィちゃん! わたしたちはここにいるよ!」
『きた! ミィシェリア! オレの手を掴め~! 引っ張ってくれ~! 力の限り!』
スーちゃんが空間の歪みから手を引き抜く。
ずるり。
スーちゃんの引き抜いた手とがっちり握手した状態の腕が生えてきている! これはミィちゃんの手だ!
「やったー! ミィちゃん引っ張ってー! わたしも魔力最大で引っ張るー!」
わたしは、スーちゃんとつないだ手とは反対の手で、みいちゃんの手首をつかみ、ありったけの力で引っ張ってみる。
『あ、バカ! お前は引っ張るな!』
えっ⁉
≪きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ≫
途端、ミィちゃんの悲鳴が脳内にこだまする。
『おわっ、力のバランスがっ!』
≪きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ≫
『いかん! 戻せ!』
戻せ……戻せって⁉ どうやってですか⁉
『うわっ、ダメだ! こっちの力が強すぎる! 引っ張り過ぎた! 離せっ!』
スーちゃんが空間の歪みから生えた白い手を離し、その場にドシンとしりもちをつく。手を離したことで歪みが収束が加速し、音もなく閉じていく。
ちょっと! 穴が閉じちゃう!
空間の歪みが完全に閉じる最後の瞬間――なんとミィちゃんが穴から転がり出てきた!
「あぁぁぁぁ! 何をするんですかっ! 無理に引っ張って……ああっ、私こっちの空間に⁉」
わたしの目の前には、ミィちゃんがいて、ヒステリックに何かを喚き散らしていた。
もしかして、これは夢……?
「ホントにミィちゃん、なの?」
遠慮がちにミィちゃんの手に触れてみる。
触れる……幻覚じゃない!
「ミィちゃんだ! ホントに会えたー!」
思わずミィちゃんに抱きついて、現実を確かめてしまう。柔らかいよー! ミィちゃんだ、ミィちゃんだ!……ん、謎の違和感?
「あれ? ミィちゃん……なんか小さい……」
ミィちゃんの体がありえないくらい縮んで……?
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