第12話 レイジ 継続できる?

映画は口コミ評価とたがわず、とても面白いものだった。


スクリーンからの明かりに照らされ、虹色に輝くエルの横顔。時折クスクスと笑う仕草。合間に、頬と頬が付きそうなくらいにして小声で交わす会話。


永遠に続いてほしい至福の時。幸せ過ぎて涙が出そうになるよ。

よし、映画が終わったら俺の気持ちを伝えよう。



エンドロールまで見終わり、場内が明るくなってから外へ出た。


「今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ」

「初めて来たんですけれど、映画館って楽しいですね」

「映画館が初めて?」

「はい。一緒に来たのが均さんでよかった」

「そうだったんですか。でも、喜んでもらえてよかった」


若者全員が映画館に行くとは限らないが、それでも初めてって...いったいこの人はどういう環境で育ってきたんだろう。エルのことを知りたい。もっと一緒の時間を過ごしたい。



よし、今こそ! 俺はぐっと腹に力を入れる。



「エルさん、また会ってもらえませんか。それと連絡先も教えてもらえると嬉しいです」


真っすぐにエルの顔を見て伝えた。すると、さっきまであんなに楽しそうだった表情がみるみるうちに曇った。


「ごめんなさい...」


顔を伏せ小声のエル。今まで見たこともない、とても切ない顔をしている。


「しばらく会えないんです。連絡も取れなくなります」




(田舎の親が大病して手術代が必要になったとか言うんじゃないか?)


以前の俺だったら、きっとそんな穿うがった答えを予想したかもしれない。でも、目の前のエルを見ると、本当に悲しそうで、とても演技をしているようには見えない。


「しばらくって会えないって、いつかまた会えるということですよね」


もう会えないことへの言い訳なのかもしれない。俺はそれでも食い下がる。安っぽいプライドもカッコ付けも要らない。


「三か月...三か月後にまたお会いできませんか?」

「また、会えるんですね」

「はい、約束します」


少し涙目のエルが言った。永遠のお別れじゃない、また会えるんだ。こんな時、あの先輩ならきっと笑って答えるだろう。


「俺は今まで二十五年間もエルさんに会わなかったんだから、三か月くらいすぐです。また会えるのを楽しみにしていますね」


俺が大きな声で答えると、ようやく笑顔になったエルは、深く頭を下げゆっくりと去っていった。



「to be continued」


まだ俺は、まだ俺たちは終わっていない。まるで映画のエンディングだね。




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