第二十二話 魔性の姉妹と豹変した正義
紗央莉と沙月が異変に気付き正義を囲んでいる仲居たちの人垣をこじ開けて正義の前に出た。
浴衣姿の紗央莉と沙月が正義の浴衣を急いで拾い、正義をその中から救い出し大広間に連れ出す。
女たちは、正義の褌姿に驚きを隠せないで声をあげるところだった。
沙月が、正義に浴衣を着せ部屋から連れ出そうとしたところ、桜恵子が正義の前を塞ぎ仁王立ちになって制止した。
そこへ紗央莉が手にした扇子が伸びて、正義が耳にしたことのない恫喝と同時に恵子の手を激しく弾く。
叩かれた恵子の素手が赤く腫れていることを正義は目撃した。
桜恵子を制止出来る人間などいないと京子は思っていたからだ。
ただ、石和田温泉の噂で伝説の魔性の姉妹のことを耳にしたことがあった。
しかし、紗央莉と沙月はこの街の人間には見えない。
「まさか・・・・・・ 」
京子は無意識に狼狽え、か細い声を漏らしてしまった。
紗央莉と沙月の眼光が獲物を狙う狼のように桜恵子を見ていた。
漏れた声を気付かれずにほっとする京子だった。
「紗央莉さん、沙月さん、ご無沙汰しております」
恵子が丁寧に詫びている。
桜恵子は、紗央莉の素早い動きに気付き、石和田温泉の伝説の噂を思い出した。
刹那、背筋が凍り付く遠い記憶を辿りながら畳に両手と額を付き伏せた。
恵子は他人の空似かと軽く流した自分を恥じている。
茜咲京子は、紗央莉の前で土下座する桜恵子を初めて見た時、恐怖を覚えて伏し目がちになった。
「恵子、元気そうで良いな」
どすの効いた声色に桜姉妹たちにも紗央莉のヤバさが伝わった。
茜咲京子は、ババ抜きのジョーカーを引いたことに気付き、桜恵子に責められる自身を想像して二度気が滅入る。
「恵子、裸になれよ」
紗央莉の声に沙月は無表情な笑みを浮かべて言った。
「恵子さん、紗央莉を怒らせたわね」
「そんな、沙月さん」
「紗央莉が言っているから、今のうちよ」
「分かったわ」
恵子が浴衣の帯に手を掛けた時だった。
状況を察した仲居たちが急いで桜恵子を囲み浴衣を剥ぎ取り下着姿にさせた。
恵子のシルクスリップが窓から入る日差しで白い光沢がキラキラと輝く。
色白の肌を隠している水色の下着がスリップから透けて見えていた。
紗央莉は仲居のひとりに低い声で言った。
「全部だ」
恵子は仲居によって、その場で全裸にされた。
仲居から渡された黄色い手拭いを腰に当て急いで陰部を隠す。
別の仲居が桜恵子の下着と浴衣を片付けていた。
桜恵子が妹たちに言おうとした時、沙月の普段と違う声が耳元に聞こえた。
「恵子さん、湯浴みになって、内湯で背中流して頂戴」
沙月と桜恵子が内湯に浸かり、梨恵、織恵、桜夏美が続く。
湯船には白い湯浴み着を着た女たちが溢れていた。
紗央莉は正義の背中を押して内湯に入れさせ、桜夏美を呼び付ける。
「正義の背中を流してあげて」
「わたしですか」
「他に誰かいるか」
紗央莉の不機嫌な声に桜恵子が慌ててジェスチャーで夏美に合図をした。
十人の仲居は着物から赤い湯浴み姿の湯女になっていた。
紗央莉と沙月は、烏の行水の早さで温泉を出て浴衣に着替えた。
紗央莉の残忍な本性を知っている桜恵子は心の中で失態を後悔した。
湯女姿の仲居が剥き出しの下半身を露出させて正義の前で御膳を並べている。
正義の視線が泳いでいるのを紗央莉と沙月は見逃さなかった。
「正義さん、あそこ元気」
「沙月さん、頭と下半身は別の生き物ですから誤解しないでください」
沙月は仲居のひとりを呼び正義の相手を目の前でさせた。
正義が拒絶する暇もない内に、湯女姿の仲居が慣れた手付きで正義の下心の作業を終え下がる。
沙月は、横で見物して満足して正義の真っ赤な顔を見て楽しんでいた。
「沙月、正義は元気かな」
「まだまだ大丈夫です。じゃ宴会を始めようか」
紗央莉の声を聞いた恵子が気を利かせて仲居にコンパニオン衣装になるように命令した。
仲居たちがセーラー服姿に着替えてお広間に戻り、紗央莉たちに地酒をお酌する。
酒の弱い正義は、桜夏美にお酌されて茹蛸状態になった。
「正義さん、大丈夫ですか? 」
夏美の声に沙月が反応して言った。
「正義さんは、お酒が弱いのよ」
「沙月さん、知らないでお酌してしまいました」
「沙月、正義は生きているか」
「いえ、意識混濁しているみたい」
「酒に入れた薬が多かったか」
紗央莉は大笑いして、コンパニオン衣装の仲居に隣室の小部屋に布団を用意するように指示した。
意識を失い掛けている正義を仲居が四人がかりで隣室の布団の上に寝かせる。
紗央莉は、恵子と夏美に酔い潰れた正義の相手を命じた。
再び仲居に全裸にされた恵子は、大きな乳房を揺らしながら夏美と一緒に隣室の小部屋に消えた。
彼女たちが吸血鬼の種族に対立する吸精鬼であったことを・・・・・・。
京子は仲居の一人の瞳が赤く変貌する瞬間を瞬時に捉えて紗央莉に知らせた。
茜咲京子は十人のコンパニオンの異変に気付気付き妹たちに呟く。
「あの子たち、目が赤くなっているわよ」
「姉さん、あれ、噂の吸精鬼よ、きっと。
ーー 男性ホルモンの臭いに反応するって聞いたことあるわ」
「それ、危ないの」
「分からないわ。噂よ」
吸精鬼になり掛けたコンパニオンを京子が退室させ、別の十人と交代させ紗央莉に報告した。
「そうか、じゃ、恵子と夏美の手伝いに隣室に行ってくれ」
京子は、紗央莉が極道の娘なのかと勝手に想像しながら、真っ暗な隣室の襖をゆっくりと開け言った。
「失礼します」
狼のように豹変した正義が夢遊病者のように恵子と夏美を相手している。
目を閉じたまま無意識だけの正義は吸精鬼の仲居たちと変わらない獣になっていた。
正義が京子に気付いた瞬間、褥に倒れた。
「恵子さん、大丈夫ですか?」
「ああ、この坊や、意外と曲者かもしれないね」
真っ暗な部屋の中で正義の汗に濡れた恵子の肌が光っている。
夏美は、恵子の汗を拭いていた。
「京子、休むから、交代だ」
恵子が言った。
紗央莉と沙月は、セーラー服コンパニオンのお酌で地酒を煽って飲み干す。
「沙月、まだ時間が早いな」
「そうね、姉さん、あの狼男が目覚めないことを祈るわ」
正義は、再び、鼾を上げ始めた。
夏美が団扇で正義の顔に風を送っている脇で、京子の浴衣の帯が畳にするりと落ちて衣擦れの音を残した。
大広間の大きな窓から夕陽が差し込んでいる。
薄紫色のレースカーテンの斑模様が畳に色彩の明暗を浮かばせた。
ホテルあかね柘榴の天狗の間の大宴会は、始まったばかりだった。
「沙月、次は、何がいい? 」
「紗央莉姉さんにお任せします」
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