第7話 狐と巫女と大稲荷の問題点
願い事を一通り叶え終わった後、本殿の外がにわかに騒がしくなっていることに気が付きました。
耳を澄ましてみると「巫女様、本当にお狐様がここに?」とか「また拗らせているのでは」など好き放題に話している声が聞こえます。
「バレなければこっそりいなくなる予定だったのですが、運が悪かったですね」
ラティスは残念そうにそう言いますが私はそんなに会いたいのだろうか? と別のことを考えていました。
そもそも私たちに会ったところで得られるものは何もありませんし、会えたという実績の解除くらいしかできそうにありません。
まぁそんな実績項目はありませんけどね。
「おーきーつーねーさーまー! あーそびーましょー!」
「巫女様。小さい子ではないのですから」
「私まだ10歳ですけど?」
「お狐様のほうがです。いい大人だったらどうするのですか」
「さっき見た限りですと小さい子でした! 私のお狐様センサーによると12歳から15歳といったところですね」
「十分大人ではございませんか」
「お狐様の年齢は人間の年齢とは違うと聞きますよ? おそらく1歳か2歳といったところでしょう」
「そんな馬鹿な……」
「お狐様のことを履修してからもう一度意見をお願いします。何でしたら私が作ったお狐様参考書をお渡ししますけど?」
私たちを放っておいて外はとても楽しそうです。
というかお狐様参考書とか履修って意味が分からないです。
地味に当たってるのが怖いんですけど?
それにしても、もういい加減どうにかしてしまいましょうか。
うるさくてたまりません。
「ご主人様、私が先に出ます。すぐ黙らせますからその後お話しください」
「あ、はい……」
何やら黒いオーラすら見えるラティスにすべてを任せることにして、様子を見ることに。
ラティスはとことこと障子の前まで行くと勢いよく開き、こう言ったのです。
『人の子よ、黙して謹聴せよ』
その瞬間、巫女含む神職の人たちが一斉に静かになりました。
さすが創造神の地位にあるだけありますね!
「ご主人様、どうぞ」
「え? あ、はい……」
突然のことなので何を話すかまったく考えてませんでした。
まぁとりあえず無難なところから……。
「ここで見たことは他言無用です。後に私は自領に戻ります。公儀にはその旨を伝えておいてください。さて、こちらの用件はそれだけですが何か質問はありますか? 2つだけ受け付けます」
ここで呪縛が解けたのか、さっそく巫女が手を上げました。
そしてーー。
「お狐様は許嫁はいますか!? いなかったら私が立候補したいです!」
「ふぇ!?」
「み、巫女様!?」
本気かは分かりませんがずいぶんと大胆なことを言う人です。
見てみなさい、周りも大慌てじゃありませんか。
まぁ黒髪狐耳美少女に想われるのも悪くはありませんが。
「許嫁どころか結婚可能年齢はまだ数百年先です。立候補されても寿命が足りませんよ?」
「くっ!」
やんわりお断りするととても悔しそうにしていました。
残念ですが寿命増やしてから再挑戦してくださいね。
「じゃあまずは眷属にしてください!」
「巫女様!?」
「周りも慌てているので許可が出ない限りはダメです。まずは公儀にお尋ねください」
「むむむ……」
「巫女様、大人しくしていてくだされ。公方様に申し訳が立ちませぬ」
「父上ならすぐ了承すると思いますけど?」
「そういう問題ではございません」
この人たちはすぐにあれはダメこれはダメというのですから、困ったものです。
許可が出れば構わないのですから聞けばいいだけではありませんか。
「ほかになければ戻りますが」
「はい! お狐様の真のお姿をお見せください!! 今の変化した姿も愛らしいですけど!!」
「そういえば今更ですが、本当にこの人間の少女がお狐様なのですか?」
「しかし本殿まで来ているということは間違いないでしょう」
「しかし見れば見るほど地味と言いますか……」
私の真の姿が見たいという巫女の言葉は良しとしますが、神職とはいえ外野に容姿についてとやかく言われるのは気に食わないです。
たしかに、お姫様たる黒髪狐耳の巫女はとても可愛らしいと思いますし、私より5cmくらい身長高いように見えます。
なんだか悔しい気持ちになりますね……。
「貴方方はお狐様に失礼だと思わないのですか? といいますか、お狐様を見てお狐様と感じられないのならなぜここにいるのですか?」
「いや、それは……」
「わ、我らは巫女様ほど神気を感じ取る力が強くはなく……」
「もっと神々しさを求めていたといいますかなんといいますか……」
各々口々に言い訳じみたことを言い始める始末。
これは大稲荷の改造が必要でしょうか。
とはいえ、ここは大きな稲荷。
相応に権力がある場所でもあるようです。
「わかりました。これでいいでしょうか」
黒髪の少女の姿から元の青銀色の髪の妖狐へと戻った私。
室内でもうっすら光を反射して輝く髪がお気に入りです。
まるで今はいないお父様のようだからです。
「うわわ……。そ、想像以上です……」
「ま、まぁこれならそこそこ……」
「しかし珍妙な色合いですな」
ああ言えばこう言う人たちです。
たしかに黒髪がほとんどのこの江戸では目立つかもしれませんけど……。
獣人には茶色い毛の子もいた気はしますけどね。
「お供の方は目も眩むような金の髪なんですね!」
「これでも私も神の一柱ですので」
「まさかラティスがちゃんと答えるとは思いませんでした」
「ご主人様、ひどいです……」
何やらわちゃわちゃしていますけど、巫女の要望は叶えられたようです。
でも色眼鏡で見る男性陣には少々思うところもありますが……。
「では、公儀への通達はお願いします」
「それではご主人様、参りましょう」
「行きましょうか。ラティス」
こうして私たちは本殿から妖精郷へと直接渡ったのでした。
「それにしてもあの物言い、許しがたいです」
「ラティス。人とはそういうものですよ。ただ大稲荷、私の管轄で権力を握られるのは不愉快です。稲荷は身分関係なく過ごせる場所にしたいですから」
今はまだいいですがいずれは。
妖精郷を通り領地へと戻ってきた私たちは思わぬ変化に驚くことになりました。
まさかあの短時間でこのような変化が起きるとは……。
「ご主人様~! お帰りなさいませ~!!」
「ご主人様お帰りなさい」
「ご主人おかえりなさい」
「ご主人様おかえりです!」
「はい、ただいまです。それにしても……」
離れていたのは短時間でしたが、社は奇麗に修理されていて、なおかつ井戸が出来ていました。
いつの間に掘ったのでしょうか。
「井戸、掘ったんですか?」
社横にある井戸を見ながら私がそう言うと、4人は嬉しそうに笑っていました。
「ご主人様がお風呂に入りたいとおっしゃっていたので~!」
「お社の裏にお風呂作りました」
「とりあえず薪で焚くタイプです」
「湯船は木製。竈は石製です!」
「へぇ~」
「こちらです~!」
自然霊たちに案内されてそのまま社の裏手に回る。
するとそこにはいつ建てたのかわからない大きめの小屋が建っていたのでした。
「短時間なのにすごいですね……」
「中はこうなってま~す!」
小屋の中を見るとそこには広めの湯舟がありました。
おそらく6人くらいは入れるのでしょう。
「みんなでお風呂に入りたいです~!」
「お風呂は大事です」
「ドワーフはお風呂好きです」
「でももうみんないないんです~」
「うっ……」
どうやら過去の記憶を持つ彼女たちは思い出してしまったようです。
でもこのままじゃいけませんよね。
「ご主人様、こうなったらみんなで一緒に入りましょう」
「う? う~ん……。そう、ですね。わかりました」
「やったー!」
「ありがとうございます」
「ご主人、大好きです」
「またみんなで入れる嬉しいです!」
一時は重い空気が漂っていましたが今はみんな楽しそうです。
いつかは残ったドワーフの子たちの魂を集めなきゃいけませんね。
新しいお風呂を前に、私は新たに決意したのでした。
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