第2話 建築と採集と自然霊

 転移初日の開拓状況は古びた社の調査と草むしりだけで終了。

 その日の夜は焚火をしつつ二人で持ってきたご飯を食べました。

 ちなみに私は調理ができるのですが食べたのは自宅で作っておいたお稲荷さんです。

 うまし。

 

 そして雑魚寝をして二日目の朝。


「トイレどうしましょうか。一旦地下深くに穴を掘るとか?」

「異世界の定番と言えばスライム処理ですけどスライムはこの辺りにいません。まぁ結界のせいなんですけど」

「あー……。そうでしたね」


 この世界のうち、東方世界である日ノ本は街中に魔物が沸くことはありません。

 また小さな村であっても襲われる心配がないのです。

 ただし街道を外れたり森の中に入ると別ですが。


 理由は簡単で、各村や街には中心部と寺社仏閣に必ず守護水晶が設置してあるからです。

 村や街には所謂お稲荷さんと呼ばれる小さい社が設置してありますが、あの中にも守護水晶があります。

 それぞれの村や街にある寺社仏閣にある守護水晶はそれぞれ連動していて、朝昼晩の祈祷でその効力を保っています。


「作りましょうか? スライム」

「いえ、恥ずかしいので別の方法を考えます。今は深めの穴を掘って対応しておきましょう」


 よくある手法を取るには私では覚悟不足なようでした。

 トイレは2つ用意しておきましょう。

 個別にあったほうがいいですからね。


「し尿処理場は別に用意しなければいけませんね。いつまでもこのままというわけにはいきませんし」

 

 でも実際に作るとなると相当大掛かりな施設になりますし、自作というわけにもいきません。

 どうしたものかと考えているとラティスが空気を読まない提案をしてきました。


「でしたら上空にある中継艦に転送して処理してもらえばいいと思いますよ? 人類のし尿はそれぞれの処理方法に任せるとして、影響がありそうな私達の分は適切な設備に送るべきです」

「ぐぬぬ……」


 スライム処理ができない理由の1つに恥ずかしいというのもあります。

 ですがそれ以上に懸念しなければいけないのは、妖種のし尿は微量ですが妖力を含んでいるという事実です。

 つまり、スライムで処理させると妖かしになったスライムが生まれかねないというわけです。


「妥協、しますか……」

「そうしてください。アレモコレモというのは流石に無理がありますので、せっかく使える権利があるのですから使ってしまいましょう」


 こうしてトイレ問題は速やかに解決されたのでした。

 ちなみに、この惑星の衛星付近に中継管理艦という巨大な宇宙船が停泊しています。

 この艦はこの惑星を含む恒星系全体を監視していて、私がこの世界を作った際にお父様によって配置されたものでした。

 大きな問題が起きた際には支援を受けられる他、私が生産した物品を購入してくれたりもします。

 ターミナルステーションでも同じことができますが、あちらの話はまた次の機会に。


「ところでお父様は?」

「グランドマスターでしたら現在は別の宇宙で実験をしている最中です」

「となると、また会えるのは5年は先でしょうか」

「いくら寿命らしい寿命がないとはいえ長すぎますよね」

「あはは……」


 とりあえずトイレ事情はご都合主義的解決ができたので社の修理を始めたいところ。

 多少のことはわかりますけど専門的なことはわからないのも悩み。

 まずは持ってきた端末で簡単な拠点の作り方を観てから見様見真似で作ってみましょう。


「穴を掘るか細い木を見つける。どちらがいいですか?」

「私たちの体躯ではどちらも現実的ではないように思います」

「残念です」


 私が観ていた動画は某クラフトゲームさながらの建築動画でした。

 最初に見たのは穴を掘るタイプ。

 穴を掘って石を敷き詰め、水と土と繊維で作った泥で隙間を埋めたりする感じのやつです。

 その次に観た動画は細めの丸太を林から回収して家を建てるというもの。

 どちらも半地下の、いわゆる竪穴式住居に近いものでした。


「天気は悪くならなさそうですし、今夜も社ですかね。とりあえず素材集めのお手伝いを作ってしまいましょう」

「お手伝いします!」


 二人での拠点作製は断念して一緒にお手伝いしてくれる従者を作ることにしました。

 私が源となる妖力を生み出し、ラティスが受け取るための自然霊を周囲から探して用意します。

 この2種を組み合わせて私から力を与えて形を成型すると人型従者の出来上がりです。


「ご主人様~! 作っていただきありがとうございます~」

「なかなか可愛らしい子が出来ました」

「よろしくお願いしますね~」


 生まれた人型自然霊の従者は10歳くらいの女の子でした。

 間延びした話し方と黄緑色の髪が特徴的なショートボブの女の子です。

 体躯が似通ってるけど大丈夫でしょうか。


「よろしくお願いします。ところで近くにある木を切ったり運んだりってできたりします?」

「はい、問題なくできます~!」

「おぉ、ようこそ! ウェルカムです!」


 ようやく私たちの待ち望んだ子が生まれたようです。

 ところで同じような体躯ですが、どうやって運んでくるのでしょうか。


「ではさっそくですが木を伐採して生木を持ってきてください」

「は~い!」


 生まれたばかりの自然霊の子はそう返事をするとふわふわと浮いて近くの林へと飛んで行ってしまった。

 様子を見るために後を追いかけてみると、一本の木の前で止まっている姿を見つける。

 どうするんでしょう? そう思っていると何やら小さな両手を突き出し、空気の渦のようなものを生み出していました。

 そして。


 フォンという音と共に空気の渦が木に当たり通り抜けていきます。

 その後少しずつ木は傾き、やがてドスンという音と共に倒れてしまいました。

 どうやら自然霊の力のようです。

 周囲に妙な力の汚染もなし。

 これなら色々とお願いできそうです。


「ご主人様~! 切り倒し終えました~」

「お疲れ様です。後は運んで乾燥させたいところですね」

「乾燥くらいでしたら私たちでもできそうですよ?」

「自然霊の子、お願いできたりします?」

「おまかせくださ~い!」


 どこまでできるか気になったのでラティスの提案をあえて無視して自然霊の子に話を振ってみました。

 どうやらそちらも対応できる様子。

 となると、今後お願いできることは確実に増えそうですね。

 現状私たちが直接力を使うと無視できない影響が周囲にでるので、お願いできるならそれに越したことはありません。

 今後は自然霊の子にお願いするか、私たちの力と相性のいい巫女を探すしかありませんね。


「運搬運搬~。乾燥乾燥~」

 

 自然霊の子が切り倒して枝払いした丸太を空中に浮かせて運んでいく。

 その途中、頭上で丸太がくるくると回っていた。

 言葉通りだとすると乾燥しているのだろう。

 私の力が若干減っているのでまず間違いないはず。

 

「ご主人様、あの子器用ですね」

「生まれたばかりとは思えない器用さですよね。あ、あとで建築出来そうな子も生み出せるか試してみましょうか」

「それは良い提案ですね。さっそく試してみましょう」

「ふんふ~ん。良い感じに丸太が乾燥してます~。ご主人様~。どこに置けばいいですか~?」

「じゃあ社前にお願いします」

「は~い」


 嬉しそうに返事をし楽しそうにゆっくり丸太を下ろす。

 軽くコンという音が響いたので乾燥できていそうではある。

 う~ん、器用な子ですね。


「よいしょっと~。ところでこの丸太をどうすればいいのでしょうか~?」

「建築出来そうな子を作ってみようと思うのでその時になったらサイズに合わせて切ってください」

「は~い! あっ、建築出来そうな子は知ってます~! ずっと昔から人間さんの建築を見ていた子がいるんです~」

「おぉ? これは思わぬ新情報!?」

「いいですね。その子をリクルートしましょうか」

「じゃあ連れてきます~」


 そう言うと自然霊の子はどこかへと飛んで行ってしまった。

 ラティスが選ぶ必要はなくなったのでラティスには連れて来てもらった子の調整をお願いしておきましょうか。


「ラティスは受け取る力の調整お願いしますね」

「お任せください、ご主人様」


 こうして私たちは早くも次なる予定を立てるのでした。

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