いつか見た努力の証

あの日から俺は常に自分のスタイルを磨き続け、遂に今日師匠に届きそうな時が来た!!


 「よろしくお願いします!!!」

 

 今日も今日とて何事もなく試合が進む七戦を終えた所で五勝ニ敗と勝ち越しまで後一本と最大のチャンスを迎えた。

 浮かれたわけではないが、この後の八本目はあっさりと負けた。

 そう易々と勝たせてくれる相手ではない。


 「落ち着いて、よく見てカウンターを」

 「九本目初め!!」


 師匠の合図と共に剣を構える。

 始めた時に比べたら構えも姿勢も様になっている。

 隙のない構えに、詰め方も落ち着いている。

 

 この展開になると、そろそろ師匠が、動き出すから、それを受け流してからのカウンターで一本を狙う。

 少しずつより大胆にそれが俺流の剣舞だ。


 あれ?攻めて来ない。

 いつもはこの距離感になると大体俺の胴体を狙って斬りかかるのがいつものセオリーなのだが、今日はいつもと違うって訳か、なら俺はそれに順応してみせる!


 ジリジリと詰め寄り自分が、トップスピードで斬れる最高射程を見極めろ、その瞬間こそ俺の勝ち筋になる。


 3、2、1、今だ!!


 俺の最高速度で速度を落とさず一気に胸元まで急発進する。

 勝った。

 俺は完璧な間合い完璧なスピードでとどめを刺す。

 

 「俺を誰だと思ってる」


 俺が師匠を斬ろうとしたその瞬間に上空に飛び跳ねる。

 空振りしてしまった。

 完全に想定外だ。そんな事ができるのか、俺は衝撃を受け大きな隙が生まれる。

 だが、まだ負けていない。慌てて俺は上を振り向いて剣を構えようとするが振り向いた時には師匠の剣は俺に当たっていた。

 負けた、、、5-4もう後がないラスト一本これまでに無いチャンス無駄にするもんか、


 「落ち着いて、焦ってる」

 「ルド?」

 「勝ち急いじゃ駄目だよ。今日負けても明日がある明日負けても明後日があるんだ。

  いつか、勝てれば良いんだよ」

 「それじゃ駄目なんだよ

  分かってんだろ?

  明日があるその考えで生きるのはもうやめだ

  「今」勝つんだ、「今日」勝つんだ

  負けると言うのは死ぬと言う事なんだその考えで俺は死にたくねえ」

 

 「そうだその考えださあラスト一本始めよう!!!!」

 「…お願いします」


 最後の試合は今までとは対象に両者ともすぐに突撃しあった。

 その勝負は一瞬だった─────









 俺の勝利だった。

 師匠は俺に手を抜いたと言うわけではなかった。

 いつもの動きとは大きく異なっていて、側から見たらそう見えるかもしれないが、二年以上戦い続けて来た俺が言ってるんだ。万に一つとして手を抜いたと言うことは無い。

 しかし、俺は遂に念願の勝ち越しをしたのか、、、思った以上に脱力感が無い。


 「良い表情になったなレイおめでとう」

 「あ、ありがとうございます」


 「おめでとう」の一言で急に疲れがどっと来た。

 これは二年間の疲れだろう。

 俺は勝てないんじゃ無いかと言う不安と、焦りが、あって前世の怠惰が抜けきれていなくて、それでもまだ俺はこんなんじゃ駄目だって立ち上がり続けた。

 これで遂に前の怠け者の俺とはおさらばだ!!



 「もう俺が師匠として、レイと特訓することは無いと思うが、また一冒険者として、共に依頼を受ける事になったらまた今日見たいな勝負しような」

 「え、」

 「俺は忙しいからな。ま、また会おう。」


 そう言って、すぐにこの場を後にしてしまった。

 負けるからあらかじめ、予定を入れていたかのように。


 俺は片手を上げて、「勝ったんだな本当に」

 一人になって、勝ちをより実感する事ができた。

そして、いつもの通り宿に戻ると、初めて会った日に貰った剣に似ている剣と手紙のようなものが置いてあった。


 「この手紙を見たと言うことは君が俺に勝ったと言うことだ。大体五年位かかったか?」


 二年程で勝たせていただきました。

 

 「まあ本音で言うと一年ちょっとか?

  初めて見た時にこいつのオーラは前、学校にいた時の俺に似ていると感じたから呼び止めたんだ。

  悪かったな、、ほっとけなくてな。

  でも、目だけは俺と違ってた。余裕が無くて死に物狂いで、正直カッコよかったぜ

  これでお前は一人前の男になった

  あとは自分の努力次第!

  だが、俺は君を心配していないその努力さえあれば君は何にだってなれると、思う以上!!!

  あと、目の前に置いてある剣は初日頼んできた物だ

  大切に使ってくれ」


 俺はその手紙を見た後その剣とやらを手に取り、鞘から抜くと、前とは比べ物にならないほど作り込まれた鉄に、握りやすい持ち手、俺の為にここまで、、感謝が止まらない。


 「あ、名前」


 前に「R」と書いてあった所には、、


 「R×L」に彫られていた。


 「覚えていてくれたんですね俺の変な話」


 俺は変な事だと自分でも思いながら話していた、転生と本体の話を信じてくれたんだ。

 弟子だからかもしれないが、



 「ありがとう、、ございます、、」


 俺は1人、静かに涙をこぼした─────。

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