人生に嫌気がさしたので転生してみました。

みかみかのみかん

世界はどうしようもなくバカバカしい。

今日も俺はこの世界のただ普通の会社員社畜として、職場に向かう。


 「今日は帰れるのかな」


 俺は日々の激務で身体的にも精神的にも完全に参ってしまっていた。

 元6年間ニートやってた俺が何とか自分を変えようと、職に就いたって言うのに、蓋を開けてみりゃこのザマだ。

 営業はもちろん6年も話して来なかった俺からすりゃまともに話せる訳が無い。

 それで事務を任されてからもミスを連発。上司に叱られてばかり、今ではただの言われた事をただやるだけのロボットになっている。しかし、俺は作業が遅い。周りに迷惑をかけるし、他の人も誰も帰っていない。それなのに俺だけが先に帰るなんて有り得るわけがない。


 「ニートの時の方が人生楽だったのかもな」


 俺はどこで人生の選択を誤ってしまったのかを今一度、思い出している。

 中学はそれなりに勉強もしていたし、バスケ部にも入ってた。高校には地元では進学校に通ってたし、人生楽しかった。

 しかし、その時は帰宅部でサボる事を覚えてしまい、勉強が疎かになっていた。

 学年でも下から5番目位の位置をキープする様になり、進学校として異例の馬鹿大学に通う様になって、そこで俺は周りと上手くやる事が出来ず、このザマだ。

 まあ、大学の奴みたいに前科をつけなかっただけマシって所か、中退したけどな。


 「ああ、俺も漫画や小説見たいに、生まれ変われたら良いのにな」


 そんな事があるはずがない、ここは小説や漫画の舞台ではなく、紛う事なき現実世界だ。

 ましてや異世界転生した人だって、皆生まれ変わって人生イージーモードって訳では無い。様々な困難、苦悩を乗り越え、懸命に生きている。それに比べ俺はこの世界が嫌でただどこかに楽な世界に行けないかだけを想像している。

 さらに、人外に転生だってある。俺は生まれ変わるなら人間がいい。

 そう考えるなら、現実世界に人間として生を受けるなんてどんだけ当たりだった事か。

 いやそれは俺には該当しない。

 当たりなら、もっと運動神経が良くて、頭も良くて、周りから好かれる奴じゃないとな。


 そんな事を考えても仕方ないことくらい分かってる。

 現実世界だって、異世界と同じだ。

 運動神経がいい奴は、何かの目標に向かって日々努力をしている。

 頭が良い奴も、毎日、俺と違って、勉強を欠かすことは無い。

 周りから好かれる奴だって常に周りをよく見ていて、何が最善でどうすれば周りが笑顔になるかを考えている。

 結局、みんな初めから当たってるって訳じゃない。

 自分の力で、当たりを勝ち取っているんだ。

 俺は当たりを取る努力すらせず、高校に入ってからは周りとの劣等感と怠惰で、周りを妬み突き放し、そして孤独になった。

 そんな奴が、転生したって、同じ事だろう。

 またどこかで諦める。

 そしてまた後悔する。

 何で生まれ変わってしまったんだろうって、


 「でももしかしたら、生まれ変わって、全てを手に入れたなら俺もまた頑張れるかもな、、」


 また、タラレバの話をする。

 まあ、結局のところ転生なんてあり得ない話な訳だし、少し夢見て、期待するくらいはいいんじゃないか、

 今日は一段と元気もなく、「死ぬ」とまで初めて考えを持つ様になってしまっていた。


 でも、「死ぬ」と言っても死に方が無い。

 交通事故ってのが一番手っ取り早いだろうが、その為に他人を巻き込むのだけは、したく無い、死ぬ時まで誰かに迷惑をかけるなんて、でもそしたらどうやって死ぬ?溺死か?首吊りか?迷惑は少ないだろうが、自分が苦しむのも嫌だ。

 結局は死ぬ勇気なんてある訳もなく、駅の改札で、電車を待つ。

 俺の最寄駅はホームドアがないため、巷では自殺スポットとまで言われている。それでも、ホームドアをつけないのは金が無いの一択だ。

 

 「いや、今日は死なねえ、決めた。過労死だな」


 そう決心した。

 これなら誰かに迷惑をかける事もなく、誰かの為に死んだ、なんかカッコよくないか?

 自分でもこれには納得した様だ。

 

 「もしかして佐藤か?」


 後ろから、声が聞こえる。

 この声は前から覚えている。中学の時からずっと変わらない、高く透き通った声。同級生の山田だ。


 「あ?」

 「やっぱそうだこれから仕事か」

 「あ、まあ」

 「いや何か目の前で今にも飛び降りようとしている人を発見してな声をかけようとしたら、何か見た事ある背中だなってな」


 俺はニートになって太った訳ではない、自宅では当時、食べる気力すら無く、太る事もなかった。

 さらに、今は普通に仕事もしている。しかも中学から身長も1.5cmしか増えていないからな。

 この声を聞いただけで何故か生きていける気がした。

 こいつは中学の時同じバスケ部に所属していて、身長のアドバンテージがあって、試合には出ることはなかったが、声だけは人一倍出す奴で、周りからの信頼はあった。

 でも、正直俺はこいつに負けている要素なんて一つもない、、、と思っていたかった。

 実際には高校から努力を重ねて、有名大学に進学。一流企業に就職。大学当時付き合ってた彼女と結婚。子供も1歳の女の子が1人。絵に描いたような順風満帆な人生を歩んでいた。こいつも当たりを勝ち取った1人だろう。


 「そうか、俺そんな様に見えてたんだな」

 「まあそんなとこだ、でもお前は、どんな時でも「頑張る」が出来る奴だろ。何とかなるって」

 「くそ、お前に言われると腹が立つわ」


 ここでも、俺はつい癖で話しかけてくれた数少ない友人を突き放そうとした。心の中では、「やめろ、踏み止まれ!」と叫んでいるが、身体はそうはいかない。

 結局、元ニートってのはこんなもんなんだ。


 「お前はプライドは高いよな。メンタル弱いくせに」

 「な、なんだと!」

 「そう言うとこだよ」


 なんと、こいつはこんな俺を上手くいじって、笑いに変えてくれた。

 その時俺は何か、スイッチの入った様な気がした。


 「やっぱ、俺、、、バイバイ」


 電車が来た事を良いことに、そう言って、俺はこいつとは別車両に、逃げ込む様に入って行った。

 もしこの時、俺が何かの間違いであいつの言葉に心を開き、立ち直る事ができたらどれだけ良かった事か、、、



 「きゃあああ───っ」

 「刃物を持っているぞ」

 「逃げてえぇぇ!」


 隣の車両が何やら騒々しい。

 そう思っていると、騒がしい車両から人が雪崩れ込む様に、人が入ってくる。

 数人の人は逃げ遅れてしまったそうだ。

 その中には先程の山田もいる。

 そこで俺はふと思い立った。


 「あれ、これ、俺、死ねるんじゃね?」


 そう思い立った時にはもう俺は動き出していた。

 逃げ込んできた奴らを掻き分け、事件の車両に乗り込む。 俺は片手に刃物、もう片方の手には怪しげな袋を持った、男と対峙する。


 「どうしたんだ?佐藤」

 「山田、俺今人生で一番高揚している」

 「お前もしかして、止めようと、、」

 

 「うおおおっ」


 俺は刃物を持った奴に走りかかる。

 しかし刃物を持つ男になんか、一般男性が敵うわけがない


 「………」


 男は無言で俺の胸元を刺してこようとする、それを読んでいたかの様に、仕事の鞄で防ぐ。

 そして、俺は男に飛びついて2人で倒れる。


 「放せ!!お前らに俺の何が分かる!」

 「分かるぜ、お前も俺と同類の匂いがする」

 「うるせえぇ!どうして、全員俺の邪魔をする!!?」

 「お前人生に絶望をしているだろ?死にたいと思ってるだろ?」

 「………!!」

 「俺もそうだ、今ちょうど死のうと思ってたよ!周りに迷惑をかけない様に死ぬ方法を、、ありがとうなお前」

 

 それを言ったと同時に男が俺を刺した。

 そして俺は刃物を持った男を逃すかとばかりに最後の力を振り絞り、全体重を犯人に乗せたまま俺は嬉しそうに死んだ。



 

 

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