第95話 従魔はご主人様に恋をする②
「エマ、ちょっと待て」
「え?何ですか?」
ダンジョンのマスタールームにて。
アイトが真剣な顔をしてエマに視線を送る。
そして。
「ダウトだ」
アイトはダウトを宣言した。
アイトのダウトに対してエマの頬から一筋の汗が。
「え!?何ですか急に!トランプゲームも何もやってないのに!こわっ!何この人こっわ!怖い怖い怖い!」
垂れたりする事はなく、両腕を擦って恐がるポーズをとった。
トランプゲームどころか会話もしていない状況で唐突に訪れたダウトだったのだから、そりゃ意味がわからないし怖くもなる。
「わっはっは!言ってみたかっただけだぞ!」
アイトは高笑いで笑い飛ばすが、この急に言いたくなった言葉をお漏らししてしまうのはアイトの悪い癖である。
この間なんてアイトの前世で放送されていた名作アニメの名台詞を153回も耐久でやっていた。
新人アイドルのヒロインが可変戦闘機に乗って登場したシーンのNGテイクをそのまま流したという例のあれをだ。
本人は良いかもしれないが、大して似てもいないモノマネを延々と聞かされ続ける身にもなって欲しい。
ヒショはそれでも楽しそうだったが、エマは呆れて昼寝を始めたレベルの面倒臭さである。
ちょっと前まで何かが起こりそうな予感がするとか言って首を傾げていたのに、10分もしない内にこの変わりようだ。
エマが呆れてアイトに背中を向けると。
「うおぉぉ!面白そうなイベントキタァァ!そうかあれか!あれが必要だな!早速作ろう!」
テレビモニターに映るフロントの様子を見てアイトが騒ぎ出したが。
エマはまた何かやってるよとアイトを放置してワンポと床に転がったのであった。
言ってしまった。
ブッタは初めて自分の想いを主人であるマイヤに伝えてしまった。
そもそもの話だ。
マイヤにブッタと従魔契約を結べるほどの実力は無い。
ブッタはいくら心優しい魔物と言っても、オークなのでDランク相当の強さはある。
正面から戦えば普通のオークよりも強いぐらいだ。
気はやさしくて力持ちというやつである。
対してマイヤの従魔士としての実力は高く見積もってもEランク相当。
Eランクでは乗れるタイプの魔物など何処にもいないのだ。
では何故今、マイヤは乗れるタイプの魔物を従魔に出来ているのかと言えば。
偏にブッタがマイヤに乗って欲しかったからである。
ブッタは森に入って、乗れるタイプの従魔を探し回るマイヤに以前から目を付けていた。
そしてマイヤがどうにかしてゴブリンに乗ろうとしているのを見て思ったのだ。
乗って欲しいと。
自分の背中に乗って欲しいと、そう思ったのだ。
だからブッタは四つん這いになってマイヤが来るのを待ち構えていたのだ。
いや、正確に言えばマイヤが乗るのを待ち構えていたのだ。
そしてブッタの狙い通りにマイヤはブッタに乗り。
マイヤとブッタの従魔契約が結ばれたのだ。
ブッタはマイヤに種族を超えた恋心を抱いている。
そんなブッタの想いを伝えられたマイヤは。
「行き先を変更してピンクの塔に向かおうか」
マイヤはブッタの背中に乗って。
休息宿ラブホテルへと向かったのであった。
「いらっしゃいだわん」
マイヤはブッタに乗ったままラブホテルへと入った。
すると恐らくは獣人ではないかと思われる受付スタッフが声を掛けた。
マイヤはそのまま受付へと進み。
「休憩2時間でお願いします」
「ありがとうわん。あ、ちょっと待つわん」
ピリリリと音が鳴り、受付スタッフは掌に収まる何かを操作して耳につけ。
「わかったわん」
幾つか会話を交わしてマイヤとの会話に戻った。
「オーナーから連絡が入ってあなたにぴったりの部屋があると言っているわん。こんな部屋だわん」
受付スタッフから薄い板に納まった絵を幾つか見せられて。
マイヤはその部屋を選んで客室へと移動した。
「多分こっちね」
マイヤがブッタを誘導して入った部屋はコンクリートの床に怪しげな赤の壁と天井。
やけに金属の装飾が見える椅子に温かみを一切感じない金属の机。
机の上には部屋を照らす為に使われる物だとは思えない、下の部分が細くなっている赤い蝋燭。
武器として売られているものと似た鞭と、全然形の違う鞭が幾つか。
拘束具として使われる縄。
それにどう使われるのか説明がなければわからない物も幾つも置かれている。
「ブッタ。あそこの机の所まで行って」
『ひあっ!何だか下が硬くて冷てぇ!』
この部屋の床はコンクリートなので硬いのは当然として、あえてひんやりと冷たい温度で作られている。
冬の夜の石畳と同等と言えば、その冷たさが伝わるだろうか。
ブッタが硬くて冷たい床に我慢して机の前まで進むと、マイヤは机の上の物を物色して一つを手に取り。
ピシャン
『ひゃあ!ご主人様、いてぇよ、、、』
尻を何かで叩かれて思わず声を上げたブッタ。
しかしマイヤは止める事無くそれを続ける。
『ひあ!ひぃ!』
マイヤが振るっているのは騎馬鞭だ。
馬の走る速度を上げる為に振るわれる鞭で、非力なマイヤが振るってもそれなりに威力が出る。
何度叩かれても同じ様に反応を見せるブッタに。
「あはは!ブッタ、どう?痛い、だけ?」
『いてぇのと。ひりひりするのと。あと、ちょっとだけ気持ち良いかもしんねぇ』
ブッタは早くも才能を開花させ始めているのかもしれない。
そしてそれはマイヤも同じで。
「ブッタ、あそこの椅子に座りなさい」
『わ、わかった』
部屋にぽつんと置かれている革張りの椅子にブッタは腰掛ける。
普段は戦う時以外這い這いをしているブッタが椅子に座るのは珍しい事だ。
マイヤは椅子の手摺りに手を伸ばして。
カシャン
鉄の枷でブッタの手首を椅子の手摺りに固定した。
逆の手も両足も枷で拘束されて身動きが取れなくなったブッタ。
普通の鉄であったならば力ずくで解けるかもしれないが、ダンジョンの装飾である鉄枷は普通のものより何十倍も頑丈である。
元より拘束を解こうなどと思っていないので関係無いかもしれないが。
ピシャン
マイヤはブッタの鎖骨を鞭で打った。
『ひあっ!ご主人様!皮膚がピリピリするよぉ!』
声を上げたブッタに対し。
「大丈夫よブッタ。じきに良くなるから」
楽し気に、蕩けそうな顔をして鞭の先でブッタの顎を上げさせたマイヤ。
ピシャン
「お前は私に首輪を着けられて!」
ピシャン
「私に背中に乗って貰って!」
ピシャン
「今までどんな気持ちでいたんだい!」
ピシャン
『う、ううう、嬉しかった!です!』
ピシャン
「そうだよね。随分と鼻の穴を膨らませて興奮してたもんね!」
ピシャン
『はいぃ!ずっと!ご主人様に乗って貰えて!首絞めて貰えて!興奮してた!です!』
ピシャン
「だったら今、私に鞭で叩かれてるのはどうだい?」
ピシャン
『は、はい!とっても!とっても気持ち良い!です!』
マイヤは首輪についたリードを引っ張ってブッタの上体を前へと倒し。
「よく言えたね。今日はいっぱい苛めてあげる」
『ありがとうごぜぇます!ご主人様ぁ!』
こうして一人と一体の絆は変な意味で深まり。
2時間という短い休憩時間はまたたく間に流れていった。
客室から出てきたブッタは入った時と同じく、マイヤを背に乗せた格好だったが。
随分と興奮した様子ではぁはぁと息を切らしていて、エントランスにいた客達を盛大に引かせた。
そしてラブホテルから出るとマイヤはブッタの耳に頬を寄せ。
「それじゃあ行くよ豚野郎。街に戻ったら鞭買おうね」
「はいぃ。ありがとうごぜぇますご主人様ぁ」
SMルームでマイヤに調教され。
ブッタは真の豚になった。
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