第84話 第一回ラブホテル最強陶芸家決定戦①
「ああ。陶芸がしたい」
こちらラブホテルがあるダンジョンの最上階層マスタールーム。
ダンジョンの神にも等しき存在、ダンジョンマスターのアイトがまた何やら言い出した。
アイトは常に思い付きでものを言う癖があるのだが。
今回はどうやら陶芸らしい。
「陶芸だな!よし、陶芸しよう!今俺は陶芸でボケたい気分だ!わっはっは!」
陶芸でボケるとは一体何をするつもりなのだろうか?
凡人には面白い形の置物を作るぐらいしか思い浮かばないが、アイトには一体どんな青写真が見えているのだろう?
「素晴らしいお考えですマスター」
そしてヒショは相変わらずアイトを乗せる。
ラブホテルにアイトのブレーキ役は存在するにはするのだが。
そのブレーキ役であるエマは朝の7時から夜の7時まで12時間労働という過酷な労働を課されているのでブレーキを踏めるタイミング自体が非常に少ない。
しかも大体夜8時には寝るし朝は6時まで起きて来ない。
一応夜更かしをする時もあるのだが、基本的には内線を繋ぐ以外でアイトと関わる時間は日に2時間だけである。
だから今回も止める者は誰もおらず。
「粘土、ですか?」
ダンジョン農園産の作物を仕入れに来たタスケを呼び出して必要な道具が手に入るかと確認するのであった。
場所は何か仕事している風に見えるからと最近作った執務室風の部屋である。
ラブホテルは客室利用と飲食代で少なくない金を儲けている。
ぶっちゃけて言うと相当に貯め込んでいるのだが、収入に対しての支出が圧倒的に少ない。
そもそもダンジョン内で必要になった物は殆んどアイトが作り出せてしまうので、金を使って何かを買う必要が無いのだ。
なので支出と言えば蒼剣の誓いへの用心棒代とラブホテル専属ハンターであるバルナバスへの報酬。
それからマシマシオーク亭で提供されるオーク肉塊の仕入れぐらいなものである。
この程度の支出、ラブホテルの収益から比べれば微々たるものだ。
今回で言えば粘土もアイトが作ろうと思えば別に作れるのだが、アイトは陶芸に適した良い土というのを知らない。
前世では陶芸なんてやった事がないし、知識はテレビ番組や配信サイトなんかで見た聞きかじりだ。
であれば外の世界でそれに適した土を手に入れて、ついでに貯め込んでいる金を少しでも放出する方が得策だろう。
一応外の世界の硬貨が減る事について気にしてはいるのだ。
ほんっっっっっっっっのちょっぴりだけ。
「焼き物とかって外の世界にもあるでしょ?こういうの」
アイトはそう言って派手な色付けがされていないシンプルな茶碗を作ってタスケに見せる。
初めて目の前で物が作り出されるのを見て呆然とするタスケだったが、アイトと話をする時には常に驚く準備が出来ているので瞬時に正気を取り戻した。
「なるほどなるほど。確かにこれ程の名品ではありませんが土を焼いて器を作る村はありますね。但し土をそのまま使っている訳ではないとかで必要分以上は作っていないかと思いますが」
タスケの言葉を受けてアイトは机の上にドスンと金の入った袋を置いて。
「これで何とかならんかね?」
「楽勝でしょうね間違いなく」
アイトとタスケはニヤリと笑い合って陶芸用粘土獲得大作戦が幕を開けたのであった。
「なあ。これって流石に過剰戦力じゃね?」
「そう言うな。何でも人手が必要らしいからな。報酬は出るんだから疑問を持つな」
陶芸用粘土獲得大作戦に駆り出されたのは蒼剣の誓いの4人。
白光の百合の2人。
更に専属ハンターのバルナバスまでついて来た。
蒼剣は護衛の名目だが、実際は人手が必要だからとタスケが連れて来たのだ。
バルナバスに関してはアイトがつけたおまけである。
元Bランク冒険者でヤーサン冒険者ギルドのギルドマスターをしていたバルナバスをおまけ呼ばわりとは中々だが。
外の世界で焼き物を作っているのはエライマン領の端にある小さな村である。
そこは魔物が少ない川の近くにあって、川の底から粘土が採れるるのだと言う。
村人自体が少ないので、ある程度の量を確保しようと思ったら力自慢の人手が必要なのだ。
その点ではバルナバスがいるのは何よりも心強い。
白光の百合に関しては力仕事はあまり期待出来ないのだが、ルイスの猛烈な推薦があったので参加となっている。
別に百合に挟まれたいとかそういう欲望は持ち合わせていないのだが、不味い携帯食を少しでも美味しく食べようという腹積もりである。
ルイスは可愛い女の子がイチャイチャしているところを見て硬い黒パンを一生食べていられるぐらいの百合好きである。
片道4日で村に着いて焼き物に使える状態に粘土を加工するのに数日掛かるかもしれない。
バルナバスは身重のミキャエラが心配で気が気ではないのだが、子供が生まれたら色々と必要な物を作ってやると言われているので仕事を放棄する訳にはいかない。
だから1秒でも早くこの依頼を終わらせようと異様に気合は入っている。
「こっわ」
「しっ。言ってやるな。俺だって子供が出来て心配な気持ちはわかる。留守にしている間にもアイトさんがパパだって擦り込まれているんだぞ。俺も早く帰りたい。そうしないと手遅れになりそうな気がする」
地味な弓士モルトに対して注意をしつつ愚痴を溢したスミス。
愛する妻アンドレアの連れ子であり、愛する娘のアンネはぬいぐるみや玩具やお菓子で懐柔されてアイトをパパだと認識しているのだ。
若しくはアイトがパパの方が良い暮らしが出来ると幼いながら直感しているのだ。
既にボロ負けの状況で長期間留守にしていたら、パパのポジション確保が不可能な状態にまで追い込まれるのは目に見えている。
だからスミスも早くラブホテルに戻ってアンネを抱き上げなければならない。
アイトは幼女に対して直接的な接触はしないので、スミスにとってはそれが唯一のアドバンテージなのだ。
「カーラ、護衛依頼中に手を繋ぐのはどうなのかしら」
「ご、ごめん。これだけ豪華なメンバーだったらちょっとぐらいイチャイチャしてても平気かなって」
「まあ、それはそうなんだけどね」
白光の百合はラブホテルのランクE客室を数回利用出来るくらいの報酬が入るので真面目に参加しているのだが。
普段は二人での活動が多いのでカーラがどうにも我慢出来ないらしい。
実を言うと二人は確かに護衛依頼として冒険者ギルドで依頼を受注しているのだが、依頼を出したのはルイスである。
だから別に護衛なんてする必要は無い。
純粋に百合成分だけを求めてルイスが連れて来たので、寧ろ護衛中に我慢出来なくてイチャイチャし始めちゃうなんて望む所だ。
エライマン領は領内の治安は良い方だ。
ニックが過剰戦力と言った通り、魔物が現れてもバルナバスが瞬殺するので他のメンバーに出番は無い。
一行は通常4日掛かる所を3日で着く強行軍を敢行し。
「「うおぉぉぉぉおおお!」」
スミスとバルナバスが滅茶苦茶に張り切って川底から粘土を採取。
村の職人が時間を掛けて粘土から不純物を取り除いたりと色々作業をして。
作業に時間が掛かりそうなのでスミスとバルナバスはほぼ全力で走って一度ラブホテルに帰ってアイトに爆笑され。
陶芸用粘土獲得大作戦開始から12日後に一行はラブホテルへの帰還を果たしたのであった。
因みに皆が帰って来た時のアイトのリアクションはと言うと。
「あれ?皆何処に行ってたの?あ、粘土?ああ。陶芸企画のあれね。義理の娘と遊んでたから忘れていたぞ!わっはっは!娘がパパだいすちって言っていたぞ!最早俺に死角は無い!スミス君。残念だがもうアキラメロン!」
この日からスミスはアンネと濃密なスキンシップを図り。
結構しっかり目に嫌われて大撃沈したのであった。
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