第64話 激闘!ラブホテル①
「近頃笑いの成分が足りない」
「如何なさいましたか?マスター」
ここはラブホテルがあるダンジョンの最上階層マスタールーム。
ダンジョンマスターのアイトは両手に持ったイカ焼きを食べながら嘆いていた。
必然的にマスタールーム内はイカ臭くなっている。
だからと言って別に汁男優達が参加するぶっかけシーンの撮影がされていた訳ではない。
何故そんな想像に至ってしまうのか。
全くもって不思議としか言いようがない。
部屋中に満遍なくイカ臭い匂いが充満している原因は。
串に刺さったイカ焼きを剣に見立ててアイトとヒショがチャンバラごっこを行っていたからだ。
想像以上にアレな事をしていた。
本当に何をやっているのだろうか。
食べ物で遊んではいけないのだが、スタッフが美味しく頂くので何も問題は無い。
無いったら無い。
アイトとヒショはラブホテルを作るまでに長い長い時を共に生きてきた。
作り始めたら三日で出来たが、それまでの期間は普通の人間の何十世代にも何百世代にも及ぶ。
要するに助走が尋常じゃなく長かった。
悠久の時の中でが行った暇潰しのバリエーションは数知れず。
そんな二人なのでイカ焼きでチャンバラごっこをするぐらいの事は日常なのである。。
解説を入れてみたが全然理解出来ない。
みみの部分が剣と言えば剣に見えるし、そういう事だろう。
余談だがイカの精子(精莢)は危険なので絶対にナマで食べてはいけない。
どうしてもイカ〇ーメンを食べたい場合にはしっかりと火を通してから食べる様にしよう。
大事なのでもう一度言っておく。
イカザ〇メンを食べるなら火を通してからだ。
イカの食ザーは計画的に。
「何かこうさ、もっとこう全世界を爆笑の渦に巻き込んで不毛な争いを無くしてしまうぐらいの笑いの成分が足りない気がするんだよ。定期的に爆笑回が無いと“異世界に転生したダンジョンマスターは笑いの力で下民共をエデンへ導く”の読者が離れていくんじゃないかと心配になるぞ」
そんなに壮大で万人受けする笑いが存在してたまるか。
“異世界に転生したダンジョンマスターは笑いの力で下民共をエデンへ導く”とは時々思い出した様にアイトがつけている日記の事である。
これに関しては何も言うまい。
「何か面白イベントが起きれば良いのですが」
「それだよ!俺は今面白イベントを求めているのだ!さぁ来い!面白イベント来い!さぁさぁさぁさぁ!」
こうしてアイトが待望する面白イベントだが。
このあと案外とあっさり発生する事となるのであった。
「はぁ!この俺の目の前で悪事が働けると思うなよ!」
エライマンの街の住宅街にて。
目の覚める様な赤色の短髪に赤い瞳を持つ男が、見るからに悪党じみた顔をした男に拳を叩きつけた。
赤髪の男の名はブラッド・メコット。
Cランクのソロ冒険者だ。
ダンジョン攻略を生業にしていて、この手の冒険者はダンジョンダイバーと呼ばれている。
ブラッドは曲がった事が大嫌いな実直で熱い性格をしている。
今ブラッドが殴った男は嫌がる女の手を無理矢理に引っ張って何処かへと連れて行こうとしていたのだ。
ブラッドは女と面識がある訳ではない。
だからブラッドに女を助ける義理は無い。
女に関わったせいで面倒事に巻き込まれる事だってあるだろう。
しかし。
赤の他人とは言っても罪も無い女性が傷付くのを実直なブラッドが見逃せる筈が無かった。
ブラッドに殴られた男は女の手を放してクルクルフラフラと横に3回転するとドグシャァと民家の壁に肩を打ち付けた。
何だかギャグみたいなやられ方である。
「こっちへ!」
ブラッドは女の腕を掴んでその場からの離脱を図った。
もしかしたら近くに仲間が潜んでいるかもしれない。
ダンジョンダイバーのブラッドは腕に覚えはあるものの、対人よりは魔物やモンスターとの戦闘の方が得意だ。
対人に特化した者達に囲まれでもしたら分が悪い。
それに今は女性の身の安全が最優先だ。
ブラッドの迅速な判断によって女性は安全な場所まで避難を、、、
「あんたうちの旦那に何て事するんだい!」
どうやらブラッドの目撃した揉め事は単なる夫婦喧嘩だったらしい。
ブラッドに殴られた旦那の方は器用に壁に寄り掛かったまま白目を剥いて気を失っている。
そして妻の方はブラッドの髪の様に顔を真っ赤にさせてプンップンである。
その後ブラッドは滅茶苦茶非難された。
「ふう。街の平和は守られた!」
ブラッドが殴りつけた夫が意識を取り戻し。
妻の方から猛烈な非難を浴びかけたブラッドは。
全力で走って表通りまで避難した。
ブラッドは曲がった事が大嫌いな実直な性格をしているが、誰かから怒られたり非難される事は好きではない。
そもそも良かれと思ってやった事をそんなに責めなくても良いではないかと思うし。
もしもあのまま夫婦喧嘩がエスカレートしたらブラッドに殴られる以上の大事になっていたかもしれないのだ。
だから自分の判断は間違っていないし、寧ろ感謝されるべき行動だった。
俺は絶対に悪くない。
ブラッドは曲がった事が大嫌いな実直な性格をしている。
但し曲がってはいないがズレた方向に真っ直ぐ伸びている。
幼い頃は微妙なズレではあったものの。
ズレたまま誰からも矯正される事無く直進してしまったので、年々正道からのズレが大きくなってきている。
故にブラッドは自分がしている事こそが正しく、自分と意見の合わない者は悪として見る歪んだ価値観を育み。
それは大きな大樹となって鮮血の様に真っ赤な花を咲かせたのであった。
妻の方を撒いて冒険者ギルドへと避難したブラッド。
エライマンの街へは目的があって寄った訳ではなく偶々であったのだが。
「あの街の近くにある塔はダンジョンなんだよな?何処まで攻略が進んでいるか教えて欲しい」
ギルドの受付嬢にピンク色の塔について訊ねていた。
街の近くにある異様な高さを誇る塔。
あんな造形物はダンジョン以外では有り得ない。
ダンジョンの多くは洞穴の様な見た目をしているが、幾つかは城や廃墟の様に建築物の形をとっている物もある。
それが街外れなどにあるのだから、ダンジョンかどうかの見分けは簡単だ。
それにブラッドはダンジョンダイバーとして幾つものダンジョンに潜った経験から、あの塔の危険性をビンビンに感じている。
ビンビンに感じ過ぎてナニとは言わないがビンビンに反応してしまうぐらいビンビンだ。
「えーとですね。ダンジョンではあるのですがダンジョンではないと言いますか」
歯切れの悪い受付嬢の物言いに違和感を覚えるブラッド。
「ダンジョンはダンジョンなんだろう?だったら少しぐらい攻略は進んでいるんだよな?ダンジョンダイバーの俺が話に聞いた事も無いんだから最近出来たんだろう。今ある情報をくれれば俺が続きのマッピングをしてやるよ。そのまま攻略しちまうかもしれないけどな」
そう自信満々に言い切ったブラッド。
ダンジョンは誕生から時間が経つ程に攻略が難しくなる。
ダンジョンのモンスターは生まれてから時間を経るごとにどんどんと力を付けて能力が強化されていくというのが定説である。
誕生から時間の経ったダンジョンは仕掛けてある罠も悪辣になる。
但しその分、手に入る宝も豪華になったりはするのだが。
そういった理由から。
出来たばかりのダンジョンならブラッド一人の力でも簡単に攻略出来ると踏んでいるのだ。
以前にも誕生から1年以内とされるダンジョンを攻略した事があるし。
資源として領主の管理下で育ててられいた、攻略禁止と言われていたダンジョンを。
ブラッドは同じダンジョンダイバーにも結構疎まれている存在である。
本人は全く気付いていないのだが。
「いえ。あちらのダンジョン、休息宿ラブホテルはエライマン領の領主様の命で攻略が禁止されています」
強めに言った受付嬢の言葉に。
「はあ?ダンジョンは早めに潰さなければ大きな被害を生むぞ?俺の兄さんはダンジョンに殺されたんだ。だから俺はダンジョンを許さない。あのダンジョンは俺が絶対に攻略してやるからな!」
そう言って怒った様子で冒険者ギルドから出て行ったブラッド。
ブラッドの様子を見ていたラブホテルの常連一人遊びプレイヤーである冒険者達は何も言わずにその背中を見送ったのであった。
ブラッドの兄は確かにダンジョン内で死亡した。
彼の死因はモンスターに殺されたのでも罠に引っ掛かって死んだのでもなく。
何もない所で躓いて転んで頭を打った事による脳震盪である。
______________________________________
☆筆者眠い犬によるボケ解説
・イカ〇ーメン:イカソーメンとイカの精子をかけた造語。酷い下ネタ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます