第45話 異世界転生者の暴対意識
麻雀会が終了した昼下がり。
アイトが昼食をご馳走すると言うと現金なタスケは虫の息だったのに起き出して来て一緒に食卓を囲んだ。
麻雀卓に5人なのでギュウギュウである。
実際にギュウギュウなのは一面を二人で使っているスミスとルイスだが。
食事を摂りながらアイトはテレビモニターに堂々とフロントの様子を流していた。
タスケや蒼剣の二人は“これは見ていて良いやつなのか?”と内心では思っていたが。
興味深いので何も言わずに凝視している。
防犯と言われれば、こんなに素晴らしい技術は無い。
タスケは、この技術を王族に売ったら一体幾らになるのだろうかと有り得ない想像をして算盤を弾いていた。
しかし再現は可能だろうかと考えた時に。
少なくとも自分の頭や伝手では不可能だろうと思い至って頭の片隅にだけ留めておく事にした。
「今日も平和だな」
「そうですね」
モニターに映るフロントは平和そのものだ。
休息宿ラブホテルを開店してから一時は迷惑な客も増えていたが、近頃は迷惑な客も減りつつある。
減りつつあると言うか最早絶滅寸前だ。
何かあれば追い出されて出禁になる事が周知の事実となったから。
ラブホテルで悪事を働こうとした者は、その全てが失敗に終わると広く知られたから。
今、ラブホテルを利用する客は。
皆純粋にラブホテルの設備や料理や色情的な何かを求めて。
具体的に言うとエロい事がしたくて利用する素敵な客ばかりである。
お行儀が良いので張り合いが無いとも言えるのかもしれないが。
「あ、この子おっぱい大きい」
「マスターはこの大きさのおっぱいが好きなのですか?」
「この方は。良く夫婦で店に来られる奥様ですが、お相手が違う?」
「これメリッサじゃないか!俺と別れて若い冒険者と付き合い始めたのかよ!」
「百合は、、、百合は何処だ」
フロントの映像を見ながら。
それぞれが思い思いの言葉を口にする。
そりゃ不倫だってするよね人間だもの。
元カノが誰と付き合おうが自由であるし。
百合の出現率はガチャのSSR排出率よりも低い。
それぞれが思い思いの言葉を口にしながら、映像を齧り付きで見ている。
最早覗きがどうだとか、頭を掠める者すらもいない。
だってこれだけ見てたら最早共犯なんだもの。
狙い通り三人を懐に引きずり込む事に成功し。
アイトは物理的に齧り付いてモニターに映る映像をしげしげと鑑賞したのであった。
アルフルーガー・ヤーサン男爵の屋敷。
親父と呼ばれている任侠男爵アルフルーガーから指示を受けたチンピラA、B、Cは。
食堂でしれーっとお昼ご飯を食べていた。
今日は週に一度のオーク肉ステーキが並ぶ日である。
下っ端から兄貴分まで皆が楽しみにしている料理を逃す訳にはいかない。
だって今日を逃せば次に食べられるのは、また一週間後だ。
この機会を逃す手はない。
例えそれが心底敬愛し。
畏れを抱いている親父から、なる早の命令が下っていたとしても。
オーク肉のステーキは分厚く切られた肉厚なロース肉を茶褐色の焼き色が付くまでじっくりと焼き上げ、甘辛いタレをかけた絶品の品だ。
肉はしっかりと噛み応えがあって太い繊維から肉の旨味がジュワッと溢れ出して、甘辛いソースと絡んで極上の味わいを形作る。
脂身は甘く、染み出る油はサラリとしていて肉の味をより一層引き立て、、、
「さっさと行って来い馬鹿共が!」
「すいやせん兄貴!」
兄貴と呼ばれし者に食事を摂っているのがバレて叱責されたチンピラ達。
チンピラ達は深々と頭を下げてステーキ肉に齧り付いた。
普段から怒られて頭を下げる機会の多いチンピラ達が生み出した秘儀、謝罪食いである。
普段からやっているので兄貴と呼ばれし者にも当然バレていて、後頭部に拳骨を落とされたのだが。
「早速行ってきやす!」
チンピラ達は殴られた後頭部を擦りながら頭を上げて。
フォークに刺さっていた肉を口の中に放り込んだ。
「最後にもう一口だけ。とかやってんじゃねぇ!さっさと行って来い!」
「へい!兄貴!」
結局チンピラ達はステーキを完食する事は叶わず。
仕方が無いので皿を抱えたまま屋敷を出たのであった。
「兄貴も人が悪いぜ。飯食ってる時に仕事に行けなんて言わなくても良いのによぉ」
ステーキをもっしゃもっしゃと咀嚼しながらチンピラBが文句を言う。
「馬鹿野郎!兄貴の言う事は絶対なんだよ!文句言ってんじゃねぇ!」
ステーキをもっしゃもっしゃと咀嚼しながらチンピラAがBを叱る。
「けどよ。飯食い終わってからでも別に良くねぇか?」
ステーキをもっしゃもっしゃと咀嚼しながらチンピラCが疑問を口にし。
「馬鹿野郎!兄貴の言う事は絶対なんだよ!文句言ってんじゃねぇ!」
チンピラAは一語一句同じ言葉、同じ声色、同じ音圧でCを叱った。
そして三人は黙ってステーキを味わう事に集中した。
食事が終わり。
市場の屋台でワインを仕入れて口の中の脂を洗い流した三人。
因みにワインは脅し取っているので無料である。
「けどよ。あれってダンジョンってやつなんだろ?ダンジョンって話通じんのか?無駄足じゃねぇか?」
疑問を口にしたC。
「知るか!話が通じる通じないじゃねぇ!親父のシマで好き勝手されて黙ってる訳にはいかねぇんだよ!」
Aは通行人にも恐怖を与える威圧的な声で怒りを露わにした。
そしてAは言葉を続ける。
「俺らを舐めてっとどうなるかわからせてやらねぇとな」
今度は声のトーンを押さえて静かな怒りを感じさせる。
「親父を舐めた報い。ぜってぇにアレをアレさせてアレしてやるぜ」
「おう。アレをアレにアレしてアレでアレだな」
「アレもアレでアレだけアレしてアレだぜ」
チンピラABCの話はふわっとしていた。
チンピラABCはチンピラらしく。
チンピラ然としたイチャモンをつけたり。
チンピラオールドスクールな「何見てんだコラァ」を通行人に披露したりして。
人々に煙たがられながらヤーサンの街を出た。
死ねば良いのにと思ってはいても口に出してはいけない。
それを口にすればもっと面倒臭い事になるのが目に見えているのだ。
街の外に出ると。
行き交う人の多くが冒険者なので随分と大人しくなって。
チンピラーズはピンク色の塔、休息宿ラブホテルへと辿り着いた。
ラブホテルに危機が迫る。
「まずは俺がガツンとかましてやんよ。オウ!オウオウオウ!」
チンピラAはラブホテルの前で凄み利かせリハを行ってから扉を開き。
フロントに立って睨みを利かせ。
「オウ!ウチのシマで何勝手な事しとんじゃ!責任者出さんかいコラァ!あ?」
大大大得意の脅し文句を口にして。
即座に外へと追い出された。
「なんじゃこりゃあ!」
折角の格好良い脅し、通称モテ脅しを披露していたのにも関わらず途中で外に転移させられて。
情けない声を上げてしまった事に激昂したチンピラAは。
激昂して再入場を試みるが扉は押せども引けども開かない。
殴っても蹴っても小便をかけても全くもって開く気配が無い。
チンピラAは額の血管が切れるほど顔を真っ赤にして怒り狂い。
腰に佩いた剣を抜いて扉の破壊にかかり。
全体重を乗せて振り下ろされた鈍らがパッキリ折れると同時。
両手首が見事にパッキリ逝ったのであった。
「うぎゃぁぁぁああ!」
コントの様な叫び声を上げたチンピラAを見て。
今度はチンピラB、次にチンピラCとラブホテルに入店し。
B「ウチの仲間に何しとんじゃボケェ!慰謝料払えやコラァ!あ?」
C「この落とし前は高く付くぞコラァ!あ?」
チンピラBC共にチンピラAと同様の手首が逝くまでのパッケージを再現して完全な一致を果たすと。
肩を落としてトボトボとヤーサンの街に帰って行った。
遠回しにチンピラーズの様子を見ていたラブホテルの客達は何事も無かったかの様に入店して、客室で盛ったり一人遊びをしたりと思い思いに過ごしたのであった。
異世界チンピラの来店と言う稀有なシチュエーション。
多少泳がせた方が面白い展開が生まれたかもしれない。
しかしチンピラは蛮族染みた身形をしており、堅気の人間でない事は明白であった。
故にアイトは即座に決断して、即座にチンピラを追い出した。
前世日本人の俺が暴対法に違反する訳にはいかないと言うアイトの断固たる決意の表れであった。
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