第38話 ボディペイント紅葉狩り②
「うわぁ。これは確かに綺麗ですねぇ」
ボディペイントを終えて紅葉階層に移動したアイト様御一行。
目の前に広がる光景に感嘆の声を漏らしたのはエマだ。
紅葉を書きながら片手で食べられるハンバーガーを食べたので、お腹が一杯になっていて眠いが。
そろそろ寝る時間なので微妙に眠いが。
それなりの眠気に襲われていて眠いが、そんなエマの目が覚めるほどの。
全然眠いので目は覚めていないけれども、眠くても感動が同じぐらいに拮抗する程の圧巻の光景。
それもその筈。
アイトは前世でガイドブックに載る様な素晴らしい紅葉を。
時期など無視して最高の状態で作り上げたのだから当然である。
「わっはっは!そうだろうそうだろう!」
転移した場所から真っ直ぐに続く並木道の左右に配置された、赤々とした葉を付けた紅葉の木。
見上げれば空が殆んど見えないぐらいに赤橙黄のグラデーションで埋め尽くされていて。
視線を落としてもびっしりと落ち葉が敷き詰められていて360度、何処を見て紅葉が楽しめる贅沢過ぎる造りになっていて。
更に今は夜なので照明によるライトアップまでされていて紅葉の美しさを一層引き立てている。
道を歩けば“かさっ”と落ち葉を踏む音が小気味良く。
落ち葉がクッションとなって膝に痛みを抱えた老人であっても歩きやすいバリアフリー要素。
更に道には動く歩道が仕込まれていて膝の悪い老人が訪れた際には歩かずとも先へ進めるバリアフリー要素。
何なら手摺りもせり出してきて安全なバリアフリー要素。
一般公開する気は無いのでエマやミーアが年を取った後しか使う事は無いだろうが。
「この先はもっと凄いんだぞ!」
既にエマがうつらうつらしているので期待を煽って目を覚まそうとするアイト。
因みにエマは既にワンポの背に乗って運ばれている状態だが。
100m程の並木道を抜けた先に広がるのは。
「わぁ。きれいでしゅねぇ」
もう呂律が回っていない。
もう寝そうであるが。
そこには池があり、水面には池を取り囲む色鮮やかな木々が反射し。
空に浮かぶまん丸の月が池の中心に浮かぶ。
池に浮かぶ紅葉の葉は並木道ほどは多くなく。
月と紅葉のコントラストが息を呑む程に美しい。
それから謎の拘りであるリアルな鹿の置物。
完全に花札の紅葉と鹿からとっているのだが、その元ネタに気付ける者はいない。
只々疑問に思うばかりである。
そして。
「ボディペイント紅葉狩り!開幕じゃぁぁぁああい!」
アイトの掛け声とともに。
池の前に立ってこちらに向き直った、全身紅葉ペイントが施された色とりどりのオーガズ。
どこからともなく音楽が流れ。
ドン、ドン、ドンと重みのある大太鼓の音色に合わせてオーガズの体が揺れる。
「はっ!」
アイトの掛け声に合わせてオーガズがモストマスキュラーを披露する。
その逞しい筋肉が盛り上がり、描かれたボディペイントの形が変化する。
「はっ!」
アイトの掛け声でサイドチェストへと移行し、腕の筋肉と腕に描かれた紅葉を見せ付ける。
筋肉の動きで表情を変える紅葉がユーモラスだ。
「はっ!」
最後は後ろを向いてバックダブルバイセップス。
背中の筋肉と太腿の筋肉と紅葉の動きの変化を見せ付けた。
そして音楽は大太鼓が重厚な。
それでいて軽快なリズムへと変わり。
和太鼓と歯切れの良い三味線の音色が加わった。
「はっ!」
アイトの掛け声でオーガズは正面を向き。
左右の端からクロスする様に順々に走り出す。
それはまるで体操の床の演技の様に。
ロンダードからの後方宙返り。
前方宙返りからの側方宙返り。
それぞれに回転や捻りを加えて得意な演技を繰り広げる。
それは正に北風で紅色の葉が舞い踊る様に。
次々に繰り広げられる演技で見ている者を圧倒していく。
そして一通りの個人演技が終わり。
「はっ!」
今度は団体演技へと移行した。
団体演技は新体操の様な一糸乱れぬ演目に。
複数人でのアクロバティックな技が加わる。
先程の個人演技よりも高く舞い上がるオーガズの姿は。
舞い落ちる木の葉を表現していた。
ちょっと回転が凄過ぎて常人には葉として捉える事が出来ないのは玉に瑕だが。
「はっ!」
そして演技は新しいフェーズへと移行する。
土台を作ったオーガ達の上に次々と登っていくオーガ。
3人のオーガが幹となり。
二段目は5人、三段目は7人と超絶的なパワーとバランスで木を形作っていくオーガズ。
さしずめスーパー組体操と言った所だ。
オーガズが作ったオーガの木は大量に焚かれた照明で照らされ、ライトアップされた紅葉を表現した。
「ラスト行くぞぉぉ!」
「「「「「ウオォォォオオ!」」」」」
大きな雄叫びを上げたオーガの木が一斉に崩れ。
オーガズは次々に池の中へと飛び込んでいった。
ここで音楽は穏やかで雅やかな和楽器の音色に変わる。
ふくよかで丸みのある篳篥の音色をリードとした音楽に合わせ。
水中から出たオーガズの右足がくるりと回転した。
水に浮かぶ紅葉の葉を表現した演技は、力強さよりもしなやかさと繊細さが際立つ。
一糸乱れぬ足の動きと。
回転して揺らめくボディペイントの紅葉。
その美しさは人の目を引き付けて離さない。
そして音楽はドラムやストリングスを交えて現代的に変わり。
壮大さを増して全員が水中に沈むと。
正五角形の形でオーガ達が頂点から時計回りに舞い上がる。
イルカショーの大ジャンプの様に高々と舞い上がったオーガが思い思いに葉を表現して水中へ落ちる。
大の字を作ったウルトラヴァイオレットオーガが一番安易だった。
そして音楽のクライマックスでオーガズは池から上がって横一列に並び。
アウトロの最後。
締めのタイミングに合わせて。
オーガズが自分を最も格好良く見せるポーズを取った。
眩いぐらいの照明で照らされたオーガズの姿をじっくりと見せて。
暗転をもって彼らの舞台は閉幕した。
「はい、カットォォ!最高だ!最高のボディペイント紅葉狩りだった!」
「「「「「ウオォォォオオ!」」」」」
アイトの手放しの称賛に雄叫びを上げるオーガズ。
何故ここまで大掛かりな事を?そう問う人も数多存在するだろう。
しかしアイトは恐らくこう答えるだろう。
その方が面白いから。
常にアイトを動かすのは。
それだけの動機なのである。
ここに、後に歴史的名演と讃えられるオーガズのボディペイント紅葉狩りが完成した。
そして。
唯一の観客であるエマは開始直後からすやっすや眠っていた。
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