第13話 『上原悠馬の恋愛事情④』

あの後のことは見事に失敗。普通に断れた挙句、逃げるように去っていかれたし……俺の恋は最悪のスタートを切ったのだ。



「どうしたんだー?悠馬。元気なくない?」



純がそう聞いてきてくれた。どうやら顔に出てしまっているらしい。

あの後、教室に戻った俺はずっと氷室稔のことを考えていたので、心ここに在らずの状態でいたのだ。

だから、純にも心配をかけてしまった……申し訳ない。

けど……あの後のことがどうしても頭から離れない。そして、思い出す度に顔が熱くなるし、胸が苦しくなる。



黒歴史を作ってしまった感はあるけれど、不思議と後悔はなかった。ただ、ショックの方が大きく上回っていただけで。そして、告白をしてから一週間が経った。その間、氷室稔とは会っていないし連絡も取っていない。

向こうはどういう風に思っているかは分からない。



でも、あのドン引きした表情を見る限り……きっと、俺なんて眼中にないだろう。とゆうか、冷静に考えたら話したこともない男に急に告白なんてされたら誰だって引くわな。



せめて、このことを謝りたい。付き合うだなんて贅沢なことは言わないからせめて……友人になりたい、と言ったらうん、と首を縦に振ってくれるだろうか……?とにかく、まずは謝って……それから仲良くなれるよう頑張ってみよう!



俺はそう意気込み、教室に行こうとするがやはりネガティブ妄想モードに入ってしまう。しかし―――。



「(ええい!いつから俺はこんなに臆病になった!)」



俺は頭をブンブン振りながら頬を叩き、気合いを入れながら、教室に向かうことにした。



△▼△▼



氷室稔がいる教室に行く。緊張で心臓が爆発しそうだ。手汗が半端じゃない。もし、断られたら?友達になれなかったら?そんな不安がよぎるが、ここで尻込むわけにはいかない。

深呼吸をして、扉を開ける。すると……



「あれー?悠馬じゃーん。どったの?クラス間違えた?」



「げ……っ」



よりによって一番会いたくない奴に……

あいつの名前は倉田真由。俺にとって天敵みたいな存在だった。女みたいな名前だけど、れっきとした男である。

性格はかなりチャラく、いつも女の子を侍らせていている。



正直、苦手なタイプだ。まぁ……悪い奴ではないんだけどね……



「いや……あいつ……氷室稔に用があって」



「氷室?何で氷室?」



怪訝そうな顔をする真由。意味がわからない、といった感じだ。しかし、そんなものはどうでもいい。重要なのは……



「まぁ、別にいいけど。それに氷室はいねーよ?」



その言葉を聞いて俺は心の中でホッとしていた。変だよね。覚悟を決めて、いざ行動しようとしてたらいなかったんだよ?普通、拍子抜けして肩を落とすと思うんだ。なのに……俺は安心していた。それは何故だろう……?



「何ー?氷室に何の用だったん?あの無口に」



「無口……?」



それが氷室稔のあだ名……なのだろうか?だとしたら、かなり酷いあだ名だな……とゆうか、何か……いや。



「そう!無口!だってあいつ喋らないもーん。必要最低限しか話さないし!」



「必要最低限……」



――その言葉が耳に離れなかった。



△▼△▼



「無口……」



何故かショックだった。どうしてショックなの?と聞かれたら分からない。でも……何故かショックを受けていた。



「あんた、何してんの?そんな所でボーふッとしてさ」



姉ちゃんの声がした。見ると、姉ちゃんが呆れた顔でこっちを見ていた。

姉ちゃんは俺より三つ年上。黒髪ロングでいつもまとめている。身長は160cmくらい。見た目からして優等生っぽい雰囲気があるが、オタクで二次元にしか興味がない漫画家だ。



姉ちゃんの漫画は結構人気があり俺も結構楽しみにしている。

ちなみに今は仕事中なのでパーカーを着ている。



「いやー……別に何でもない」



俺は適当にはぐらかす。姉ちゃんに話したところで理解してくれるとは思わないし。



「そんなところでしょぼくれて何にもないなんて言われても説得力ないわよ。何?好きな子でもできた?」



揶揄うように言ってくる。これだから姉ちゃんには、話したくないのだ。絶対に茶化してくるから。



「ちょっとー。黙ってるって事は図星?マジで?」



ほら、もうこんな調子だ。ニヤニヤしながら聞いてくる。こうなったら無視するのが一番だ。俺は姉ちゃんを無視して歩き出す。すると後ろからついて来る気配があった。



「ねぇねぇ、どんな子?その子可愛い?写真見せてよ!」



……無視だ。相手しない方がいい。俺は歩くスピードを上げる。しかし……姉ちゃんはついてくる。まるで獲物を狙う肉食獣のように……しつこく追い掛け回してきた。



「おーい!聞いてる?」



無視だ。相手にするだけ無駄だ。こういう時は放っておくに限る。



「もう!ケチ!教えてくれたっていいじゃん!減るもんじゃないし!それに私恋愛経験は豊富よー?」



「……乙女ゲームは恋愛経験に入るのか?」



「入るわよー、あ、でも、現実の男は好きになった事はないけどね」



自慢げに言ってるが、自慢する事じゃないと思うんだが……?まぁいいか……。



「で!誰々?私の知ってる人かなー?さぁ、お姉ちゃんに相談してみなさい!」



「……嫌だよ」



乙女ゲームを恋愛経験だと豪語している奴なんかに相談したらどうなるか目に見えてるし、姉ちゃんの場合漫画のネタにするだろう。とゆうか、間違いなくする。それだけは避けたい。

俺が断ると姉ちゃんは不機嫌そうな顔をしていた。



「だって姉ちゃん、漫画のネタにするじゃん」



「え!?しないわよ!かわいい弟の恋をネタにするような事しないわよ!」



真剣な表情で言う。これだけなら、言ってもいいかも………と、心が揺らぐが、騙されてはいけない。前、俺が姉ちゃんに恋愛相談した時、姉ちゃんはネタにしないと言っていたのにネタにしたし。



そう思っていると、俺の心を読んだように、



「あれは、あれでしょ?あんたが失恋したし、せめて漫画の中だけでも恋を実らせようと……」



「そんなことをして俺が嬉しがるとでも思っていたのかよ!?どうせ、漫画のネタにするんだろ!?」



思わずツッコミをいれる。すると、姉ちゃんは真顔で、



「本当にしないわよ!あんたが失恋しなかったら!」



サラリと、とんでもない事を言ってきやがった。



「いやいや!?やっぱりネタにする気じゃねぇか!」



言い合いは続いた。俺は、家に着くまでずっと姉ちゃんと言い合いをしていた。



△▼△▼



「ふーん。あんた、出会った途端告白して振られたの?……そんなの当たり前じゃない?」



――結局話してしまった。最初は抵抗があったが、結局話すことにした。だって……しつこく聞いてくるんだもん!俺の心が折れちまったよ。それに、こうなった姉ちゃんは厄介だからなぁ……と思って話したわけだけど……。



「手紙で呼び出して、誰かもわからないのなんて相手は不安なわけだし、ましてや初対面で告白されるなんて怖い以外の何者でもないでしょ」



ズバッと言われた。ぐさっと胸に突き刺さる。姉ちゃんにしては正論。ぐうの音も出ない。



「……とりあえず謝りなさいよ?」



「う……わ、わかった……」



正論を言われて言い返せないので俺は素直に従った。

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