聖女として召喚されました 〜俺、男なんだけど⁈〜
伍煉龍
聖女ではないと判断されました
しかし、今日は会社の設備メンテナンスで休みだ。なので彼は県立の図書館に来ていた。学生時代はずっと本を読んでいた名残だろう。
「すみません。この本出してもらえますか」
書庫に入っている本を司書さんに出してもらうことにした。
「では17番でお呼びしますのでお待ち下さい」
そう言われ番号札を渡された。
呼ばれるまでの間、彼は適当に本棚を見て回っていた。すると、ある1冊の本に目がとまった。タイトルは『かの聖女はどこ‐‐‐』背表紙も表表紙もタイトルの最後が読めないほどボロボロだ。物珍しそうなので、彼はこの本を読むことにした。
彼が本を開こうとした瞬間、本が宙に浮き、勝手にページがどんどんと
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「おお、成功したぞ」「しかしこれはどういうことだ」「一体どういうことだ」
視界の感覚がまだはっきりとしない状態で、周りからそんな声が聞こえる。
視界が戻ると、あたりは少しばかり薄暗く、本棚の1つ無かった。断言しよう、ここは図書館ではない。彼は悟った、これが巷で流行りの異世界召喚と言われているものだと。
「聖女様、どうか我が国をお救いください」
一人の男がそう言った。日向は『俺のどこを見たら女なんだ?』と思いながら腕や体を見る。当然体に変化はなく、使用したことのないジュニアも健在だ。
「聖じ…」
「えぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!?」
日向の言葉をかき消すほどの大声が横からした。彼の隣には中学生くらいの女の子がいた。黒髪ロングで、まさに聖女の名に相応しそうな可愛らしくも美人にも見える少女だ。
日向は彼女がいることで疑問を持った。自分は何のために召喚されたのか、と。
「聖女様⁉それにここ異世界だよね。もしかしなくても私異世界召喚されちゃった⁉ ていか聖女って、私ってそんなに美人? 聖女になれちゃうくらいに美人なの〜⁉」
ヲタク特有の早口が暗い部屋の中で響く。日向よりも声をかけた男の方が困惑している。
「せ、聖女様。お話したいことがございますのでご一緒願えますか?」
「行くわ!」
華の女子中生が、知らない男集団にホイソレとついていくのはいかがなものか。日向がそんなこと思ってる間に何処かへ行ってしまった。
「キサマは何者だ? 見たところ聖女ではなさそうだが」
残っていた女騎士らしき人が日向の前に立ち、見下しながら言った。
「知りませんよ。魔法なんかなく剣すら使わないような世界で、適当に本を読もうとしたらここに居たんですよ」
日向が言っていることは何も間違っていない。ただそれを納得できる人はいないだろう。彼女も日向をを睨み続けているあたり信じていないのがうかがえる。
「そうか。いくつか聞きたいことがある。付いてきてもらおうか」
そういう彼女の左手はずいぶんと剣を抜きやすそうな位置にあり、右腕は実に動かしやすそうな位置にある。
断ったら殺す気なのだろうか。そんなことしなくても断る気のない日向は彼女に付いて行くことにした、
「ええ、俺も聞きたいことがありますので」
日向がそう言うと彼女は何も言わずにどこかへ歩き出した。日向はとりあえず付いて行く。「来い」の一言でもあったほうがいいと思いながら。
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無駄に広い廊下を移動してる間は何一つ話すことはなかった。「ここで待ってろ」とだけ言われて十二畳ほどはありそうな応接室らしき場所に日向一人が放置された。
放置されて数分したらようやく誰かが入って来た。
「お待たせいたしました」
そう言って入ってきたのは豪華な桃色のドレスを着飾った金髪で長い髪の少女だ。
「わたくし、ルーナ王国 王位継承権第一位・第三王女のミドラン・ルーナと申します。父 母 兄に変わり参りました」
そう言って軽くお辞儀をした。
ミドランと名乗ったその少女はヒナタの正面に座った。後ろには槍を持った兵士が二人立っている。
「まずは謝罪を。この度は本国の『聖女召喚の儀』に巻き込んでしまったようで申し訳ございません」
そう言ってミドランは頭を下げた。兵士は何をするでもなくただただ俺の方を見ている。そんな警戒しなくても何もしないのに。
「そんな頭下げなくても怒ってないですよ」
そう言うとミドランは頭を上げた。
『王族に頭下げさせたらろくなことにならないって』などと勝手に想像していた日向は少しホッとした。
「俺の名前はヒナタです。ヒナタ・シノノメでいいのかな」
「ヒナタさんですね。もう申し訳ないのですが、『聖女召喚の儀』にて召喚された者を元の世界へ帰す方法はございません」
日向にとっては元の世界へ帰れなくて特に困ることはない。仕事の激務から解放されるだけで、友達なんて一人もいないのだから。
ただ、彼は聖女ではないだろうとして近くの貴族の家で暇をしていてもいいという選択を出されても断った。彼はずっと働き詰めだったのに、急に一生の暇を出されても何もしたいことが思い浮かばないのだ。
「暇ってのもいいとは思うんだけど、俺としては何かしていた方が落ち着くから何かないですか?」
真っ先に出てきた騎士は断った。流石に異世界に来てまで死地に向かうようなことはしたいとは思う人間はそうそういないだろう。給仕係は柄ではなさそうとして除外された。
「あ、研究所みたいなところってありますか?」
ヒナタはふと頭をよぎった白衣から着想を得て聞いてみた。なぜ伯夷が頭をよぎったのかは謎だ。
「ええ、ポーションの精製や薬草の栽培、新規魔法の開発をしていいますが、そんなところでよろしければ」
想像以上に異世界らしい研究所だった。学生時代にしていた理科の実験は好きだったしそこに行く事にした。
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