我々はどうするべきか(八)
東部州の使者を引見した二日後、上京していた近西公[ケイカ・ノテ]の宿舎へ、鉄仮面は出向いた。
公は、
飲み終わり、「久しぶりの
公は
公は貴顕の中で、ゆいいつ、明確にウストレリ進攻に反対の意を表明していた。
近西州から、公が連れて来た料理人のつくった昼食を共に食べながら、鉄仮面と公は話し合った。
「公と意見は同じですが、派閥をつくって争うつもりはわたくしにはありません。東南州であれこれ、片付けなければならないことがありますから」
鉄仮面がそのように口にすると、公はひとつうなづき、「わたくしもまったく同じです。近西州はもともと貧しい土地柄のうえに、わたくしたちも微力を尽くしておりますが、まだまだ先の内乱の傷が
公の言に、鉄仮面が、「先年は我が父が失礼した」と苦笑すると(※1)、公は「あれはお互い様ですよ」と、それ以上、話がつづくのを
鉄仮面が料理を食べる手をとめて、「まあ、ウストレリに攻め入ることになったとしても、ここまで大きな声でおっしゃられていれば、近西州の軍がウストレリに派兵されることはありますまい」と口にすると、「女ども[サレ派]が声をかけてくることはありますまいが、ご老人[ハエルヌン・スラザーラ]はどうですかな?」と、常の抑揚のない声にすこしの不安を含ませながら、公が問うてきた。
「老人の考えは、わたくしにはわかりかねます……。なにを考えているのやら」
「困ったことです。実に、困ったことですよ」
「老人にこき使われましたからな、近西州は。前の内乱で」
笑いながら鉄仮面が言うと、「そうですよ。今回は勘弁していただきたいところです」と真面目な声で公が応じた。
「東南公、北のご老人が何を考えているのか。もし、何かわかれば、わたくしにもご一報願います」
「それはこちらも同じ事ですが、後日、遠北公(※2)の使者と会いますから、何かわかれば、書状を差し上げます」と言い終えると、鉄仮面は
それから、「もう、クスカイサ(※3)に戻られるのですか?」と鉄仮面がたずねたところ、「決裁しなければならないことが山積みですが、いちおう、執政官どの[トオドジエ・コルネイア]にお会いしてから帰ろうと考えております」と返答があった。
それに対して、鉄仮面は大きく手を振りながら、「執政官はだめです。
こうして、公との会食はすんだ。料理の味はまあまあだったが、すこし乳臭かった。
※1 鉄仮面が「先年は我が父が失礼した」と苦笑すると
八九五年に、タリストン・グブリエラの東南州とスザレ・マウロの西南州の連合軍が、近西州に攻め入り、近西州軍に破れた第二次西征のことを指している。
※2 遠北公
ハエルヌンと対立していた遠北州の名族の出であったが、ウベラ・ガスムンの調略に乗り、近北州に寝返った。
ハアルクンの乱(九〇五年)の際には、サルテン要塞に籠り、武勲を立てた。
※3 クスカイサ
近西州の州都。
※4 と冗談を言った
冗談を真に受けたのか、至急の用件ができたのか不明であるが、ケイカ・ノテは、トオドジエ・コルネイアには会わずに、近西州へ帰ってしまった。
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