イルコア戦記注解

青切

校注者の辞

表題について

 イルコア戦記(他の通名に『ヴェルヴェルヴァ退治記』『オルコルカン公記』『十一年戦争記』などがある)の原名は、「タリストン・グブリエラの長女ザユリアイによる、ウストレリ国イルコア州進攻に関する諸々の覚書」である。

 本書は、しゅうぎょかんとうなんしゅうしゅうぎょ使、新西州州馭使などを歴任したザユリアイ・グブリエラが、新暦九二五年にはじまるイルコア州進攻に関して、その開戦から新西州の成立およびその領域拡大にいたるまでの経緯を、自身の関与を中心に書き残したものである。

 覚書の記述の中心が、イルコア州への進攻とその防衛が主なために、『イルコア戦記』の通称で呼ばれることが多く、この注釈書の表題もそれに倣った。

 ザユリアイが覚書を残した理由は、自身の後継者である異母弟オレッサンドラらに対する申し送りのためであったが、長らく国是であったウストレリとの協調関係を捨て去って進攻するに至った経緯や、グマランイシ国との同盟締結の経緯など、当時の実情を知るうえでの歴史的価値は極めて高く、後世の我々にとって、第一級の史料である。

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