第12話 通りすがりの全裸少年

 ギロの死を見届けた後、俺はレベルアップの反動を味わうことになった。

 上がったのは数レべ程度だったから『怨念の死』の時ほどではない。

 すぐに復帰し、アイリィと一緒に『大地の淵』をダンジョン最深部に設置されている転移紋で脱出する。

 色々思うことも、考えるべきこともあったが、まずは目的の一つである脱出を済ませた形だ。


 ちゃっかりギロが遺した宝飾品は頂いているのだが、それはそれ。

 外で生きるにはどうやっても金が要るからな。


 ……というのはひとまず、置いておくとして。


 転移先はひとけのない森。


 ざわざわと揺れる木々の音。

 葉の隙間から零れる木漏れ日。

 周囲には点々と魔物の気配が感じられるだけ。


 しかし、薄っすらと視界を遮る霧が立ち込めていた。


 クラディア王国東部、薄霧の森。

 通称は『迷いの森』。

 ゲーム時代は五分で区画がシャッフルされるため、入ったら最後、出られないとされている。


 ゲーム的には色々使って脱出するんだがな。

 ここはその『迷いの森』だろう、多分。


 正直、森の景色と霧だけでゲーム時代と同じとは断言できなかった。


 けれど、無事に『大地の淵』を脱出できたことは喜ばしい。


「外に出られた。森みたいだけど」

「だなあ。でもまあ、好都合ではあるかもな」

「だね。イクス、素っ裸だし」


 そう。

 俺は今、服を着ていなかった。


 一応弁解しておくと露出狂とか見られて快感を覚える性癖の持ち主とか、そう言う話では一切なくて。

 ギロとの戦闘で着ていた貫頭衣が見るも無残に引き裂かれてしまったからだ。


 替えの服なんてあるはずもなく、全裸での行動を余儀なくされているだけ。


 ……全然解放感がちょっといいかもな、とか思ってないぞ。


「……あのですね、アイリィさん。あんまりこっちを見ないで頂きたいのですが。流石に見られるのは恥ずかしいって言うかさ」

「大丈夫。何一つ問題ない。大変眼福」

「どこが眼福なんだよ……」


 ショタの裸はわいせつ物にはならないってか?

 現代なら即死だったな。


 今はいいのかって?

 ぶっちゃけダメだけど人目がないのとアイリィが喜んでるから問題にはならない。


 一から百まで問題だらけだけど。


「応急処置くらいはしておくか。『ダークカバー』」


 闇の靄を発生させる魔法で局部だけ隠しておく。

 ここだけ隠せば……まあ、ギリ大丈夫だろう。

 隣でアイリィが勿体なさそうな顔をしてるけど。


 それでいいのか偉大な神霊よ。


「でも、このまま人里に降りるわけにもいかないよな。いくら王都が大変なことになってるとはいえ、目の前の変態を放置してくれるわけもなし」

「イクスは変態なの?」

「言葉の綾だ。俺は変態じゃない。王都のことは気になるが、服の調達が最優先だな。つっても森に服屋があるわけないし……」


 もう一度、周囲を見渡す。

 周りは霧がかかった深い森。


 後ろ暗い人間が隠れるには丁度いい場所だ。


「こんな場所で手っ取り早く服を手に入れるにはアレしかないか」

「なにをするの?」

「ちょっと盗賊狩りを、さ」



 ――なんて言ったものの、だ。


「迷った」

「迷ったね」


 絶賛、俺たちは迷子になっていた。

 森というロケーションを考えれば遭難と呼ぶべきか。


 いやね、これはどうしようもないんですよ。


 地図もなければ枝葉で空も見えないから方角も掴めない。

 ゲーム通りなら五分おきに空間の連続性すら切り替わっている。

 けれど、時空の『神権』を保有しているからか、感覚的には切り替わる瞬間と連続性を認知できる。


「そのうち慣れるな」

「私はもう慣れた。出ようと思えば出られる」

「流石の神霊様で。盗賊狩りが出来なかったのは惜しいけど仕方なし。道案内を頼んでもよろしいか?」

「ん。こっち」


 自信満々なアイリィに先導される形で森を歩く。

 とはいえ、森の中は道らしい道がない、荒れた獣道。

 全裸であってもレベルが上がったことで、枝葉が身体に擦れようとも傷一つ負うことはない。


 異世界様様だな。


 なんて思いつつ歩くことたった数分。

 視界が急に晴れ、森を抜けて街道に出た。


「出たよ」

「……まじか」


 アイリィならやってのけるとわかっていたが、こんなに早いとは思わなかった。


「参考程度に聞いておきたいんだが、どうやってこんなに早く出られたんだ?」

「一定時間で連続性が切り替わるけど、それにも法則があるみたい。だからそれを先読みして最短距離を選んだだけ」

「流石はアイリィってことだけはよくわかった」

「もっと褒めていいよ。ついでに抱きしめて愛を叫んでくれてもいい」

「この格好で抱きしめたらなんかバチが当たりそうだからまた今度でよろしいか?」「ん。約束」


 いいように誘導された気がしたけど気にしない。

 抱きしめるくらいは普通にする……はずだ。


「ところでさぁ、今見えてるものについての話なんだけど。あの馬車、盗賊っぽいのに襲われてね?」


 街道のど真ん中に止まっている馬車は、武装した何十人に取り囲まれていた。

 粗暴な見た目と柄の悪さ的に周辺を根城にしている盗賊だろう。

 俺が求めていたものでもある。


 既に転がっている何人分もの死体。

 だが、馬車に乗っていた人間が抵抗していて、まだ勝敗は決していない。


 ……てかあれ、見間違いじゃなきゃクラディア王立神霊騎士学園の制服では?

 傷だらけになりながらも剣を構え続ける女性。

 腰まである金髪は微妙にくすんで見えるけど、ヒロイン枠の王女様――ミリティアじゃないですか?


 なんでこんなところにいるんだ、という話は一旦置いておくとして。


 これ、助けないと死ぬよな。


「これさ、仮に俺が盗賊から助けたとして、後に待ってるのって変態とか罵られる未来だと思うんだが」

「イクスの好きなようにすればいい。何があってもわたしはイクスの隣にいる。たとえ全裸徘徊が趣味の変態になっても望むところ」

「信頼が篤すぎて涙が出そうだ。上手くやれば服の調達くらいは出来るかもしれないけど……問題は俺がイクス・ディエルマだってバレかねないとこなんだよな」


 王女ミリティアとてイクスは処刑され、死んだものと思っているはず。

 しかし、俺は色々あって、二歳ほど若返った姿でここにいる。

 もしかするとミリティアが俺の姿を見てイクスと結びつけるかもしれない。


 そうなったら非常にまずい……のだが。


 多分、ここでミリティアが死ぬ方がまずい。

 今後のためにもミリティアには生きていてもらった方がいいし。


「……流石に全裸の少年がイクスだとは思わないか。てことで、助けに入るぞ」

「ん」


 決まってしまえば後は早い。

 盗賊たちに囲まれるミリティアの元へ跳び、三点着地。

『ダークカバー』で大事なとこは隠してるから見られる心配なし!


「通りすがりの旅人、義によって助太刀致す……なんて、ね」


 盗賊たちを威圧するように手元で大鎌『忘却の死』を回せば盗賊も、ミリティアすらも呆気に取られて無言のまま立ち尽くしていた。


「女と……全裸のガキ?」

「なんだこいつら」

「何でもいいだろ。邪魔者は全員殺せッ!」


 盗賊たちから怒号のような声が上がる。


 そっちがその気なら、俺も気兼ねなく殺せそうだ。


「あなたは一体……」

「俺のことは気にしないでくれ。本当にただ通りかかって、都合が良かったから助けに入っただけだ。ともかく――全員かかってこい。そんで服寄こせ」


 ―――

 どっちが盗賊かわかんねえな(?)


 タイトルちょい変えてみて様子見です

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