四年前のある旅行について

 一ヵ月ほど仕事を休職したことがある。メンタルをやられて、睡眠障害になっていた。原因は主に仕事だった。その時期のことは今でもあまり思い出したくない。酷い環境で働いていたと思う。

 休職して2週間ほどが過ぎて、動けるようになった時に「今しかできないことをやろう」と開き直った気分になり、旅に出ることにした。きっと、大学4年の終わりにニュージーランドを10日間ほど車で旅した記憶がイメージにあったんだと思う。当日は社会人4年目、一週間以上の長い旅行はニュージーランド以降していなかった。やるなら今しかない、と車をカーフェリーに積み、新潟から敦賀港へ渡り、京都を観光した。

 その後、滋賀、福井、石川、富山、新潟と北陸を車で縦断しながら旅をしたが、出会った中に印象的な人が二人いる。ひとりは福井市のゲストハウスに泊まった日に、同じ場所に泊まっていた30代の男性。仕事は船乗りで、貨物を積んだ船で海外へ渡り、また貨物を積んで帰ってくる繰り返しと言っていた。一度海に出ると二ヵ月ほど帰って来れないので、帰国すると数週間休みになるそうだ。その間に国内を旅しているらしい。将来的にゲストハウスを開くのが目標で、貯金したり物件を探しているとのこと。かっこいい生き方だと思う。

 もう一人は、別のゲストハウスの主人。古民家を改修した家屋で宿を開いていた。六十代に見えたが、若い頃拾った鉄屑を売るなどして金を稼ぎ、オンボロのバイクで日本一周したと言っていた。親切な人で、銭湯に行くと言ったら明らかに家用のシャンプーを貸し出してくれたり、飯を食べてくると言ったら街のおすすめを長々と熱弁してくれた。当時、心が内向きになっていた自分はあまり人と話したくないモードだったが、何故かこの主人のエネルギーにあてられたのか元気になり、コンビニで買ってきたビール片手に夜はずっと喋っていた。海外の客が増えてきたので英語も喋れるように練習しているらしい。かっこいい。

 この2人以外にも、パソコン一台で仕事ができるので国内を旅しながら働いているというノマドワーカーや、フランスからバカンスに来た大柄なエンジニア、世界中を旅しているバックパッカーの女性など、様々な人に会った。自分がいかに仕事に縛られて、せせこましい生活を送っているかを思い知る。

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