75 数字の扱いにはご注意を
認められません……。
わたしがメイドでご奉仕とか……誰得なんですか。
そんなお客様を不幸にするような行為を容認するわけにはいきませんっ。
「他に変更の希望はないでしょうか? なければ、これで決定したいと思います」
……ぐ、ぐぬぬ。
ですが、わたしは手を挙げられずに話の進行を見守ってばかりいるのでした。
あの、大勢の前で手を挙げるって緊張しませんか?
しかも、その内容が“わたしをメイドにするのはやめて欲しい”という私的な内容。
こんなのを公然と発言しなければいけないツラさ……。
というか、皆さん何とも思ってないんですか?
わたしがメイド役に名を連ねていることに疑問が湧かないのですか?
実力不足だとか内心思ってないですか?
人前で話したくないという緊張と、鼻で笑われているんじゃないかという疑念が合わさって意識がドロドロに……。
「……(じっ)」
「……え?」
どうしたものかと焦り続けていると、こちらに向けられている視線を察知します。
目が合っても何かを発するでもなく、すぐ黒板の方を向いてしまいました。
「はーい、学級委員長さん、ちょっといいですかぁ?」
すると、おもむろに挙手する冴月さん。
「何かしら、冴月さん」
こういう時はお互いに“さん付け”で呼び合うんですね。
不思議な距離感……。
「
!?
冴月さんっ!?
さっきの視線でその意図を感じ取ってくれていたのですか!?
嬉しいですけど、こ、心の準備がっ。
「花野さん、何かあるの?」
ですが、わたしは慌てふためくばかり。
「あ、え、ええと……その」
ここまできて何も言わないわけにはいかないです、よね。
ゆ、勇気を出して……。
「そう、何もないのね。それではこれで決定とさせて――」
「……!?」
千夜さんっ、切り上げるの早くありませんかっ!?
どう考えてもこのままメイドさんになる方が地獄だと、わたしは来たる未来に目を向けて意を決します。
「あ、あの! わたしはメイドではなくて調理班に回りたいですっ!!」
よ、よしっ。
言えましたよっ。
「それは出来ないわ」
「うええ!?」
まさかの拒否!!
そんなことあるんですかっ!?
「メイドの方は
「え、わたし、そんな希望してませんけど……」
「いえ、花野さん、貴女は他薦枠です」
「はいっ!?」
だ、誰ですかっ。
そんな悪戯した人……!!
こ、これは……集団でわたしはイジメられている!?
「う、
もしかしたら、メイド役ではない方も推薦をうけているかもしれませんから。
その人にお願いするように話を誘導すれば……。
「本来見せるつもりはありませんでしたが……まあ、クラス内のアンケートですから問題ないでしょう」
円グラフが表示されます。(準備良すぎでしょう、千夜さん)
そこには円の割合をほとんど埋めている月森千夜・日和・華凛さんのお名前。
次に冴月さんのお名前。
な、なるほど……このクラスでアンケートしたら当然こういう結果になりますよね。
そして、ちょっぴりだけ埋めている花野明莉の名前……。
うそでしょ。
どういうことかと思って数字を見つめていると、
【投票数:4人】
と記載されていました。
……4人!?
その数字に思い当たる節がありすぎて、わたしは教室を見回します。
(か、
――バッ!!
華凛さんを見たら、物凄い勢いで首を回して視線を反らされました。
明らかすぎます。
(では
――♡
目が合ったらニコニコすまいるで手でハートを作ってました。
なるほど、隠す気はないようです。
恥ずかしいのでわたしの方から目を反らしました。
(もしかして冴月さんも……?)
――しーん。
あれ……。
一切こっちを向いてくれる気配がありません。
さっきは、わたしの無言の間をあんなに汲み取ってくれたのに。
わざと避けられている気が……。
(じゃあ最後は千夜さん……?)
「これは決定事項ですので変更は出来ません。文化祭の役割分担については以上になります」
話を唐突に終わらせた……!?
この力技……明らかに千夜さん個人の意思を感じてなりません。
結局、わたしはメイドさんをするしかないのですね……。
しかも、麗しの月森三姉妹と冴月さんとご一緒に……。
い、いやだ……。
月とスッポンすぎてツラいぃ~……。
◇◇◇
「あ、あの……千夜さん、ちょっといいですか?」
「何かしら?」
話し合いが終わったタイミングでちょうど一人でいた千夜さんに話しかけました。
「その……そもそも、わたし役割分担のアンケートをとっていたこと自体知らなかったのですが……」
そんなアンケート用紙を配布された覚えもありませんし。
「私が個人に直接聞いて回ったのよ」
「え、あ……それ、わたしのこと忘れてませんか?」
そんなアンケートを聞かれていたら、絶対にわたしは調理班を希望していたはずです。
「いいえ、聞いたわよ」
「え、嘘……?」
「貴女は“何でも大丈夫です”と、答えていたわ」
「ええ……!?」
そんな記憶どこにもありません。
いつの何の話でしょう。
「そう、忘れてしまったのね」
「え、いや……忘れると言うか、そんなこと自体がなかったというか……」
「忘れた人は皆そう言うのよ」
「ま、待ってください。じゃあ、その聴取したデータを見せて下さい」
あそこまで事細かにデータ管理していたのですから、アンケート内容もあるはずですっ。
「さ、私は次の事案を詰めなきゃいけないの。生徒会室へ急ぐから、これで失礼するわね」
「え、ちょっ、千夜さ……」
取り付く島もなく、千夜さんは足早に教室を去って行ってしまいました。
に、逃げたようにも見えるのは気のせいでしょうか……。
◇◇◇
「花野、一緒にメイドじゃん。かったるいねぇ」
席に着き頭を抱えていると、うっすらと微笑んでいる冴月さんが話しかけてきます。
かったるそうには到底見えません……。
「嫌です……やりたくありません……」
「まあまあ、決まっちゃったんだからしょうがないじゃん」
あっさりと決定を受け入れられている冴月さん……。
“わたしを推薦したんですよね?”なんて、いまさら聞いても仕方ありません。
仰る通り、決まったのですからやる他ないのです。
「それでさ、メイド喫茶の時以外の自由時間は何すんの?」
「え? 展示物の鑑賞じゃないですか?」
文科系の部活が展示してくれている作品を延々と眺めるのです。
知的でアーティスティックな空間なので、一人でも許される気がしません?
問題なのは終了時間までいなきゃいけない事なんですけどね。
屋台とかライブとかには絶対に行きませんよ。
あんな陽キャ空間、色んな意味で浮きますから。
「そ、それじゃさ、わたしと一緒に回らない……?」
「なんですと?」
そ、そうか。
今のわたしにはそんな展開が……!!
――ピロン、ピロン、ピロン
「おや……?」
スマホからメッセージが届いています。
月森千夜・日和・華凛さんからでした。
ああ……これは……。
「どう、別にいいでしょ?」
「あ、えっとですねぇ……」
やはりと言いますか、嬉しい悲鳴と言いますか……。
体育祭の再来を予感させました。
「時間を決めさてもらってもいいですか、ね……?」
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