28 憩いの空間
お昼休み。
それは学生にとって束の間の休息。
羽を伸ばせる癒しの時間。
だが、しかし。
それはモブもといハブられ陰キャにとって、真逆の時間となることを皆さんご存じだろうか。
「……ふぅ」
ガヤガヤと活気に溢れて行く教室の中、わたしの溜め息なんて誰の耳にも届いていないことでしょう。
そう、この疎外感こそお昼休みの闇なのだ。
わたしのようなクラス替えですぐに人間関係の構築をミスしてしまった人間は(ほとんど
一人だけお通夜状態になってしまうのです。
「そして、その空気を真顔でいられるほどわたしは強メンタルではないのです……」
しかも、お昼はご飯の時間でもあります。
皆で食べている中、一人寂しく食べるなんてちょっとツラすぎます。
となれば、わたしのとるべき行動は一つでしょう。
――ガタッ
席を立ち教室を後にするのでした。
◇◇◇
「……落ち着く」
体育館の裏にあるベンチに、わたしは腰を下ろしました。
目の前には学園の敷地を覆うように据えられている木々、そして春の芽吹きを感じさせる草花が生えつつあります。
「中庭は案外、廊下を通りかかる人に窓から見られたりしますからね。でも、ここなら絶対に見つかりません」
ほっと一安心。
わたしは足の上に乗せたお弁当箱を開こうとして――
「あらぁ、こんな所ににいらしたんですか?」
「ふえっ!?」
一人だと思って完全に油断していたので、ビクリと体が跳ねしてしまいます。
声のする方を向くと、そこにいたのは栗色の髪をなびかせる美少女でした。
「……ひ、
「あらあら、ごめんなさい。驚かせてしまって」
目を丸くさせながら、両手を合わせて謝罪する日和さん。
正直、その仕草だけで可愛いです。
「そ、そんなことより、日和さんがこんな所で何をしてるんですか?」
ちなみにですが、
日和さんはクラスメイトのお友達と教室で談笑しながらお弁当を食べます。
三者三様ではありますが、決してこんな場所に現れることはないわけです。
それが……なぜ?
「それは、こちらのセリフじゃないですかねぇ?」
日和さんはニコニコ笑顔を浮かべつつ、ベンチに腰を下ろします。
必然的にお隣同士っ。
「わたしはお弁当を食べようとですね」
「そうでしたか。それでしたら一緒ですね?」
ぽん、とお膝の上に日和さんもお弁当箱を乗せます。
……?
しかし、わたしの頭はクエスチョン。
「日和さんはお友達と食べるんじゃないですか?」
「あらあら……、わたしたちはお友達じゃないんですか?」
ぽかんと口を開けて、少しだけ悲壮感のある表情を見せる日和さん。
ま、まずいっ!
推しにこんな表情をさせるなんて、あってはならないことですっ!
「けっ、決してそのような意味ではありませんっ。ですので何卒、ご機嫌を取り戻して頂きたく……」
「ああっ、そうですよねぇ。わたしと
花開くような表情を覗かせる日和さん。
感情の入れ替わりが激しいですし、どういう意味ですかそれっ。
「し、姉妹ってことですよねっ?」
「んー?うふふっ……」
その笑みは肯定してくれてるってことですよね?
受け取りようによっては濁してるようにも見えますけど、日和さんがそれ以外の意味で言うわけありませんし……。
「それとも
「ううっ……!」
小首を傾げつつ、人差し指を唇に添えて、甘えるような瞳で唇をとがらせる日和さん。
あ、あざとい……!
同性のわたしから見てもあざとい仕草っ。
でも、なぜでしょうっ。
日和さんは自然でただ可愛く見えてしまうのは……!
マジック、美少女マジックですっ。
「そんなわけないじゃないですかっ。一緒に食べましょうっ」
「よかったです」
わたしとしても、一緒に食べてくれる人がいた方が嬉しいですしねっ。
ここなら他の人に見られることもないでしょうし。
「日和さんのお弁当はいつも美味しいから楽しみですっ」
「ありがとうございます」
日和さんは毎日料理を作ってくれて本当に感謝です。
「では、いただきますねっ」
「はい、どうぞ」
わたしが戸惑いすぎていたせいでしょう、日和さんは先に箸をつけてお弁当を食べていました。
ふむふむ、今日のお弁当はそんな感じなんですね。
心躍らせながらパカッ、とお弁当の蓋を開けます。
そして視界に飛び込んできたのは、日和さんの丹精込めて作られた美味しいりょう……
「ハートっ!?」
「うふふ」
視界に広がるお弁当は、ハート祭りでした。
まずご飯の上にかかる鮭フレークがハートの形に振りかけられ、梅干しもハートの形で添えられています。
白米とピンク色のコントラストが刺激的です。
そしておかずの方も驚きで、卵焼きもハート型。
ハンバーグは大丈夫かと思いきや、かかってるケチャップがハート型。
とにかく所狭しとハートが並んでいました。
「ひ、日和さん?これは一体……?」
「うふふ。なんだと思いますかぁ?」
な、なにと言われましても……。
ど、どう受け取るのが正解なんでしょう?
まさか、そのまんまの意味なわけがなく……。
「あら、食べたくありませんか?」
「ち、ちがいますっ。決してそういうわけでは……」
「では、ほら。あーん」
「うえええっ!?」
日和さんは何を思ったのか、箸でハートの卵焼きを摘まんでわたしに差し出してくるのです。
分かります!?
日和さんの箸ですよ!?
か、かかっ、間接……!?
「……何をしているの、貴女達」
「「!?」」
突然の来訪、そこにはジト目を向けてくる千夜さんの姿がありました。
「ち、千夜さんっ。どうしてここに!?」
「体育館倉庫の物品管理をしにきたのよ。そうしたら貴女達が二人で……?」
優雅に歩いてくる千夜さんでしたが、日和さんの手元を視認した瞬間に目つきが変わります。
心なしか早足になって、わたしたちの方へ。
「……これはどう言う事かしら、日和?」
「えーっと、何のことでしょう?」
「私のお弁当と違うわね。いつも姉妹全員同じにしている貴女が」
「ま、間違いましたかねぇ……?」
ど、どんなハイレベルな間違いなんですか……日和さん。
「そう。ならこれは私が頂くわ」
「あらっ」
パクッと黒髪を耳にかきあげて卵焼きを口にする千夜さんっ。
「間違ったものをあげては可哀想よ。この子には、私がまだ手をつけていないお弁当をあげましょう」
「……千夜ちゃんも、強引ですね」
「何か問題があるのかしら?」
「ありますよね?
そんな愚問をわたしに聞かないで頂きたいっ。
「いえっ、そのままお二人で続けていて下さいっ」
はわわわわ……!
ハートのお弁当を姉妹で食べ合いっこさせる。
しかも、日和さんの箸が千夜さんのお口の中へ……。
姉妹で、ハートで、間接で、キッス!?
「わたしはその姿をずっと見続けたいですっ!」
「……何か、その反応は違う気がするわね」
「
なぜか苦笑いを浮かべるお二人なのでした。
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