23 姉妹揃って
「……それで?」
「あ、はい?」
千夜さんは静かな声でわたしに尋ねる。
「その手はいつまでそうするつもり?」
「はっ!?」
わたしの手は
勢いでついやってしまいましたが、冷静にわたしは何てことをしたのでしょう。
全校生徒からの羨望を集める、あの
そんなこと許されるはずがない!
「ご、ごめんなさいっ!」
わたしはその手を離すと同時に、勢いよく頭を下げます。
「……」
「あの、お怒りでしょうか?」
じっとわたしを見据えたまま千夜さんの表情が変わらないので、不安になってきました。
「怒るはずがないわ」
「そ、そうなんですか?」
大変失礼なことをしたと思うのですが。
「心地良い、と言ったはずよ」
さっきもそう言ってくれましたが……。
てっきり気が変わったのかと。
「……それに」
「はい?」
なにか言い淀む千夜さん。
やっぱり思う所があったでしょうか?
「自分の事を話すのって、思っていたより悪くないのね」
な、なんと、千夜さんからその言葉が聞けるとは!
「……そう、そうなんですよ千夜さんっ!」
千夜さんが姉妹との関係において唯一足りない事を挙げるとすれば、それは気持ちを打ち明けること。
千夜さんはそこに意味を見出してくれたのだ。
「なんで、貴女の方がそんなに嬉しそうなのかしら」
「嬉しいに決まってるじゃないですか。千夜さんが自分のことをわたしに話してくれたんですから」
「それだけで?」
「それだけで嬉しいんですよ」
「……そう、そうなのね」
千夜さんはこくりと頷く。
「少しでもいいので、そうやって
「……すぐには出来ないかもしれないけれど、考えておくわ」
おおっー!
千夜さんが姉妹の皆さんに心を開けば問題は全て解決されます。
これで三姉妹の仲が元通り、仲睦まじいものになるに決まっています!
「ううっ……」
ぐすん。
「なんで貴女が涙目になっているの」
「うれし涙です……」
「い、意味がわからない……」
最後の最後で千夜さんに引かれてしまいましたが、おめでたい事なのでこれは良しとしましょうっ。
◇◇◇
夕食の時間。
待ちわびていた時間です。
決してわたしが食いしん坊だとか、そういう事じゃないですからね。
だってこれから姉妹一緒に揃うのですから、わくわくするに決まっています。
「はい、召し上がって下さいな」
今日の日和さんの料理はトマトパスタです。
茄子やたまねぎにしめじ、と野菜がたくさん入っています。
それにコンソメスープからは香ばしい匂いが漂ってきます。
「美味しそうですね」
「うふふ、
「皆、そう思ってますよ」
「そうでしょうか?」
相変わらず謙虚な日和さんは首を傾げます。
「あたしも前から言ってるじゃん、日和
席に着いた華凛さんは当たり前のように同意してくれます。
「そうね。料理に関して私達の誰も、日和には太刀打ちできないわ」
静かに頷く千夜さん。
「あら、皆さんにそう言われるのも困ってしまいますねぇ」
褒める長女と三女に、はにかむ二女……尊い!
それに、この空気感すっごく良くないですか?
以前とは違う食卓の雰囲気をわたしはビシビシ感じ始めています。
「そういう華凛も、最近はバスケの調子が良いと顧問の先生から伺ったわ」
「あー……えへへ。そうなんだよね。この前の練習試合でも調子良くてさ、30得点しちゃった」
「わあ、華凛ちゃんそんなに得点決めたんですか?」
「う、うん……」
うおおおおっ。
賞賛する長女と二女に、照れる三女……尊い!
「そういう千夜ちゃんも、歴代の生徒会長の中でも相当優秀だと聞きましたよ?」
「あー、あたしも聞いた。何だったっけ……先生がやるはずだった会計の計算も終わらせて驚かせたとか」
「生徒会も関わる事案だったからついでにやっただけ、当たり前のことよ」
「それが当たり前のように出来ちゃう千夜ちゃんが凄いですね」
「ほんとほんと、そんなの手をつけていいかも分かんないし、計算とかもしたくないし」
敬う二女と三女に、驕ることのない長女……尊い!
はっ、鼻血が出てしまう……。
「ううっ……!」
「ええっ、なんでいきなり明莉が涙ぐんでるのっ」
「本当に
「不思議な人ね」
そうそう!わたしはこんな三姉妹が見たかったのです!
夢にまで見た光景、推しの仲睦まじい姿をこうして拝見できるようになったのです。
……思い返すと、前途多難な道のりでした。
告白させられ、フラれ、義妹になって拒絶され、三姉妹の不仲を知り、わたしは奮闘してきました。
その結果が、今!
こうして大団円を迎えたのです。
もし、わたしの物語があるとするならば、ここが文句なしのエンディングでしょう。
「……そう言えば、貴女の体は大丈夫なの?」
そこで急に千夜さんに話題振られます。
「わたしは特に何もありませんよ?」
千夜さんは体調を回復されましたが、肉体労働をしたわたしのことを気遣ってくれているんですね。
「そう、今日は大変なことに付き合わせてしまって申し訳なかったわ」
「あ、それは全然だいじょうぶ――」
と、返事しかけた所で。
「ん?付き合って?付き合ってってなに?」
華凛さんが疑問を呈しました。
でも確かに今の言い回しだとよく分かりませんよね。
「今日、放課後に千夜さんの生徒会活動を手伝わせてもらったんです」
「放課後……?二人ってこと?」
「え、ええ……そうですけど」
そこでなぜか怪訝そうな表情を覗かせる華凛さん。
「千夜
「それがどうかしたの?私はただお願いをしただけよ」
「……だからって放課後に生徒会活動をやらせる必要なんてなくない?しかも、わざわざ二人で」
「それを言うなら放課後に部活動の相手をしてもらう事の方こそ、もっと必要性がないと思うのだけれど」
……あ、あれ?
おかしいな。
急に二人の空気感が険悪になってませんか?
「そうだ、
そこに明るく空気を変える日和さん。
さすが二女の緩衝力はものが違いますね。
「あ、空いてますよ?」
いつだってヒマ人ですから。
「そうですか。でしたら明日お買い物に付き合って欲しいなと思ってまして」
「それならお安い御用――」
と、二つ返事をしかけた所で
「そういえば、片付けでまだ終わっていない箇所があったのだけれど、貴女の都合はどうかしら?」
「あー、こういう時こそ自主練しないとっ。明莉、また練習相手になってくれない?」
……え?
ちょっ、ちょっと、皆さん……?
「あらあら、お二人とも?わたしが先にお誘いしましたのに聞こえてませんでしたかぁ?」
「私用に順番なんて関係あるのかしら?」
「いやいや、明莉の時間なんだから明莉に選ばせるべきでしょ、ここは」
え……え……?
さ、三姉妹の皆さん?
どうして三者三様に睨み合っているのですか?
ちがいます、違いますよ。
わたしが見たかったのはこんな光景じゃなくてですね……。
「貴女は――」「
そして、なんで最後にはわたしのこと見てくるんですかねぇ……!?
「誰を選ぶの――かしら・でしょうか・よ?」
ち、違う……!!
思い描いていた展開と違いすぎます!!
わたしのエンディングはどこに行ったんですか!?
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