魔術制御機関:
サギリ
プロローグ
第1話 転校生Ⅰ
両親は6年前に事故で亡くなった。その後、年に数回しか顔を合わせた事がない叔父に引き取られた。叔父は優しかった。よそ者である僕、桐原カオルにも両親と同じように育ててくれた。しかし、叔父も「仕事がある」と言って2年前に出て行ってしまった。定期的に連絡はくれるがまだ帰ってこない。この古い洋館で一人の生活がしばらく続いていた。ただ、別に一人も悪いってもんじゃない。
「食費とか少なくすむし……」
と自分に言い聞かせながら玄関へ向かう。ポストの中の配達物を取り出し。靴箱の上に置いた。ドアを開けた。
7月。期末考査が迫っているがそれよりその後の夏休みが楽しみでしょうがない。趣味の読書で時間を潰すもよし、貯めたバイト代で軽く旅行も悪くない。とにかく長い自由時間が手に入るのはうれしかった。
今日さえ頑張れば明日は土曜。放課後の生徒会の仕事さえ終われば自由だ。と期待しながら最寄り駅まで歩いている。
最寄り駅の熊野駅まで家から10分。熊野駅から学術研究都市駅まで10分ほどだ。そこから数分で学校に着く。イヤホンを耳に着けいつも通りの通学路だ。
今日は少し出遅れたのか、いつも乗っている列車の一本後ろとなってしまった。遅刻しないか心配だ。そんな中、列車は学術研究都市駅に到着した。しばらく歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「桐原くん、おはよー!」
中性的な声。僕の左側に駆け寄ってくる。身長は165くらいで小柄。幼なじみの足立つかさだ。つかさとは幼稚園時代からの友人で同じ高校へ通っている。かわいいからか、女子からたまに「ツカサちゃん」といじられる。
「あぁ、テストいつだっけ?」
「再来週だよ。今日でちょうど2週間前」
そうか、前言撤回。今日帰ってからの自由時間はなさそうだ。特に英語。海外移住する気もなければ、外国の本の原文を読みたい訳でもない。英語の使い道は特に思いつかない。これは成績が悪いだけの言い訳でしかないが。
「ヤバいな。今回こそは赤点かも」
これはジョークなどではない。本当にまずいのだ。
「僕も赤点回避頑張らないとね」
そう、つかさは中学の頃から数学が大の苦手。お互い殺してやりたいほど嫌いな教科がありその点は大いに理解できる。まあ、教科は殺せないけど。
「そういえば新都心の方に……」
くだらない会話をし、数分の駅から学校までの時間を過ごす。
「あちー」
やっと昇降口へ到着し颯爽に靴を履き替えエアコンの効いた教室へ向かう。
「昔はエアコンなしで授業してたのか」
「多分そうだよねー」
「えー、暑くて勉強できないだろうなー」
教室へ入ろうとした時、待ってましたと言わんばかりに見覚えのあるボブヘア娘が現れた。
「この充実した環境でも勉強できてないじゃない!それと、あんた遅刻寸前よ!何分だと思ってんの」
「へ?」
腕時計を見る。8時26分。まさかと思い教室の時計を見る。8時33分。
「わっ、危ないなこのポンコツ時計」
「あんたが管理しないのが悪いのよ」
ごもっともな回答。何も言い返せない。
「ははは……忠告ありがとう、東雲さん」
苦笑いで場を乗り切った。ツカサ、ナイスフォロー。
このボブヘア娘こと東雲ユキは小学校からの腐れ縁で僕が小五の時に近所に引っ越してきた。いわゆる腐れ縁ってやつだ。昔はこんなにきつい感じではなかったのだが、次第に口当たりがきつくなってきたように感じる。
「そういえば、今日転校生が来るのよね」
初耳だ。
「そうなの?」
「そうよ、先生の話聞いてなかったの?だから赤点ギリギリなのよ」
相変わらず一言多い。てか、なんで僕の成績を知っているんだ。
「転校生か……にしても今の時期に珍しいな……前の学校で何かあったのか?」
「もう、そういうのよしなさい。親の仕事の都合とかでしょ」
「ああ、そうだろうな」
軽く東雲と話した後、僕の席へ向かった。教室の奥の隅。最高の場所だ。すやすや眠るのにもこのポジションは一役買っている。そして自席の前がつかさの席なので毎朝軽く談笑している。
「ん?」
自席の隣は空きスペースだったのだが、机と椅子が設置されている。
「転校生の席かな?これ」
「たぶんそうじゃない」
席に座る。
「なあ、ツカサ。転校生は女か男かどっちだと思う?」
にやけながら問いかける。
「さ、さあ……どっちでもいいんじゃない?」
つかさは嘘が下手だな、女の子でありますように~って言ってるようなもんだ。実際、つかさ以外の男子ほぼ全員が「女子であってくれ」と願っているだろう。大丈夫だ。僕も女の子出あってくれと願っている。
「まぁ、そうだね」
チャイムが校内に鳴り響き。そそくさと担任の杉山先生がやってくる。そのうしろに続いて女の子が一人入ってくる。その子はつかさより少し低めの身長で美しい白みがかった金色の髪。髪は長く、後ろ髪があるのでツインテールとは言えないが、左右で髪が結んであった。非常に整った顔立ちで透明感の感じられる肌。痩せ型のスタイル常に健康であろうと外見で予想がつく。逆に神々しくて話しかけられるもんじゃない。おそらく住む世界が違うのだろうと所見で理解できる。
「では、月宮さん。自己紹介をおねがいします」
「月宮ナツキと申します。父の仕事の都合でこちらに越してきました。1組の皆さん、よろしくおねがいします」
おそらくこの辺りで一部の男子が質問と言い、趣味やら好きな食べ物などを必死に詮索するのだろうが、そういうのは一切ない。やはりあまりに神々しすぎ、関わりにくいのだろうか。
しかし、以外にも女子は積極的であった。「かわいい」やら「好きな食べ物何?」など。この転校生は女性人気の高い人なんだろう。女子からの思わぬ質問攻めに困惑しているようだ。でも、思った以上に食いついてきてくれたのがうれしかったのか本人は嬉しそうだ。
「ごほん。えー月宮さんはあの右奥の空いてる席を使ってください。それではホームルームを終わります」
隣だ。ただ、隣がいなくても今まで特に困ったこともないので、大して問題は無いだろう。
コン、コン、コン、コン……と軽やかに歩く足音が近づき、僕の席の後ろを通って隣の席に座る。一部の男子からの「おい、そこの席を替われ!」といった視線が刺さる。こっちだって隣に来てほしくて来たんじゃないんだ。勘弁してほしいが、しばらくはどうにもならないだろう。
4限目を終え、昼休みとなった。
「桐原くん、お昼にしよっか」
いつも通りツカサからお昼のお誘いがきた。
「そうだね。あ、昨日の晩ご飯のあまり持ってきたけど食べる?」
「それじゃ、ありがたくいただきます」
ツカサと弁当を食べようとしていた。
「あの~、桐原君?」
クラスメイトの木村さんが話しかけてくる。日陰者の名前を覚えてくれていたのか!これは驚いたと感心してた。それで一体何の用件なのだろうか。
「木村さんどうしたの?」
「あの~、昼休みこの席使っていい?月宮さんと話したいし」
何だ、そういうことか。私的な場面で同級生の女の子に話しかけられたのはこれが初めてだ。初めてにしてはひどすぎる。しかし、ここで断って女子の気を悪くすることは避けたい。
「いいよ」
苦笑いで答える。
「桐原くん、あっちで食べようか」
と、つかさに誘われ、一度も行ったことの無い中庭のベンチで弁当を食べることにした。
「恐ろしいほど人気だね」
「大抵の転校生はこんな感じなのか?」
「多分あの子だけだよ。かわいいから許されるみたいな」
転校生について話しながら弁当を食べていた。どこもこの話題で盛り上がっている。特に他クラス。まだ見たことが無い人も多く気になるのは仕方ない。この学校という閉鎖空間では恐ろしいほど噂が早く流れるのだから。
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