第16話 狩りのはじめ

説明が終えると、俺達は早速受付所を出て、狩場へと向かう。


この学園では如何なる時も剣や、魔法の杖といった武器を持つことを強要されるので、今から取りに帰る必要もない。


ちなみに装備は誰も着ていない。


オルエイで装備を装着するのはあまり良しとされない為だ。


上位魔族が戦う時に装備を着ると、パフォーマンスが下がってかえって悪手となる場合が多い。


特に相手が強ければ強い程、装備はゼリーのように容易く破壊されるので、本当につけるだけ無駄になってしまう。


そういった事情があり、上位魔族を育成する為の教育機関であるオルエイは、少なくとも一年生の間は装備の装着を禁止している。


とは言え、俺達はまだ一年生で魔獣との戦闘は初めてなので、装備なしという心もとなさは実感している訳だが。


「とりあえず、どこに行く?」


そう言いながら、エリーゼは地図を開いて皆に見せつける。


地図には、狩場の場所名、生息している魔獣の名称、難易度が書かれていた。


全体像を見て改めて思うが、広いなんてものじゃない。


森や沼地、平原など、王都の中にあるとは思えないような場所が広がっている。


あらゆる環境を意識して作られたのだろう。とんでもない学校だ。


一つ一つのエリアは自然にあるもの程広いとは言えないが、訓練するには十分。


俺は難易度の一番低いエリアを指差して言った。


「確か、一年生は一番下のレベルからじゃないと駄目なんだよな?」


ナルキは髭のない顎をさすり始める。


「じゃあ、行けるのは四ケ所だね。エント沼、ヴァリー平原、サガント洞窟、赤の森。」


「わたくしは、エント沼はいやですわ。沼地と書いてあるので、かなり移動が大変そうですし、一番遠いので。」


「ささサガント洞窟も、ちちょっと怖いですよね。ど、洞窟探索は敷居が高いですし、う、薄暗い分危険も多いですし。」


ローズマリーと、ヨロが嫌な場所を指摘した。


「じゃあ、ヴァリー平原か赤の森のどっちか?」


「その二つなら赤の森がいいんじゃないか? ヴァリー平原はこっから一番近いから、人が多くて混みそうだろ。」


俺がそう言うと、エリーゼはうん、と頷いた。


「そうだね。この中だと、赤の森に行くのが一番よさそう。何か、反対意見のある人はいる?」


そう彼女が聞くと、誰も何も言わなかった。


皆この意見に賛成ということだ。


「よし、じゃあ、赤の森に行こう。」






★☆★☆★






赤の森へ向かうことにした俺達は目的地に向かって歩き始めた。


辿り着くまでのルートにヴァリー平原を通っていくので、途中で魔獣と逢えたらラッキーくらいの感覚で歩いていた。


辺りを見てみると、思っていたより魔獣が少ない。


遠くに魔獣と戦っている生徒がちらほらと見える。


だが、魔獣の全体の数は数えられる程しかいない。


毎日、一学年160人、全体で480人もの生徒が生活する為に魔獣を狩っているのに、これだと全て狩りつくしてしまわないか?


素朴な疑問が頭に浮かんだ。


結局道中、魔獣を狩りはしなかった。


見つけても、先に他のグループに取られたりしたからだ。


俺達も元々この辺で狩りをするつもりはなかったのもあって、少し遠くに獲物を見つけてもわざわざ追いかけなかった事もあるだろう。







とりあえず、十数分歩いていると、ヴァリー平原は超え、目的地の赤の森に到着した。


名前の通り、森は真っ赤に染まっていた。


葉っぱだけでなく、幹、地面の土の色まで赤で、異様な雰囲気が漂っていた。


ノエルが目を大きく見開いて、感想をこぼした。


「わあ、すっごい真っ赤。おとぎ話に出てきたお菓子の森みたい。食べれるかな?」


食べるな。


俺は心の中で彼女に突っ込みを入れる。


なんだか、しばらく話していて、ノエルのキャラが分かってきた。


この人相当な食いしん坊だ。


実はさっき来る途中も、地面に生えているキノコを食べようとしていた。


そもそもオルエイを受けた理由がご飯だというのだから、かなり末期症状な気がする。


ミナクールが色欲の化身なら、彼女は食欲の化身といったところだろうか。


ナルキは、真っ赤な木の幹に手を伸ばして触ってみる。


そして感触を確かめながら言った。


「普通の木だ。なんでこんな真っ赤なデザインになんかしたんだろう。」


「学校を作った人たちのただの遊び心じゃないのか?」


俺がそう返すと、彼は頷いた。


「まあ、そうだろうけど。」


無駄話をしていると、エリーゼが手をたたいた。


「はい、注目! 今から狩りを始めるわけだけど、どうする? 八人で強力して狩る?」


彼女は少し大きめ声でそう言った。


先程からそうだったけど、エリーゼは皆の事を仕切っているのが好きらしい。


クラス委員長タイプなのだろう。


彼女の呼びかけに、ローズマリーが応えた。


「とりあえず、最初の一匹は皆で協力して仕留めるのはどうかしら? 狩りがもともと何人でやるのを想定しているのかもわからないわけですし、一度実験してから余裕そうであれば人数を分けて効率よく狩るのはどうでしょう?」


彼女がそう言うと、皆なっとくするように頷いた。


そうと決まると、ナルキは即座に周囲を見渡した。


そして西の方角に指を差す。


「見て、あそこに一匹いるよ。」


距離は三十メートルくらい先。やや遠めといったくらい。


小型の狼に、角の生えた形状をしている魔獣だった。


俺は姿を見ると、即座に地図を見て、敵の種類を確認する。


「ラットウルフ。一番下のランクの魔獣だ。」


「腕試しにちょうどよさそうですわね。皆様、やりましょう。」


各々、腰に刺さっている剣を抜いて、戦闘体制に入る。


恐らく皆魔獣を見るのは初めてだ。


魔獣は魔界のあちらこちらに生息するが、森に入らないとまず遭遇することなどないし、森はとても危険なため、子供にはまず入らせない。


だから、実際に会う機会などまずない、未知の生物。


そういう背景があるからか、皆かなり気を引き締めて警戒していた。


最初にエリーゼが魔法を放つ。


「風の精霊よ、わが身をもって敵を薙ぎ払いたまえ。ウィンドカットッ!」


エリーゼの手のひらから、風によって作られた斬撃が、敵に向かって真っ直ぐ飛んでいく。


軌道は僅かにずれ、命中せず、ラットウルフを背中をかすった。


攻撃を受けたラットウルフはこちらの存在に気づいたのか、大声で吠えながら突進してきた。


「グルルルルッ・・・!」


近づいてきて初めてわかるが、かなり小柄で足も遅い。


これなら一人でも余裕ではないだろうか?


ミナクールが皆より一歩前に出る。


腰を落として、こちらへ向かってくる魔獣を素早く切り裂いた。


ラットウルフは真っ二つに分かれ、そのままピクリとも動かなくなる。


一体目討伐完了だ。


「なんていうか、弱くね?」


俺がボソッとつぶやくと、皆同意するしぐさを見せた。


「これ、一人で狩ることを想定してるんじゃない?」


ナルキは言う。


「まっ、ここに出現する魔獣はこの狼だけではないので、まだ断言は出来ませんが、確実に言えるのは、八人は過剰戦力でしたわね。」


ほんとにそう思う。


もしここに出てくる魔獣が全部同じレベルだとしたら、二人もいらない。八人なんて論外だ。メリットよりも全員分の食料を賄えるだけの魔物を狩らなくていけないというデメリットの方が明らかに目立つ。


同じ考えをしたのか、この一戦を終えてエリーゼが提案をした。


「初日っていうのもあるし、皆バラバラっていうのは流石に怖いから、2人ずつでわけない?」


彼女がそう言うと、真っ先にシアが俺の元へ駆け寄ってくる。


そして、


「じゃあ、私、エスタと組む♪」


「え? 俺?」


そう宣言した。


え? なんで俺?


男子同士、女子同士で組むんじゃないの?


なんなら俺この子と初めて会ってから対して時間経ってないんだけど。


というか、さっきから思ってたけどこのシアという女の子、やたら俺に絡んでこないか?


オルエイを受けた理由について話した時も前振りなく話題を振られたし。


何故か俺と組みにきた彼女を見て、ノエルは何かを理解した表情をした。


「あー、そういう感じ? じゃあ、私はミナクール君。」


食いしん坊は変態ナルシストを選んだ。


何故? この変人のどこに惹かれるんだ? 


俺は理由を考えたが、すぐに、顔かあ、と納得した。


残った四人だが、、、


「私は普通にローズマリーちゃんと組むね。」


「あまりものだね。一緒にがんばろ、ヨロ君。」


こちらは普通に男女別々で組むようだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る