第3話 オルエイ受験 前編
朝、俺は荷物を詰めていた。
受験票、魔法の杖、木刀は向こうで用意されるからいいとして、あとは筆記用具など、様々なものを鞄に詰め込む。
昼ごはんは道中で買っていけばいいか。
服装を整えて鞄を持って鏡の前に立つ。
そして、自分の顔を見ると、ひどい表情をしていることに気がついた。
まだ、会場についてもないのに手足が震えている。
極度に緊張しているのだ。
同時に、半年間の努力が無駄になるかもしれないという不安に駆られていた。
「しっかりしろエスタ、後は積み上げてきた物を発揮するだけだろ。」
鏡の奥の自分に話しかける。
固まった心をほぐすように。
俺は震えながらため息をついた。
「行こう。」
荷物を持って俺は宿を飛び出した。
☆
会場に着くと、数えきれないくらいの人が並んでいた。
皆、受験生だ。
空気はピリピリしていて冷たく、全員が本気なのが肌で伝わる。
俺は鞄の中から受験票を取り出し列に加わった。
数十分経つと受付け前に着く。
係の人に受験票を見せ、案内の紙をもらって自分の会場へと向かった。
試験が行われるのは学園の建物ではない。
学園が所有する巨大な森だ。
その広さは、王都内にあるというのに尋常じゃなく、端から端が肉眼で見えないくらいある。
学校によって完全に管理されており、生態系も自然のものとはまるで違う。
森の中にはAからZまで空間が振り分けられていて、受験生は指定されたエリアで入学試験を受ける。
ちなみに俺はMだ。
会場についてしばらく経つと、1人の先生らしき男がそんなアナウンスを始めた。
「これより、オルエイ高等学園入学試験を開始します。Eグループの受験生の皆様方は、私の指示に従うようにしてください。」
Eグループの人数は300人と少しだろうか?
確か受験生の推定人数が6000人だったから妥当な数だろう。
実際に受かるのはたった160人なのだからこの中から10人も受からない計算だ。
アーシャも、ナルキも、このグループではないらしい。
外国から来る人もいるくらいだから、しっかりと気を引き締めていかないと。
「ではまず、魔力測定を行います。移動するのでしっかり着いてくるようにしてください。」
そう言って連れて行かれたのは、何やら丸い球状のガラス玉が設置された場所だった。
なお、森の中なので室外だ。
しかしこの空間だけ、木が生えておらず草原とまでは言わないが、かなりのスペースが生まれている。
「受験番号1354番の方から順に、この玉に両手をかざして魔力を込めてください。」
受験監督がそういうと、生徒たちは1人づつ玉の前に立ち、魔力を込めて行く。
受験生が魔力を込めるたびに玉は金色に光出した。
明るさは人によって違った。
普通くらいの輝きを見せる人もいれば、強力な光を発する人もいた。
監督の先生は、魔力測定を行うと言っていた。
恐らく、この光の強さが魔力の量という事なのだろう。
「次、1405番。」
「はい。」
どうやら、俺の番が来たようだ。
緊張する中、必死に心を落ち着かせながらガラス玉と向かい合う。
そして手をかざして、先程言われた通りに魔力を込める。
だが、何も起こらない。
「あれ?」
「おい、ちゃんと魔力込めてるか?」
「は…はい。」
もっと強く体内の魔力を流し込むが、全く変化がない。
「なんで…」
試験監督はメモ帳のようなものに何かを書き込むそぶりを見せる。
額からは焦りから汗が流れ出ていた。
このままだと、魔力点がもらえなくなる。
しかし、現実は残酷だった。
「次、1406番。」
「ちょっと待ってください! まだ終わってません!」
俺は試験監督に抗議した。
だが、監督は俺を鬱陶しそうにガラス玉から引き離す。
そして、無慈悲にも俺の順番は飛ばした。
「次、1406番。」
そんな、、、
俺は、視界が一気に狭くなり、心臓が縮む感覚を覚えた。
☆
「次は身体能力試験を行います。それぞれの種目で体力、筋力、柔軟性などを測るので、指示に従ってください。」
次に連れてこられた場所には、目標のついたマットや棒が用意されていた。
まるで初等学校や中等学校で毎年初めに行われる体力テストのようだった。
体力テストならばかなり得意だったので大丈夫、と自分の心を落ち着かせる。
さっきの魔力試験で自分がかなり動揺しているのがわかる。
俺は大きく深呼吸をして、試験に臨んだ。
☆
「次は魔法試験を行います。窓に向かって得意な魔法を打ち込んでください。」
やばいやばいやばい。
俺の心はずっと雄叫びを上げていた。
身体能力テスト、自信あったのに、全くうまく行かなかった。
魔法なんて一番勝算が薄いのに、このままだと確実に落ちる。
俺は落ち着けと自分に言い聞かせ、魔法試験に挑んだ。
☆
午後4時。
俺は絶望していた。
フルのパフォーマンスを発揮できず、残るは対人試験のみになってしまった。
既にたくさんの試験が終わった。
魔力試験から始まり、身体能力試験、魔法試験、筆記試験、近接戦闘試験。
筆記試験だけは、勉強したかいがあってなかなかの自身があるが、それ以外はてんでダメだ。
魔力試験の事を引きずっているのもあるが、何より周りが優秀すぎる。
勿論俺よりもしたの人もかなりいるが、Mクラスで上から十番目以内に入れている自信がない。
思い返してみれば、どの分野でも、俺はクラスで上からの三番目のような立ち位置いた。
だが、オルエイに来るのは一番を取るような人達だ。
簡単に勝てるはずもない。
そんな簡単なことを、忘れていた。
「では、最後に対人試験を行います。学校が所有する闘技場へ移動するので、しっかり着いてきてください。」
落ちる。
確実に落ちる。
俺は頭を抱えながら監督について行った。
到着すると、そこにあったのはとてつもなく大きな闘技場だった。
一対一でやるにはあまりにも広く、まるで数十人規模の集団戦を意識して作られたような場所だ。
万規模で入りそうな観客席には、ポツポツと先生らしき人が座っている。
中には俺をオルエイに誘ってくれたエイリア先生の姿もあった。
情けない姿なんて見せてられない。今の俺にできる全力を出さなきゃ。
そう思い、配られた木刀を握りしめる。
同時に監督の先生からのアナウンスが入る。
「では、これから対人試験を始めます。指名された受験番号二人は前に出てきてください。」
そして、今日最後の試験が始まった。
順番に二人ずつの受験生が呼ばれ、剣、魔法、何でもありの対人戦が行われる。
「ではまず、1344番と、1362番」
「「はい」」
そう返事して、二人の受験生が前へ出る。
二人とも、見覚えのある生徒だった。
恐らくこの受験において、うちのグループのトップ2だ。
片方は、短髪の青髪と青目で、いかにも不良って感じの見た目。
もう片方は灰色の髪のセンター分けで、糸目と呼べばいいのだろうか? とても目が細く、言葉で表せない不気味さがあった。
どちらも男だ。
あらゆる試験で、高い点数をたたき出している。
まごうことなき天才だ。
試験監督が右手を挙げて言う。
「合図をしたら、戦闘開始です。この闘技場には特殊な結界が張られており、多少の怪我ならすぐに治るので、全力で戦ってください。先に攻撃を当てたほうが勝利。殺傷以外なら、魔法もありです。では、はじめ!」
試験管の合図で、二人は即座に足を踏み出す。
そして無詠唱で魔法を唱えながら、お互いに接近する。
とても速い。
無駄な動きが一切なく、洗礼されていた。
灰色の髪のほうは、水を剣にまとわせ、一方青いほうは、真っ青な炎を撃ち放っていた。
灰色が、魔法を切り裂くと、青髪が追撃を入れに行く。
凄い猛攻だった。
お互い全くひかない。
これが同世代の戦いなのか、、、
やはり、俺がオルエイを受けるのは場違いだったのではないか。そう思うほどだった。
激しい攻防が続くがしばらくたつと、決着がついた。
青髪の勝利だ。お互い剣技に差はなかったが、最終的に力で押し切ったようだった。
「そこまで。勝者1344番。よい戦いだった。次は…」
試験管は拍手をしながら、戦った二人を称える。
そしてすぐに次の対戦へと入った。
それからは流れるように対戦が進んだ。
監督が受験番号を言い、呼ばれたものは震えながら決闘をする。
当たり前だが、皆必死だった。
勝てば大きな加点が入るだろうと思ったからだ。
勝利した者は大いに喜び、敗北した者は大いに悲しんだ。
一つ気づいたのは、俺より弱い人がいない事。
ほかの試験なら、真ん中くらいを何とかキープしていたのに、戦闘になると全く勝てるビジョンが浮かばなかった。
俺より剣技が下手だったやつも、何故か対人戦となれば化けた。
そりゃそうか。ここはオルエイ高等学校。
国で最も強い魔族が通う学校だ。
成績など二の次、最も大事なのは戦闘力。
何故ここが最難関なのか、改めて実感した。
そして、十戦くらいが終わったところで、俺の名が呼ばれる。
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