第二部:救世主症候群・全容編【ADDICTOON】
剣都編あらすじと解説文
〇剣都編あらすじ
大きな港を有する新興国エディアにて、王族であり剣聖の孫ジェイド・エディア・カランは親衛隊長の父と最愛の姉ライラ、叔父一家と飼い犬2匹と幸せに暮らしていた。剣技に長けたジェイドは鍛錬の隙間に。従兄弟であるアルセイド・エディア・ルクスと港へ出かけていくのが好きだった。
ある風の強い日、いつものようにジェイドがアルセイドと港の展望台にいたところ倉庫街から大きな衝撃音が響き渡り、港が壊滅する現場に居合わせることになる。爆発は火災を呼び、強風によって大きな火災に発展する。生き残った人々は港から本島に避難しようとするが、人数が多すぎて橋が機能しなくなる。橋を渡ることを諦めたジェイドとアルセイドは本島に戻るため、火の手のあがる住居区を横切ってその向こうの管理区へ向かうことにする。
命からがら管理区に辿り着いた2人は緊急用の脱出路を使って無事本島へ避難することができた。しかし強風により本島も多くで火災が発生し、街は危険な状態であった。一刻も早く戻りたかったジェイドは、アルセイドを連れて城へ向かう決心をする。あちこちで上がる火の手をくぐり抜け、ジェイドはアルセイドを城へ送り届けることができた。しかし行方の知れない姉のライラを心配してジェイドは再び城を飛び出していく。
ジェイドは姉の捜索の途中で従兄弟のミルザムと会い、家族がバラバラになっていることを知る。安否の知れない姉を探してジェイドが駆け回っていると、城に繋がる裏道でライラと再会することができた。喜ぶジェイドだったが、ライラから城にリィア軍が入ったことを聞かされる。
リィア軍から逃れるためにライラとジェイドは深夜に避難所を出て行く。しかし、後からリィア軍の兵士と思われる3人組に襲われ、ジェイドはライラへの見せしめに左腕を折られる。3人組に連れて行かれたライラを助けるためにジェイドは姉の後を追いかけるが、敵うはずも無く酷い目に合わされる。
ジェイドが気がつくと穴の中にいて、3人組のひとりに姉の遺体と土をかけられているところだった。兵士はジェイドが生きていることに気付いているのかいないのか、完全に土を被せて行った。穴の中でジェイドはもがき、何とか地上に脱出して助けを求めに行き、そこで力尽きる。
瀕死であったジェイドは保護されたが、自分の名前を明かせない上に精神的なショックで声が出せなくなっていた。リィア軍に王家を始め父も身内も全員殺されたと聞き、更に姉の遺体を目の当たりにしたことで自身の死も強く願う。そこで避難所で自分の息子を探す母親に「ティロなの?」と呼びかけられる。それをきっかけに頭の中に自分に語りかける声が聞こえるようになる。その声をジェイドは「友達」と呼び、死んだと思われるティロのためにも生きることに決める。
もう一度埋められた姉の元を訪れたジェイドは、父から受け取った指輪を姉の遺体に託して自身は姉の指輪を身につける。そして姉と今までの自分自身を埋葬し、当面は何とか生きていくことだけを考え、その場を後にする。
〇剣都編リンク
https://kakuyomu.jp/works/16817330664310915681/episodes/16817330664626027255
○キャラ動向
ジェイド(8)
「姉さん犬!」という彼を表現するのに相応しい台詞と共に登場する超絶不幸な主人公。姉と犬と剣。そこに薬が入れば彼を全て説明できる。なんて奴だ。そして明らかになる眠れないほどの姉愛。正直、この話の全てがこの「姉愛」で引き起こされていると言っても過言ではありません。少年、今のうちに寝ておけ。
そして思いがけず彼はしょうもない奴ですし、根は真面目でいい奴です。事件編ではいまひとつ見えてこなかったのですが、全容編ではこの「根は真面目でいい奴」が後々ろくでもない方向に発展していきます。事件編では薬物の影響なのかと思われていた独り言ですが、実は独り言のほうが先に発動していました。この「独り言」も今後の物語に大いに関わってきます。
姉ライラ(15)
発起人ではなく、ジェイドの姉のライラです。母親似の超絶美人です。発起人のライラと被るので解説では「姉ライラ」と呼んでいます。「犬1犬2」が明らかになると、何故発起人の彼女がライラになったのかがわかると思います。
セイリオ(35)
ジェイドの父親。エディアの親衛隊長。弟のソティス(ジェイドからすれば叔父)と共に剣聖の息子として頑張るお父さん。そして有明編で「アリア王女に熱心に求婚してきた男」です。どんな求婚だったのかは、姉を想うジェイドの心境から何となく想像してみてください。ついでにそれほど愛した女に先立たれ、忘れ形見の子供を置いて城へ向かった彼の心境は作中明らかになりませんがなかなかのものがあったと思われます。
アルセイド(8)
エディア第三王子。ジェイドの従兄弟にして分身の如くの大親友。彼の登場自体も姉ライラと同じくほぼこの章だけなのですが、以降のジェイドの人生に姉ライラ並に絡んでくるので超キーパーソンです。彼らの友情は単に誕生日が近いと言うだけで常にニコイチで扱われてきたところから始まっているため、お互いをかなり意識しています。
作中で明言していませんが、「頭の中の友達」は彼がモチーフです。もしアルセイドが生きていたらきっとこんなことを言うに違いない、というのが「友達」の発端です。つまりアルセイドは文字通りジェイドの中で「友達」として生き続けていくわけです。
ミルザム(13)
ジェイドの従兄弟。偉大なるカラン家の後継として彼も剣技一筋で育ってきました。ジェイドからすれば兄のようなものです。ちなみに妹のフィオミアは10歳で、姉ライラによく懐いていました。
リィア兵三人組
ここでは明らかになりませんが、クラド、ザミテス、ゾステロ三人の関係性なんかも全容編では明らかになります。主犯のクラド、肩を折ったゾステロ、そして生き埋めにしたザミテスなのですがジェイドはこの中でとにかくザミテスを一番恨んでいます。その理由もこれから明らかになると思いますよ。
○人物整理
ちょっと一気にジェイド周りの人物が登場したので、簡単に整理します。ほとんど死ぬのですが、ここで名前が出てくる人たちはそれなりに役割があります。
《カラン家の屋敷に住んでる人たち》
セイリオ・カラン……ジェイドの父アリア・エディア・カラン……ジェイドの母(故人)ライラ・カラン・エディア……ジェイドの姉
ソティス・カラン……セイリオの弟でジェイドの叔父エオマイア・カラン……ソティスの妻でジェイドの叔母ミルザム・カラン……ソティスの息子でジェイドの従兄弟フィオミア・カラン……ソティスの娘でジェイドの従姉妹
《その他カラン家及び御三家》
デイノ・カラン……ジェイドの祖父で唯一無二の剣聖キャニス・ディルス……セイリオとソティスの姉。御三家のディルス家に嫁いだ。ロックス・ファタリス……ジェイドの幼馴染で士官学校を卒業した兄がいる
《エディア王家》
マラキア・エディア・モレル……エディア女王マレーネ・エディア・モレル……マラキアの妹でアリア王女の姉アルセイド・エディア・ルクス……マラキアの三男で四人兄弟の末っ子
ステラ・ブルーバック……マレーネ付きの女中筆頭
※王家の名前の表記については「生まれたとき、王から見て一親等にあたれば王名が先、二親等や婚姻で王家に入れば王名が後、そこまでを王族をする」という原則です。先王の孫にあたるジェイドは「ジェイド・カラン・エディア」ですが、現女王の息子のアルセイドは「アルセイド・エディア・ルクス」になります。この原則は後々大事になってきます。
○内容解説
*第二部は全容編ですので、更なる謎に加えて明らかになった部分の解説や小話なんかもしていきます*
《第1話》
「犬1と犬2」→懐旧編でライラに対して「俺名前つけるの苦手だからさ」ともじもじしていましたが、本当にセンスのかけらもなく壊滅的です。この壊滅的センスが後々ろくでもない事態を引き起こしていきます。この作品の裏テーマが「名前」なので、こいつがこういうクソみたいなネーミングしかできないのは仕様です。これから先も何かに名前をつける機会がちょくちょくあるので、注目してみてください。
「エディアは女王統治なの?」→先王の子供が三姉妹だったので、後腐れなく長女が継ぐ形になりました。事件編を読んだ方なら「じゃあ王女と結婚して王になったヴァシロは何なんだ?」となりそうなので細かいところですが簡単に説明すると、エディアとリィアは新興国であり爵位はそのときに一度廃止されました。その代わりどちらも氏族政治に偏り始めようというところでした。先に思いっきり氏族政治に舵を切ったのがリィアのダイア・ラコスで彼は実権を得るために息子を王家に入れて次の王にまで指名しました。その結果が事件編の反乱です。この辺りのリィア王家のごたごたに関しては当事者のフォルス視点で後々語られる予定です。
翻ってエディアなのですが、この時点では大幅なバランス悪化は起こっていませんでした。ひとえにエディアに関わる人々に「港を守れ」という共通した目的があったことと、番犬のようなヤバい一族が周囲に控えていたことが大きな理由です。ただ革命思想がエディアに入り込んだ際はどうなっていたのかはわかりません。
「剣技の設定」→この世界の剣技はこの世界専用にカスタマイズされた都合のいいフィクションなので実際のところはおそらく違うと思われるのですが、この世界での剣技はこちらの世界でいうところのチェスや将棋とも似たような性質があります。更にどんな剣技の型を習得しているかというカードバトルのような要素もあります。こうやって書くと要はジェイドは大谷翔平と藤井聡太が合わさった上での母親めちゃくちゃ美人しかも王族という最高な牌で生まれてきたことになります。才良し器量良し家柄良しのかなりすごい奴でした。ついでに基本的に「いい奴」です。そう、すごい奴だったんですよ本当は……。
「本気で自分の姉が好き」→事件編から何やら不穏な空気がありましたが、彼は本当に自分の姉が大好きで大好きでたまらないのです。それは姉が死んでからも続いていて、事件編で起こる惨劇の原因の一端になっています。この拗らせた姉患いがずっと続きます。気持ち悪いのは本人も自覚しているようです。
「温めた牛乳に蜂蜜を溶かしたもの」→要はただのホットミルクです。身体が温まってリラックスできますが、実際にこれを飲めばよく眠れるわけではありません。ほぼおまじないのようなものです。
《第2話》
「アルセイドの港歩きは許されているの?」→もちろん本来は許されていません。ただ彼が第三王子であることでかなり放任されていることと、彼が港に興味があるということを周囲が知っているため半ば黙認という形になっています。更に一緒にジェイドがいるからいいだろうとも思われています。
「わるいもの」→これは作者の偏見ですが、港には基本的にマフィアが住み着いて密輸を行うものと相場が決まっています。しかもそれに港湾組合が乗っかっている、なんていうのはよくある話です。エディア港でもそのようなものが警備隊と小競り合いや癒着を繰り広げていたのだろうと推測しています。
「なんで剣技指南じゃなくて剣術指南なの?」→単純に作者都合で「けんぎしなん」の語呂が異様に悪いなと思っただけです……そもそもなんで「剣技」なのかというも「けんじゅつ」と打つのが面倒くさいという最悪な理由からなのです……!
「勝てばいいんだよ勝てば」→これは事件編にも出てきましたが、デイノ・カランの口癖でした。本来は彼も事あるごとにこれを言っているはずでしたが、事件編で書くのを忘れました……。
「うちの男は血の気が多い」→基本的にカラン家の男は好戦的な性格のようです。それはジェイドも変わらないのですが、その性格がどう彼の人生に影響するかは事件編から察することができると思います。
「お前らは俺とアリアの自慢の子供たちだ。何があっても大丈夫だ、安心しろ」→ジェイドの中で、これが聞いた父の最期の言葉です。これを踏まえてもう一度事件編に戻ってもらうと、とある事情がある種納得できるものになると思われます。
《第3話》
「光る煙」→これが何を意味するのかは後々作中で書く予定なのでここでは書きませんが、港での爆発事故と言えば最近ではベイルート港爆発事故ですね。それと似たような爆発事故がテキサスシティ大爆発、そしてハリファックス大爆発です。先にこれらを調べておくと、エディア港で何があったのかはわかると思います。
「橋での火災と群衆事故」→ちょうどこの辺を書いているときに関東大震災から100年と言うことであちこちでそんなことをやっていたのですが、関東大震災というよりこの橋での群衆事故は日本だと明石の歩道橋の群衆事故を想起する人が多いと思います。最近でも韓国で群衆事故が起きましたね。群衆事故は警備の不備が原因で起こることが多いらしいです。この場合は、仕方ないですかね……。
「非常通路」→このエピソードにも下敷きがあって、多くのビル火災やデパート火災で死者が多く出た理由の大部分は「避難誘導ができなかったから」というものがあります。特に「千日前デパート火災」では従業員の多くが非常階段の存在を知らなかったため、また避難用の救命具の使い方を知らなかったために死者数が増大したという話があります。つまり避難訓練大事って話です。それにしても港全域が一気に燃えるという想定は流石にしていなかったので作中では仕方ない話ではあります。
《第4話》
「火の粉」→火の粉と言ってもたき火のパチパチではなく、数十センチくらいある燃えかすが飛び交ってる状況です。可燃性ある場所に落ちたら燃えますし、人の上に降ってきたら大変です。ちなみに大火災と言えば明暦の大火ですが、最近糸魚川であった大火災や酒田での大火災も相当大変だったようです。
「王様は生きてることが仕事だから」→このときのジェイドは無邪気にそんなことを言っていましたが、この言葉は後でリィア王家とオルド王家にも降りかかってきます。生存が仕事ということは、即ちその裏側も存在意義に含まれるというわけです。
「キオンとスキロスはどこかに逃げた」→事件編で彼らのその後は明らかにされているので未読の方は確認しておいてください。書く隙が一切ないけど、彼らを発見したときの彼はどんな気持ちだったのかなと思うと……。
「事件編での災禍の話と少し違う?」→彼はレリミアを怖がらせるために少し盛ったようです。ただ、見たことは大体合っているはずです。多分。
《第5話》
「人目を避けて避難所を出る」→結果的にこの選択は間違いだったのですが、二人ともかなり精神的に追い詰められていました。一刻も早くリィア兵の目の届かないところに行くというのは彼らにとっての重要事項でした。
「ねえ君たち、こんな夜更けにどこに行くのかな?」→有明編でも疑問に思われていましたが、少なくとも姉弟のほうは夜道を歩いて行く理由がありました。それではリィア兵三人組は何故こんなところにいたのでしょう? この辺は後で当人に語ってもらいましょう。
「結局例の件の内容は詳しく教えてくれないの?」→この記述はレーディング対応というわけではなく、本人が目の前の光景及び自分に降りかかった出来事を認識することすら嫌がっているのでしばらく教えてもらえません。ただ、事件編を読み返すと例の件について全容がわかりそうなイベントがあります。そこまでお待ちください。ちなみにこの後も主人公に限らず登場人物当人たちにとって「思い出したくないこと、嫌なこと、都合の悪いこと」というのは基本的に語られないことが多いです。その辺が全部明らかになるのは解決編ということになりますので更にお待ちください。
「なんで彼らは生死を確認しなかったの? 踏み固めなかったの?」→ここだけ読むとこの辺は明らかにジェイドを生かそうとしているのかと思うのですが、彼には彼なりの心情というか、事情があります。そもそも何故こんなことになったのかというのも含めての全容編ですので、本人がどう思ってこんなことをしたのか話してくれそうなところまで待っていてください。ついでに、そちらも娘を人質に取られても話したくないようなことらしいです。
《第6話》
「実際彼はどのくらい気を失っていたの?」→意識を失っていたというか、記憶がないのは2日ほどです。怪我に加えて災禍から逃げた体力もほぼ回復していなかったのと諸々の精神的ショックでかなり錯乱していたようです。その後療養所では2週間ほど寝たきりで過ごし、起き上がれるようになって歩けるようになった3週間後に療養所を追い出されました。それから3日後にティロのお母さんが来て、そこから1週間ほどで避難所を出て宛てのない放浪に出て行きました。
「本物のティロはどうなったの?」→事件編でも語られているとおり、影も形も見つかりませんでした。そしてその後は、事件編で語られている次第です。
「友達……」→察しがいい人はわかると思うのですが、この友達のモデルは自分が殺したと思っているアルセイドです。大切な人の死を受け入れることが出来ないどころかそれを悲しむことすら状況が許してくれなかったジェイドが心の安定を保つために作った「友達」です。ジェイドも自分が変になっているという自覚はあって、それでも「友達」と語るのを少なくとも事件編の最後まで止めることはなかったんです。つまり、これは周囲から完全に隔絶された中で唯一本音を言うことの出来た「友達」の話です。
「指輪……」→事件編で話題になった「指輪の話、不自然じゃない?」の答えがこれです。そうなんです、姉共々埋められたんだったら、姉が身につけていた指輪を持っているのはおかしいんじゃないの、と。ドン引き必須の真相なのですが、彼の中では「これで僕は姉さんと永遠に結ばれるんだ」と誓いの指輪の交換みたいなことが行われていたはずです。ちなみに、彼の姉への愛(?)はこれに留まることを知らずにずーっと続きます。正直気持ち悪いという感想が出るレベルで気持ち悪いです。それは本人も自覚しています。
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