第12話 運命の人なのか?

 私はリュディガー様のことをお慕いしているようだと気がついた。


 ここにくるまでうきうきしいたし、お顔を見ると胸が高鳴り幸せな気持ちになる。さっきあんな嫌なやつに会ってしまったから余計だ。


 リュディガー様はあいつらのせいで苦しんだのだろう。悔しい。


「リュディガー様、この国から逃げませんか?」


 私は無意識そんなことを口走っていた。


「逃げる?」


「ええ、我がバーレンドルフに逃げましょう」


 しかし、私の言葉にリュディガー様は目を伏せた。


「私にはこの国にために祈る責務がある。他国に逃げることなどできない」


「この国があなたに何をしてくれたのですか? 母や祖父母を奪い、冷遇し、迫害されました。側妃の家が流した噂のせいで国中の誰もが守護の神に選ばれた聖人なんてただの迷信だと言っています。ただの迷信ならあなたがいなくても問題ないです。イルメラ様はあなたより弟様を信じるようですし、もうこんな国捨てましょう」


「しかし……」


 私はリュディガー様の手を取った。


「私はあなたの瞳を見た時から、あなたが運命の人だと潜在意識でわかっていたようです。動けなかった。あなたも私が運命の人だと気がついているでしょう?」


 リュディガー様は目を伏せたままだ。


「ハイデマリー殿下はバーレンドルフ王国の次期女王だ。あんな男と同じ血が流れている私など相応しくない。私はあいつらに復讐をし、この国とともに消えるつもりです。何も楽しいことなどなかったこの人生であなたに会えたことは私に取って宝物のような記憶になりました。妃殿下はすでに国元にお戻りなのでしょう?」


「はい、叔母はもうバーレンドルフで静養しております。お気づきでしたか」


「はい。それならあなた方も早くお帰りになって下さい。マインラート達が何がしようと企んでいます。あなたを危ない目に遭わせたくない。私は祈るだけしかできない。あなたを守る力なんてない。私に力があれば、あなたを守ることができる力があれば……」


 リュディガー様は目を伏せたまま、拳を握りしめている。


 今まで私のことをそんなふうに思ってくれていた人などいない。影や両親以外に私を守りたいと思ってくれる人などいなかった。

 私は子供の頃から強い王女として認識されていた。魔力が強く、武力にも優れていた。そして性格も母譲りで苛烈。強いから大丈夫と思われていた。


 王配候補を探していたが、私の前に現れるのは地位や名誉に群がる輩ばかり、本当の私を見てはくれない。


 言葉などなくともエネルギーで私達は分かり合える気がする。運命の人とはそんなものなのだな。


「探さなくても運命の人に会ったらすぐにわかるわ。それがどんな人でもね。私の運命の人は凡人だけどそれでよかったわ」と母は笑っていたことを思い出した。


―キィー


 礼拝堂の扉が開きスティーブが現れた。


 礼拝堂の中にも遮音魔法や幻影魔法をかけている。話は聞かれていないはずだ。


「ハイデマリー殿下、リュディガー様、少しお時間よろしいですか」


「あぁ、何かあったか?」


「マインラートが薬の手配を薬師にしています」


「薬?」


「はい。効き目の強い精神拘束薬と、媚薬です。おそらくハイデマリー殿下に使用されるおつもりでしょう」


 はい? 何で? スティーブがそんなこと?

さっきまで目を伏せていたリュディガー様は顔を上げ私を見た。


「ハイデマリー殿下、スティーブは私側の者なんだ。王家に潜入して探ってくれている」


 えっ? そうなの。私はハンナを見た。ハンナは力強く頷く。


 ハンナも知っていたのか。


「隠していて申し訳ございません。スティーブ様はヴェルトミュラー家の影でございます」


 ハンナが言う。


 良かった。リュディガー様にもちゃんとそういう人がいたのだな。

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