第10話 私の生立ち(リュディガー視点1)

 バーレンドルフ王国の王女が我が国に留学してくると王妃殿下から聞いた。


 王妃殿下の姉君の娘だそうだ。


 王妃殿下はバーレンドルフから我が国に嫁いできた。亡くなった母と仲良くしてくれていて私も亡くなったリヒャルド殿下と一緒によく遊んでいた。


 王妃殿下はリヒャルド殿下が亡くなってから体調を崩し、離れで静養されていた。私は母と一緒によく王妃殿下のお見舞いに訪れていた。


 しかし、私達を乗せた馬車が事故に遭い、一緒に乗っていた祖父母と母が亡くなった。私だけがら奇跡的に助かった。


 父はすぐ後添いを迎えた。側妃の妹だ。後添いは私を冷遇した。まともな食べ物も与えられず、躾だと称して危害を加えた。

 元からの使用人達は母に隠れて私に食べ物を持ってきてくれたり、手当をしてくれ、なんとか生きながらえていた。


 弟が生まれてからはその仕打ちがより酷くなり、使用人達も一人二人といなくなった。


 私は義母と弟によって、我儘で傲慢。暴力をふるい義母や弟や使用人に怪我をさせる嫡男だと噂を広められ、周りから距離をおかれるようになった。


 そんな時、王妃殿下が私をあの家から、救い出してくれた。


「リュディガー、私がもっと早くこうしていればよかったわね。なかなかヴェルトミュラー家の監視が強く救い出せなかったの。今回もあなたが悪いということにしてしまってごめんなさいね。この汚名は必ず晴らしますからね」


「ありがとうございます。救い出していただけただけで感謝しております」


 義母と弟を私から守るという触れ込みで私はこの礼拝堂に幽閉されることになった。


 本当は幽閉という名の保護だ。


 礼拝堂の司祭は亡くなったヴェルトミュラー公爵夫妻、私の祖父母の友人で私の味方だった。王妃殿下が嫁ぐ時にバーレンドルフ王国から一緒に来た侍女のハンナと一緒に私の世話をしてくれた。

 私がこの礼拝堂に保護された時は骨と皮だけだった身体も、今ではなんとか痩せているくらいにまで回復した。あの家で表立って与えられる食べ物や飲み物を口にすることは死を意味する。枯れ枝のような身体になっても食べないことを選んだ。義母達から受けた傷も王妃殿下が回復魔法をかけてくださり、ある程度は治った。しかし、あまりにも深く酷い傷はまだ痕が残っている。


「ごめんなさいね。私はそこまで魔力が強くないの。お姉様ならあなたの傷など綺麗に治せるのだけどね」


「ありがとうございます。私はこれで十分幸せです。私こそ守護の神がついているヴェルトミュラー家の者なのにこのざまです。これからは王妃殿下の幸せを祈ります」


 きっと私の祖父母や母もリヒャルド殿下も側妃と私の義母姉妹に殺されたのだ。ふたりは王家とヴェルトミュラー公爵家を手に入れ、この国を我が物にしようとしている。それならそうすればいい。私はもう、こんな国などどうなってもいい。


 私は側妃の娘のイルメラ王女の婚約者だ。しかし、婚約を破棄し弟のマインラートと婚約をしようとしているらしい。

 王家と国に守護のヴェルトミュラー家が縁続きになれば国は安泰という。兄でも弟でもいい。どうせ、神の守護などただの言伝えなのだからと皆言っているらしい。


 貴族達も忘れているのだろうか?

父は入婿。義母との間に生まれた弟にヴェルトミュラー家の血は一滴も流れていない。


 私はきっと殺されるだろう。


 私が死んだらヴァルトミュラー家の血は絶える。


 それも祖父母や母を殺したこの国への復讐になる。


 私は殺される日を待ちながらこの礼拝堂で王妃殿下の幸せを祈っている。


 そんな毎日を過ごしていたあの日、バーレンドルフから留学してきたハイデマリー殿下が私の前に現れた。

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