任務開始

 ランスローがクロガネたちに提示した仕事は『YAMATOが開発した自立型農耕ロボットUKANOMITAMAの回収』。依頼人はアルバート・イェーガーという初老の男性だ。


「調べたところ、アルバートさんは元ロボット工学の教授で、マティアス博士の恩師だそうです。いまは『北海道』と呼ばれた島国でひっそり暮らしていると聞きました」

「カイトの親父さんを知る人物か。ヴィルトゥエルを生みだした経緯も知っていそうだな」


 クロガネはランスローから差しだされた依頼書を受け取り、ざっと内容に目を通す。


「にしてもこの自立型農耕ロボットUKANOMITAMAってなんだ? 一般の農耕ロボットとなにか異なるのか?」


 クロガネの質問に、ランスローは大型ディスプレイにそのロボットの画像を映す。

 それは四対八本の脚部と蟷螂かまきりのような鋭利な鎌をした腕部が特徴的な単眼のロボットだった。


「これ、農耕ロボットか? どう見てもパンツァーだろ」

「農耕ロボットです。製作者は不明とされていますが、唯一わかっているのはUKANOMITAMAには“AI”が搭載されていること。それ以外の情報はありませんでした」


 AIが搭載されている農耕ロボット。パンツァーが製造される以前はこのような自立型の作業用ロボットが主要だったのだろう。

 クロガネはひとりで納得しつつ、アルバートがUKANOMITAMAを回収したい理由を聞く。


「このアルバートっておっさんはUKANOMITAMAでなにをするつもりだ?」

「米を作るみたいですよ」


 ランスローの返答に、クロガネは耳を疑う。


「なんだって?」

「日本の米を作りたいそうです。世界政府の技術で出来ないなら、実際に作ってしまえ。幸い、“北海道”と呼ばれた島は自然環境が昔と変わらず残っていたので作物栽培にはうってつけ、と――」

「その依頼、引き受けた!!」


 ランスローの話を掻き消すほど、クロガネは声を張り上げた。


「UKANOMITAMAの回収、やってやろうじゃねえか!!」


 やる気満々のクロガネを、ランスローは真顔でじっと見てから口を開く。


「やる気があるのは良いことです。では、依頼書にサインをお願いします」

「おう!!」


 クロガネは依頼書に手早くサインを書いてランスローに渡した。


「アルバートさんには私のほうから伝えておきます。契約成立後、出立。その間はシュヴァルツ・アシェの調整をしておいてください」

「了解!!」


 意気揚々と返事をするクロガネの背後で「米に釣られやがって……」とアカサビの呆れる声がした。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 契約が成立する間、クロガネとカイトはガレージで『UKANOMITAMAの回収方法』について話し合いながら、タブレットでシュヴァルツ・アシェのパーツと武器を選んでいく。


「スクラップ厳禁の回収任務か。改めて見ると難しい任務な気がしてきた」

「米に釣られて引き受けるから……」

「いや、おまえだって食べたいだろ。日本産の米」

「食べたいけどさ、UKANOMITAMAの情報がなさすぎて、シュヴァルツ・アシェのパーツをどうするかが問題だ」


 UKANOMITAMAが“ただの”農耕ロボットなら良いが、もし情報にない武装をしていたら……。パーツや武器によっては苦戦を強いられる可能性もある。

 クロガネとカイトは考えた末、頭部ヘッドパーツをKUSANAGIに固定した2パターンの形態にした。

 ひとつは軽量型である朧のパーツを使ったスピード重視の暗殺特化。暗殺というよりも相手の動きを封じるための近接重視で、武装はブレードと暗器のみになる。

 もうひとつは中量二脚型であるカリバーンのパーツを使った遠近攻撃特化。相手が近接武器を持っていた場合の対処法だ。武装はビーム系で構成している。


「作戦としては、まずUKANOMITAMAの四肢の関節部分を狙って動きを封じる。相手が動かなくなったらアカサビが操縦する大型ヘリのワイヤーで固定。依頼主へ届けるって感じだ」


 カイトの説明を聞いて、クロガネは頭のなかでシミュレーションをする。作戦としては問題ない。UKANOMITAMAがどんな動きをしてくるか次第になるだろう。


「あとは実践あるのみだな」


 クロガネがそう言ったとき、タイミング良くアカサビが来た。


「契約が成立した。すぐに出発するぞ」

「了解!!」


 アカサビに呼ばれ、クロガネとカイトは大型ヘリに乗り込んだ。

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