決闘〜クロガネVSセイブル〜
カイトによって短時間で調整を済ませ、クロガネは錆が綺麗に落とされたパンツァーに乗り込む。
カイトが調べたところ、パンツァーの名称は『KUSANAGI』。
開発企業はYAMATOと聞いて、クロガネは驚いた。農耕用ロボットを製造していた企業が、武骨なパンツァーを製造していたことが予想外だった。さらにパーツの性能は『近接武器特化』となっており、クロガネとの相性は悪くない。
左腕に鉄刀。右腕にマシンガン。両肩には小型2連双対ミサイルを装備する。すべての準備が整い、KUSANAGIは舞台へと上がる昇降機へ乗って勢いよく地上へ上がっていく。
舞台へ着くと、KUSANAGIのカメラアイに入ったのは人型二脚のパンツァー。重騎士を思わせる重厚な装甲をまとった大柄の体格。両腕にはレーザーショットガン、両肩には3連レーザーキャノンが装備されていた。
そのとき、目の前の機体からクロガネへ通信が入る。出るのが
「はいはい。なんですかー」
クロガネが棒読みで応答すれば、通信相手――セイブルの苛立った声が響く。
『随分と余裕だな』
「嫌がらせでもらった錆塗れのパンツァーの性能が良かったからな」
『あの錆塗れをどうやって落としたかは知らねぇが、俺のカムランには勝てねぇよ』
カムラン。
セイブルが搭乗するパンツァーの名称であろう。
あの重厚な装甲にKUSANAGIの攻撃が通じるか、クロガネは少し不安になる。
(カイトを信じるしかないか!!)
クロガネは調整をしてくれたカイトを信じ、操縦桿を握りしめる。
戦闘開始のゴングが鳴った。瞬間、カムランが3連レーザーキャノンを放ってくる。
「――ッ!?」
交差する青白い六つの光線をKUSANAGIは飛び上がって回避し、反撃としてミサイルを放つ。複数のミサイルは遊泳する魚のように飛び回り、カムランへ直撃した。
爆風が吹き荒れ、白煙が広がっていく。姿が見えなくなった相手にクロガネが警戒していると、警告音が鳴り響く。
KUSANAGIは反射的にクイックブーストをして右側へ移動する。刹那、煙のなかからカムランが飛びだしてきた。あと一歩遅ければ、あの巨体に押しつぶされていただろう。
KUSANAGIはマシンガンを構え、カムランの背後へ回り込んでから引き金をひく。見た目通りの重装甲で銃弾はほとんどはじかれた。
『効かねぇなぁ!!』
通信機から聞こえてくるセイブルの嘲笑に、クロガネは苛立ちを覚える。しかし感情に流されないよう、冷静に相手の動きに集中する。
あの重装甲をどう攻略すべきか。
ふとクロガネは、試合が始まる直前カイトからもらった助言を思いだす。
『装甲の厚い相手には衝撃力のある武器で機体負荷を与えていくんだ』
パンツァーは被弾することによって機体温度が上昇するとシステムエラーを起こし、一時的に行動不能に陥る『スタン状態』となる。
クロガネはシステムエラーを狙い、カムランの攻撃をかわしながら、マシンガンとミサイルでの猛攻を続けていく。
確実にダメージは蓄積されている。だが、まだ足りない。もっと大きな衝撃力を与えることが出来る武器でないと――。
そのとき、タイミング悪くマシンガンとミサイルが弾切れとなった。
クロガネは最悪だと思いつつ、装備をパージする。残った鉄刀のみでどう立ち回るか考える前に、カムランがKUSANAGIへ体当たりをしてきた。
壁際まで吹っ飛ばされ、KUSANAGIのコックピット内が激しく揺れる。
KUSANAGIの体勢を立て直すよりも速く、カムランが距離を詰めてきた。KUSANAGIの頭部をつかまれ、壁へたたきつける。完全に押さえ込まれると、セイブルからクロガネへ通信が入った。
『鉄刀だけでカムランに勝てると思うか? そろそろ降参したらどうだ?』
「……そうだな」
クロガネの返事にセイブルは鼻で笑う。
勝利を確信する相手に、クロガネは挑発的な口調で告げた。
「だが、カイトは降参する気はないぜ」
『……は?』
クロガネがカイトの名を口にした瞬間、カムランの動きが止まる。
その一瞬の隙を、奥のサポート席に座っていたカイトは見逃さなかった。
カイトが提案したKUSANAGIの錆を落とす方法――それはKUSANAGIを仮想空間に取り込み、データとして再構築すること。
つまり、この機体は『KUSANAGI』ではなく、そのパーツに換装した『シュヴァルツ・アシェ』だった。
カイトはセイブルのクロガネに対する嫌がらせを仕返しするため、自身もシュヴァルツ・アシェに搭乗したのだ。
「バッグユニットに小型連装グレネードキャノンを着装」
パージした小型2連双対ミサイルに代わって小型連装グレネードキャノンがKUSANAGI――『シュヴァルツ・アシェ』の両肩に現れると、砲口をカムランの頭部に向け至近距離で爆撃を浴びせた。激しい爆発音が響き、赤と黒が混じった砲煙が漂う。
至近距離で撃たれたカムランは姿勢を崩され、シュヴァルツ・アシェから手を離す。さらに強力な爆発攻撃を受けたことで一時的に行動不能となった。
シュヴァルツ・アシェは鉄刀を構え、カムランの頭部へ狙いを定める。鋭い切っ先を前へ突き出し、勢いのままに貫いた。
火花が激しく散るなか、カムランの両腕が力なく垂れ下がり、片膝が地に着く。
一瞬の出来事に、観客は騒然となった。審判もシュヴァルツ・アシェの両肩に新たな武器が現れたことに戸惑っている。
これは事が大きくなる前にずらかるべきか、とクロガネが思った矢先、突然舞台上の天井が崩壊し、三機のパンツァーが降り立った。三機とも重量二脚型で重火器系の武器を装備している。
「なんだ? あいつら。乱入にしては登場が派手だな」
クロガネがいぶかしむなか、下品な声が会場に響きわたる。
『いたぜ!! ヴィルトゥエルだ!!』
『情報は本当だったみたいだな!!』
『ヴィルトゥエルとパイロットを捕まえれば、俺たちは大金持ちだ!!』
どうやら彼らの狙いはヴィルトゥエルとカイトを捕まえることらしい。しかし『情報』とはなにか?
クロガネが男たちの会話に引っかかる一方、カイトが三機のパンツァーを解析していた。
「パンツァーは様々な企業のパーツで構成されている。トーナメントのエントリーなし。レンタルパンツァーの登録なし。監視カメラをハッキングして録画映像を確認した。こいつら、エアポートから入って来ていない」
トーナメントのエントリーなし、レンタルパンツァーの登録なし。さらには別ルートからの不法侵入。完全に密入国者だ。
またクロガネは三機のパンツァーの装甲に付けられた牙を剥いた蛇と『Bastardo』という文字が描かれたデカールに気づく。
Bastardo − バスタルド − 。
重量型のパーツと重火器を主に開発している企業『PopoCatéPetl −ポポカテペトル −』、通称:PCP に属している傭兵部隊。
強いと言われているが、正式な軍人ではなくごろつきの集まりで良い噂は聞かない。町の人々を虐殺したり、裏で人身売買をしている、と物騒な話ばかりだ。
クロガネはあちらの動きを警戒しつつ、カイトに告げる。
「カイト。俺が合図したら、シュヴァルツ・アシェのパーツを軽量型へ。武装は軽火器と煙幕弾を頼む」
「……わかった」
隙を付いて逃亡する、というクロガネの意図をカイトすぐ理解した。
クロガネは操縦桿を握り直す。敵が大型グレネードキャノンの銃口をシュヴァルツ・アシェに向けた……と思いきや、銃口はシュヴァルツ・アシェからカムランへ向けられた。
突然のターゲット変更に驚く間もなく、大型グレネードキャノンから放たれた銃弾がカムランに直撃し、激しい爆発を起こした。
赤黒い炎に包まれるカムランに、クロガネは呆気にとられる。
「セイブル!!」
クロガネは通信でセイブルを呼ぶが、応答はない。
観客も突然の出来事に動揺しざわつきだす。
クロガネはカムランを撃ったパンツァーに通信を入れた。
「おい!! おまえらの狙いはヴィルトゥエルだろ!! 関係のないセイブルをなぜ撃った!!」
『影の国の夜王はいずれ脅威となる存在。俺たちの仕事がはかどるってもんだ!!』
敵は
『なるほど。それで俺を撃ってきたのか。動けない相手を撃つ……どこにでもある戦法だ』
セイブルの声が闘技場に響きわたる。
『だが、おまえらは俺を甘く見過ぎた。夜王に銃口を向けたこと……後悔するといい!!』
刹那、燃え上がるカムランの装甲が割れ、赤い稲妻が飛びだす。稲妻は目にも止まらぬ速さで大型グレネードキャノンを持ったパンツァーの両腕を切り落とし、残り二機のパンツァーはそれぞれ頭部と足のパーツを切り払われる。
一瞬の出来事に、クロガネは思わず息を呑む。
そして稲妻が収まったとき、そこには人型中量二脚のパンツァーがたたずんでいた。
白銀の装甲に赤と黒のラインが入った、さながら騎士のような姿をしたパンツァー。
セイブルが駆るパンツァーは、動けなくなった機体から抜け出す三人の敵パイロットたちを見下ろす。
『おまえたちのリーダーに伝えろ。ヴィルトゥエル及びカイト・シュミットとそのオマケは、影の国の夜王セイブルの被用者だ、と。再び影の国で暴れるならば此方は問答無用で抗戦する』
セイブルの脅しが効いたのか、彼らは情けない声を上げて逃げていった。
乱入者たちがいなくなると、クロガネのもとにセイブルから通信が入る。
『おい、クロガネ。おまえがカイトと出会ってヴィルトゥエルのパイロットになった経緯を詳しく話してもらおうか』
セイブルの真剣な口調に、クロガネは「すべてお見通しってことか……」とつぶやいた。
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