第127話:確定演出!?
「一緒に頑張りましょう。」
缶コーヒーを飲んで一拍を置いてから、イツキはゆっくりと口を開いた。
「きっと、大変で上手くいかないこともあると思います。好きなものだからこそ、より辛く感じるかもしれません。時には投げ出したくなるときだってあるでしょう。でも、僕はもう多分大丈夫です。」
優しく顔を出した初日は、エネルギッシュにその光を世に行き渡らせ始めていた。
「だって、いまの僕には、落っことしかけていた夢を一緒に拾ってくれたナナさんや江奈という仲間がいますから。そして、ナナさんにも僕がいますよ。」
「イツキ…」
「僕たちは起き上がり小法師ではありませんから、1人だったら転びっぱなしだと思うんです。でも、互いに起こしあう仲間がいれば、7回だろうが8回だろうが、たとえ何100回でも、僕たちは起き上がれますよ。ひとりで起き上がれるのもかっこいいけど、肩を貸してくれる仲間がいるのもかっこいいなって。だから、、一緒に頑張りましょう!」
「うんっ!!!」
あまりの寒さのせいか、イツキの言葉のせいか、ナナは涙目になりながら、大きく頷いた。少し高さの出た初日により、駐車所には2人の影法師が長く伸びていた。
「わたし、決めたのっ!!」
ナナは突然思い切ったように伸びをしながら、声をワントーンあげた。
「好きなことに真っ直ぐでいたいけど…、好きな人にも真っ直ぐでいたいっ!」
ナナはそう言うとすっと背伸びをして、吐息がかかりそうなくらいイツキの耳元に近づいた。
「だからイツキ、、あんたも覚悟しておいてよねっ…!」
イツキは、足先から髪の先までに一気に鳥肌が立つのがわかった。ナナの声、言葉、頬に触れる髪、香り、すべてがイツキの脳内をものすごい速さで駆け巡り、イツキは駐車場でぽつんとフリーズした。
かろうじて、目だけ動かすと、ナナがバッグに付け直してきた"もちぐま"の頭をそっと3回撫でているのが見えた。
「な、ナナさん……」
「あーっ! さっむっ!! イツキ、早く店内にもどろーっ!!」
ナナは何事もなかったようにすっとイツキから離れると、回れ右して、駐車場から歩き出した。足早であったが、その足取りは少しはしゃいでいるようにも見えた。
(もしも、"恋"というパチンコ台があったのなら、今のは確定演出なのでは?)と、イツキは眩しすぎる初日に向かって目を細め、ナナの背中を追いかけた。
「あっ、ナナさん、ちょっと待ってください!」
イツキはナナを追いかけつつも、先ほどナナがコーヒーを買ってくれた自販機に立ち寄った。
<ピピっ!ゴトンっ!ゴトンっ!>
「こんな寒いのにお水っ!? うけるっ!笑 体冷えちゃうよっ!」
ナナは、2本のペットボトルを自販機から取り出すイツキを見て思わず笑った。
「いえ、お水でいいんですよ! だって、これは、、"ナナさんと今後もずっと楽しめますように!"っていうオカルトですから!」
イツキは1本をナナに差し出すと、白い息を吐きながら少し照れた顔でニッと笑った。夜通しパチンコをしていたにしてはさらっとしたイツキの黒髪は、朝日を受けプリズムを帯びながら輝いていた。
「な、なに、そのオカルトっ……///」
(もしも、"恋"というパチンコ台があったのなら、今のは確定演出なのでは?)と、眩しすぎるイツキに向かってナナは頬を赤らめながら笑い返した。
「イツキっ! ありがとっ! これからもずっとよろしくねっ!!」
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