第8話 隊長、困惑する
「フィエナ様あああああ!」
投げ出されたフィエナを救援すべく、すぐさま駆け寄ろうとするアヴェンス。
しかし、その隙をクラーケンは見逃さなかった。
叩きつけた触手をそのまま横に薙ぎ払い、反対側に押し出そうとアヴェンスに襲い掛かる。
「しまっ……」
咄嗟に剣を構え衝撃を緩和しようとするが、フィエナの力を失ったアヴェンスは触手の重い一撃を受けきることが出来ず、船上を体ごと大きく吹き飛ばされる。
「がはっ!」
剣を甲板に落としながらも、何とか体を回転させながら横に低く飛ぶようにし、海への落下を免れる。
しかし、背中や頭を強く打ち付けたため目の前が定まらずに、思うように動くことが出来なかった。
「隊長!」
残りの兵士たちがクラーケンの気を逸らそうと魔法を放つが、先ほどまでとはうって変わり、動じる気配がない。
その不気味に蠢く触手を天高く上げ、振り下ろす構えをとる。
「俺の悪運も、ここまでか……タコ野郎に潰されるのが俺の方とはな……」
死を覚悟したアヴェンスは目を閉じ、苦し紛れにそう呟く。
獲物を狙い定めた触手が、容赦なく振り下ろされようとした――その時。
「ギエエエエエエ!」
「!? なんだ!?」
突然、クラーケンに対して何かが下から突き上げるような衝撃を与えたと同時に、巨体が舟艇から大きく吹き飛ばされる。
フリスビーの如く宙を舞った後、水しぶきを天まで跳ね上げさせる勢いで落下すると、水面が大きく波打ち高波が舟艇に向かってくる。
「全員、何でもいいから捕まれっ!」
この後の展開を一瞬で察したアヴェンスは、喉が枯れる勢いで叫ぶ。
号令を聞いた乗員たちは急いで近場の手すりなどに低い姿勢で捕まり、振り落とされまいと構える。
「うわああああああ!」
落下により生じた波は暗い海へ手招きするかのように激しく舟艇を揺らし、彼らを襲い掛かる。
嵐の襲撃の如く右往左往に揺らす振動は、その場で座り込むのも困難なほどだったが、何とか耐え凌いでいると徐々に揺れが収まり、しばしの沈黙が流れる。
起き上がったアヴェンス達は、まだ自分たちが生きていることに感謝しつつも、状況を理解できないまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
「何が起こったんだ……」
少し離れた場所では吹き飛ばされたクラーケンが苦しそうにうめき声を上げながら、
あれだけの衝撃をまともに受けたのだ、かなりのダメージを負ったのは容易に想像がついた。
「一体誰が……」
アヴェンスは頭部の出血を押さえながら考察を試みるが、当然ながら明確な答えは出ない。
ただ一つ分かることは、この巨体を吹き飛ばせるだけの力を秘めた何かが、海の中に潜んでいるということだけだった。
「もしや新手の魔物か!? だとすれば、早くフィエナ様を助けなければ……!」
「ダメです隊長! その怪我で飛び込んだら隊長まで死んでしまいます!」
「こらっ、離せ! 王女様を死なせたとなれば、どっちにしろ死ぬことは避けられん!」
「落ち着いてください! 他の者に行かせますから!」
「離してくれ! せめて最後は綺麗に死なせてくれ!」
冷静さを失ったアヴェンスを部下たちが必死に止めようと押さえつけていると、船下から大きな水しぶきが上がる。
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