マイナス3℃



「私は貴方との契約を続行する。契約内容もそのままでね」


そう、これこそが私、『晶故』がで導きだした答えよ。

すると今までの私の反応からは想像もできない予想外な答えに扉思わず動揺していた。


『ほ、本当に契約破棄しないのですか! ? もしかしたらこの先、貴方が先程感じてきた恐怖よりもより酷いの感情が湧き上がるかもしれないですよ!?』


扉の声には明らかに焦りが感じられた。

さっきまで私という『有機物』、いわゆる自分のの地位に立つ相手に勝ちを確信していた扉のあからさまな動揺を私は肌で感じ、内心してやったりと思いつつ扉には悟られない様に冷酷に、淡々と、契約続行の理由を告げた。

「私はね、思うのよ。人間は進むのを止めた瞬間、その時点で死んだようなものって。だって進まない=成長が止まる。そしてそのまま変わる事無く同じ様な日々をただ貪るだけの『有機物』と化してしまう....私達人間がどうして『有機物』の中でここまで文明を発展させれたと思う? ねぇ、『無機物』の扉さん?」


私の質問に『無機物』の扉は何も言い返せなかった。ただ黙って私の話を聞いていた。だが、無機物なので当然だが、眼で見て表情などで感情の起伏を確かめる事が出来ないが、分かんないなりにも内心悔しいと思っているのが扉から私の眼にひしひしと伝わった。

それから私は扉に対して畳み掛けるように言葉を続けた。

「ねぇ知ってるかしら? 『有機物』であるマグロは二十四時間、生きてる間ずっーーーと、泳ぎ続けているんだって。寝ている間もずっと。何でだと思う? 」

扉は私の質問に音を出して答えた。だがその音はどこか、焦りを感じられた......


『知ら....ない』


この言葉を聞いて私は完全に扉に勝った....! と改めて勝ちを確信し、人差し指で鼻の下を自慢げにさすった。


私は『無機物』である扉にメンタルがあるか知らないが、並の人間メンタルがズタズタになる様な言葉を扉に畳み掛けた。


「それはね、『生きるため』マグロは泳ぎ続けないと呼吸が出来なくなって窒息死してしまうの。そうねぇ〜貴方達で言う『廃棄』かしら? この世からいなくなっちゃうの。だってもう『有機物』として使い物にならないから。使い物にならない物をいつまでもずっと残しておくなんて基本無理よ。出来たとしても生きてはいない、何かに加工されてしまう。死んでいるからって、貴方の様に痛覚が無いからって、体を好き勝手されちゃう。体に刃を入れられたり、そのまま焼かれたり、酷い場合は目玉とかを抉られたり。ねぇ? 聞いただけでもゾッとするでしょ? 『無機物』がなんだ『有機物』がなんだ。

どちらにも終わりは来る。ただ、その間の過程が違うだけで、互いに差別し合う。どこまで行っても結局は差別の延長線をなぞっているだけで何も変わっていない。これは『有機物』同士でも起こっているのよ。ねぇ? 『無機物』の世間知らずの扉さん? 」


私が話し終えた後、扉は何も言わなかった。私が気がついた頃には扉の穴が空けられた所を隠そう様に

【扉として使い物にならない為、廃棄】

と、無駄に綺麗な字で書かれた紙が貼られていた。

「....はっ、何私より先に逝ってんだよ。馬鹿無機物が」

「最期の最期で『無機物』らしくないな......『有機物』みたいに芸術的になってんじゃないよ......まるで私が貴方とを殺した『人殺し』みたいじゃないか....」

私は悲しみ混じりの嘲笑を扉に飛ばしたが、やはり扉からは返事が無かった......


「ありがとね、扉。貴方のお陰で私は『私』としての人格を保てそうだよ。私の話し相手になってくれてありがとね。それじゃ、『また逢えたら』」

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