第2話 邂逅

10年前、世界は滅亡の危機に瀕していた。


魔族と呼ばれる種族が人を根絶やしにしようとしたのだ。


彼らは数こそ少なかったものの、それを補って余りある膨大な魔力を持っていたため、非常に強力だった。


特に魔族を束ねる「魔王」は別格で、奴に挑んで命を落とした英傑は数が知れない。


窮地を悟った人類は、魔族の侵攻に対抗するべく、世界各国からある者達を選抜した。


彼らは勇者と呼ばれ、パーティを組み、世界を救う旅に出た。


そして勇者たちは激闘の末、魔王を討ち取った。


魔王を失った魔族たちは負けを認めたことで戦いは終結し、世界には平和が訪れた。


それから月日は流れ、現在。


「はぁー……」


世界を救った勇者の一人にして大魔法使いであるマーリンは、とある村の草原に寝っ転がり、ぼおっ、と空を眺めていた。


何をするわけでもない。ただただぼおっ、としているだけだ。


魔王を討伐してからというもの、彼はずっとこんな感じだ。


単純に、面倒くさいのだ。


毎日汗水たらして働くのも、冒険者として依頼をこなすのも。


そういうわけで、今日もこうして一日を潰そうとした。


そんなとき、


「おい。まーたこんなところで油を売っているのか」


と、話しかけられたので、マーリンは起き上がった。


後ろを振り向くと、一人の老人が立っていた。


「ああ。村長さん。おはようございます」


「なーにがおはようだ。今はもう昼過ぎだぞ」


「あ、そうなんですか」


気が付かなかった。


いつの間にかそんなに時間が経っていたらしい。


「毎日毎日ボーッ、としてるから時間感覚が狂うんだよ」


「ははは。すみません。……それで?僕になにか用ですか?」


「そうだ。実は近くの森にブラッティウルフの群れが出たらしい。今すぐ駆除したいんだが、お前なら無傷ででやれるだろ。頼めないか?」


「ええー。嫌ですよ面倒くさい」


マーリンはあからさまに顔をしかめた。


「……ダメか。ならお前には悪いがここから出てってもらお」


「あーはいはい分かりましたよ!行けばいいんでしょ行けば!」


まったく、半ば強要じゃないか!とグチりながら、マーリンは村外れの森まで歩いていった。


▲▽▲


「あー疲れた」


言いながら、マーリンはグイーンと体を大きく伸ばす。


そんな彼の周りには、複数の黒焦げになった肉塊が転がっていた。


それらは全て、マーリンが屠ったブラッティウルフの成れの果てだ。


ブラッティウルフは数こそ多いものの個々の強さはそれほどでもない。


ましてマーリンは魔王を倒した勇者の一人だ。


先ほども10匹以上が襲ってきたが、結果はこの通り、圧勝だった。


「とはいえ、数が多すぎないか?」


森に入ってからずっと倒していたというのに、まだウジャウジャいる気がする。


「でも、日も暮れて来たからなぁ。……よし、今日はここらで切り上げるか」


マーリンは村に帰ろうとした、その時だった。


近くから、凄まじい魔力を感じた。


「な――!?」


マーリンはとっさに感じた方向を振り向いた。


そこには、一人の少女が立っていた。


腰まで伸びた金色の髪に、子供ながらに整った顔をした少女だった。


しかし、彼女にはマーリンら人族にはないものがあった。


頭から、悪魔を思わせる2本の角が生えていたのだ。


「魔族ッ!?」


マーリンはとっさに杖を少女に向けて構えた。


魔族は、殺さなければならない。


奴らは人類の敵だ。


世界を破滅に導こうとした者達だ。


野放しにしておけば、何をするか分かったもんじゃない。


だから、やらなければ。


マーリンは少女に向けて魔法を放とうとした。


――子供を殺すのか?


「ぐ……!」


しかし、内なる自分の言葉に、躊躇してしまう。


そうしている内に、少女はこちらに向けて手を伸ばした。


「しまっ……」


マーリンはそれを見て、少女が魔法を使うのかと思い身構えた。


しかし、少女は唇を動かし、


「たす……けて……」


「……え?」


予想外の言葉に、マーリンは固まった。


一方の少女は、先ほどの言葉を最後に倒れ、意識を失った。


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世界を救った勇者の弟子は、人類の敵である魔族でした 中村優作 @otqsk

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