第16話 何も出来ないまま

 お化け屋敷を出る頃には、朝日あさひたちにバレないように霧江きりえのジャケットから手を離した。


「楽しかったなぁ」


 呑気なことを言っている共哉きょうやをお面の穴から睨みつける。

 何はともあれ、霧江と朝日をお化け屋敷内で二人っきりにするのは防げた。


 「それじゃあ」と共哉が霧江たちに別れを告げて、その場で一時霧江たちと別れた。


「尾行、まだ続ける?あ・か・ね」

「…共哉」


 私はキッと共哉を睨む。

 共哉が尾行を続けるか聞いた理由は、もうそろそろ霧江たちが解散することと、だいぶ気温が下がったことが主な理由だろう。

 パーカーを着ている私とは違い、半袖の共哉の格好はすごく寒そうだ(本人はあまり気にしてなさそう)。


「一応、二人が別れるところを見る」

「屋台は見ないの?」

「うん__、もう良い」


 結局、私と共哉は霧江たちが別れるところを見てから解散となった。


 この後の夏休みは何もないまま終わり、後期の始業式の日が来た。

 後期の学校生活も、特に変わったことなく進んでいき、体育祭の準備期間に入った。

 それまでの間にも、霧江と朝日の邪魔をしてはいたのだが、どれもあまり効果は薄そうで、関係の進展を少し遅らしているだけのような気がする。


 このまま、行けば二人は付き合う。

 ただ、万が一にも二人が付き合わない可能性に賭けて二人を観察し続けていた。


 ◇


 体育祭当日。前に見たのは別のクラスのテントだったから、こうして二人の様子を間近で見ていると本当にどうにかなってしまいそうだ。


 遠い目で二人を眺めていると朝日の出番が来たようでクラスのテントを離れていった。

 私もテントを離れ、水飲み場で水を飲みに行った。


「…このままじゃ、付き合っちゃう」


 誰に言った訳でもなく呟いた。


「朝日さ、リレーで一位取ったら告白するって言ってた」

「!?」


 声のする方に顔を向けると、共哉がそこに立っていた。

 情報の出所は多分、部活で朝日たちの会話を盗み聞きでもしたのだろう。そんな奴にストーカー呼ばわりされたくないな。


「リレーって学年別の選抜リレーのこと?」

「そうじゃない?」

望月もちづき朝日一人でどうにかなるものじゃ無くない?」


 選抜リレーは男女混合で各クラスから五人選び、一人トラック半周、アンカーのみトラック一周して順位を競う競技だ。一位を取るには、朝日が速いのはともかく、他四人の実力にもよる。


「俺もそれ出るからさ、ここで勝つのを阻止すれば、とりあえず今回の告白は無くなるはずだ」


 そういえば、前回の体育祭では朝日のクラスがリレーで一位だったな。

 多分、その時も共哉は阻止しようとしたけど失敗したのかな。


「…期待せずに待ってるよ」

「ちょっとは応援してよ!」


 ◇


 結果は言うまでも無く、朝日のクラス(私のクラス)が一位だった。

 しかも、朝日はアンカーなのにも関わらず、共哉は第二走者だったし。


 ゴールテープを切った時の朝日の嬉しそうな顔は、本当に憎たらしかったし、それを見て霧江が喜んでいたのも、本当に妬ましかった。


 放課後、空き教室。二人が教室に入ったのを見計らって共哉ともにドアの前で盗み聞きをしていた__。




あとがき

 ご視聴、ありがとうございました。

 朝日の告白のきっかけを知ってもなお、いまの深雪に出来ることは何も無かったようで。

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