第4話 顔との距離
翌日の朝。
いつもの通り、ホームルームが始まる直前にぼくの教室、二年四組に到着した。
ぼくの席である真ん中の一番後ろの席にスクールバックを掛けて、席に座る。
すでにクラスにはほぼ全員が来ていて、雑談をしてにぎやかであった。
生徒の中で物騒な話をしているのが聞こえてきた。
「ちょっとさー、えみ聞いてよ~」
「なに?」
「えみのさー、悪気口を言っていた隣のクラスのコブタちゃんをしめたんだけどさー。えみに謝らないっていうんだよー? もう一回、しめとく?」
「うさぎ、わたしの知らないところで何をしているの? うさぎがしめたら相手がかわいそうでしょ?」
「だってー、えみの悪口を言うんだよ? 自業自得だよ」
「ダメよ、かわいそうだから」
「ぶー、わかったよー……」
甘ったるいアニメ声で喋るショートヘアーの可愛い系女子うさぎにダメと言うロングヘアー美人のえみ。
そんな物騒な話をしていたのは、この学校では恐れられている不良女子の二人。二人とも可愛くて綺麗な女子でモデルになれる美貌の持ち主。だけど、ぼくは一度も話したことはない。
だって、怖いんだもん。
この話を聞いての通り、すぐに人をしめようとする。
ぼくがこの人たちと話したら、「わたしたちに話しかけるとかなめてんの?」とか言われてしめられるんじゃね、と思ってしまう。
まぁ、それくらいにこの二人は凶暴かな。
正直なところぼくはあまりこの二人に関わりたくはない。
まぁ、どんなことをしようが、どんなことがあろうが、ぼくみたいな人があの二人に関わることはないと思うけどね。
関わることはないと思っているけど、それでも絶対に視線はあの二人には合わせない。
と思っていたところ彼女たちの席、廊下側の席からずっと視線を感じる。
誰が見ているんだろう、と思ったぼくは彼女たちと視線が合わないようにピントを少しずらして、視線を感じる側を見る。
あいつがぼくを見ているのか……
廊下側の席からぼくを見ている人はたった一人しかいなかった。
不良生徒と言われているえみという金色のロングヘアーの女だった。
見てる、すんごい見てる。
え、なに?
ぼく、なにかした?
とりあえず、絡まれたくないので、不自然のない目の動きで自分のポケットに移し、スマホを取り出す。
で、机の上にスマホを持ってきて、動画を観る。
すると、うさぎが、
「えみー、さっきから何を見ているのー?」
と言ったあと、こっちに視線がさらに増えるのを感じた。
「おもしろいもの見てる」
「う~ん、おもしろいものなんてないよ~」
「そんなことないわ」
そう言うと、えみは廊下側の自身の席を立ち、真ん中の一番後ろの席にいるぼくのところまでめがけて来る。
そして、ぼくの隣の席にいる男子生徒にどいて、と言ってどかせて、そこの席にえみは座った。
え、なになに?
こっちに来たんだけど⁉
ぼくを見てるよ、すんごく見てるよ。
スマホで動画を観て、彼女がこっちを見ているのに気づいていないふりはしているけど、視線の圧がすごい!
なんでこっちをそんなに見てるの⁉
まじで、誰か教えて‼
あろうことか、隣の席でこっちを見続けているだけでなく、彼女は座っていたイスをぼくの隣にまで持ってきて、ぼくの顔と十センチほどしかない距離でぼくを見続けていた。
まって、この状況をぼくにどうしろと?
みんなに問いかけたい。
ぼくと同じ状況になればどうする?
学年で恐れられている美人不良と呼ばれている子に息のかかる距離で黙って見続けられてるんだよ。
そんで、ぼくは陰キャぼっちというカテゴリーに入っている人間。
ぼくから話しかけるなんてハードル高いんですけど⁉
え、なんで、そんなに至近距離でぼくを見てるの、と聞きたいところだけど、不良女子に『はぁ? 悪い? しめるわ』とか言われそうで怖くて聞けない。
もしも、ぼくがパリピだったら、すぐに彼女の方に顔を向けて「可愛いね」と言ってキスするだろう。
しかし、ぼくはパリピではない!
そんなことはできないんだ。
なので、陰キャぼっちらしくぼくはホームルームのチャイムが早く鳴ってくれ、と願いを込めながら動画を観る。
だけど、そうはさせてくれないのは不良女えみ。
顔との距離が少し離れたの感じたあと、
「ちょっと」
その不良女えみの言葉に反応してぼくは彼女の方に顔を向ける。
「わたし、ずっと見ているんだけど、どうして無視するのよ?」
こんなことを言ってきた。
もちろん理由は簡単である。
関わりたくないし、何よりもめっちゃ怖いからだよ!
不良女がずっと見てくるんだよ?
ホラー映画よりもホラーだわ!
なんてことは陰キャぼっちのぼくが言えるはずもなく、動画に夢中で気づかなかった、と言おうとした。
「え、あ、その……」
だが、陰キャぼっち丸出しのもごもごと喋ってしまう。
すると、彼女にバカ笑いされた。
「ハハハハハ、なにそのもごもごー、かわいいんですけどー」
「……」
かわいいなんて、不良女子の特有の言葉だとは知ってはいても、女の子に褒められているような感じがしてちょっとうれしく思う。
なので、ぼくが顔の頬少し赤らめていると、
「頬を赤くしてる、かわいい」
「……」
こいつは、なんなのだ。
ぼくになんの用があってここに来ているんだ。
冷やかしに来ているのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます