2章 プロ3年目、ペナントレース最終戦(2年目オフシーズン含む)

第1話 想像できたわけじゃない

 ストレスって、楽しいことや嬉しいことでもかかるって本当なんだ。

 目の前の光景のせいで、否が応でもそのことを実感させられてしまう。

 

 頭と目の奥が熱くて、心臓の鼓動が強すぎて、痛くて、血液が普段よりずっと速いスピードで身体の中を巡っている。

 こんなの身体に良いわけがない。普段よりずっと負担がかかってるんだろうなって、分かる。

 

 こんなふうに私の身体を痛めつける元凶が目線の先、ペナントレース最終戦の、リーグ優勝をかけたマウンドに立っている。私が連れてきたんだ。ここに、この世界に。

 

 彼女を初めて見たそのときから、絶対に通用する、そう思っていた。

 だけどさすがに、こんな光景まで想像できていたわけじゃない。


 想像できていたわけじゃないけど、そんなに非現実的に思うことでもないのかもしれない。

 だって今の野球界は、一昔前なら信じられなかっただろうことが、どんどん現実になっているから。

 

 例えば、160キロという球速は、昔は日本人投手には達成できない数字だと思われていたらしい。

 でも今は、複数の選手がその数字を記録している。

 

 さらには、投手として最速165キロを記録し、メジャーリーグで先発投手としてエース級のピッチングをしながら、同時に打者としても本塁打を40本以上打ってホームラン王のタイトルまで取ってしまった、漫画や小説で出てくることさえ許されないような、夢でさえ想像しないような選手でさえ現れた。

 

 そんな時代なんだ。プロ野球の長い歴史の中で、すでに百人近い達成者がいる記録を彼女も達成したとして、何も不思議なことではないのかもしれない。

 

 少なくとも、今日ここまで来たのは偶然なんかじゃない。マウンドにいる彼女が、それを証明し続けている。

 

 あとアウト一つ、あとストライク一つ。

 

 あと、一球。

 

 その一球が彼女の指から離れて、私はそれを見逃さないように、振り落とされないようにと、その軌道の先を目で追った。

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