第5話 11時過ぎのハンバーグ定食

「こんにちはー」

「いらっしゃいませー」


 イーロンが退店した後のタイミングで続々と探検家や勇者らが入店してきた。この店内はそこまでテーブル数が無いので、すぐさま満席近くにまで達する。


「こんにちはー」


 そんな中、1人の女性が店内に訪れた。黒髪のボブヘアで眼鏡をかけたその女性はテーブル席に座ると、すぐに手を挙げたので、お冷を持って向かう。

 お冷を女性の目の前に置くと、女性は無表情のまま口を開いた。


「ハンバーグ定食お願いします」

「はーい」


 伝票を書いてマリーへオーダーを伝える。とりあえずここまでの工程はなんとか慣れ始めて来たように思う。

 マリーはあらかじめ用意していた肉種を魔術を使ってフライパンで焼くと、手早く白いお皿に付け合わせの野菜と共に盛りつけた。

 その間出来上がった料理を他の客へ運んでいると、マリーから声をかけられた。


「ごめん、ハンバーグ定食の方のごはんよそってくれる?」

「はい!」


 お茶碗にごはんをよそい、お盆の上にお皿を置いて、伝票と共に先ほど注文した女性客の元へ運ぶ。


「お待たせしました。ハンバーグ定食になります」

「ありがとうございます」


 女性は無表情のまま、割りばしを割ると黙々と食べ進めていく。まるで掃除機のような勢いでハンバーグ定食を平らげていく。


(そんなにおなか減ってたのかな)


 店内の古時計に目をやると、時刻は午前11時4分。まだ昼食にはほんの少し早いかもしれない時間帯だ。


「あの子の食べっぷりすごいわね」

「マリーさん?」

「あの子、最近この店に来始めた子なんだけどね。いつもハンバーグ定食しか頼まないの。それで覚えちゃった」


 彼女は冥界廊の入り口付近で事務作業をしているという。探検家でも無ければ怪物を倒す勇者でも無かったのである。


「冥界廊に来る前は、古龍の巣っていうダンジョンで探検家として頑張ってたみたいなんだけど、大けがをしてからは探検家としての活動はやめたって聞いたわ」

「やっぱり、命がけなんですね」

「そうよ。ダンジョンに挑むって事はそういうリスクだってあるわ」


 やっぱり、ダンジョンに挑まなくて良かった。せっかく転生してのだ。今度は長生きしたい。


「ごちそうさまでした」


 女性はもう定食を食べ終えたようだ。早い、早すぎる。しかも一息入れる間もなく荷物と伝票を持ってレジへと向かう。

 私はテーブルに座る別の客へメニューを渡すと、その足でレジへと向かった。


「1000マークになります」

「はい、ちょうど」

「丁度受け取ります」

「ごちそうさまでした。やはりここのハンバーグ定食は美味しいです」

 

 ここで初めて女性が笑った。その笑みは朗らかで明るく、爽やかな笑みだ。見ていて心の中からスッキリとさせられるものだ。


「ありがとうございました!」


 ああ、やりがいが感じられる!

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