鉄恨のイゼルヴロク

帆多 丁

イゼルヴロク

 お前はいつでも輝いていて、ガキのころから二言目には「トビー、冒険だ!」っつって突き進んでいく。おれはそんなお前の隣にいるのが好きだった。

 お前ほどイカした悪戯も思いつかなかったけど、身体だけは人並み外れて頑丈だったから、お前の思いつきには率先して突っ込んでいった。

 そうすればお前は誰にも見せないような悪ガキの顔をして喜ぶし、その時だけは、おれはお前と対等でいられる気がした。


 女神に呼ばれてたのはお前だったが、泉を見つけたのはおれが先だったんだぜ。

 世界を救う勇者になれって言われて「トビー、最高の冒険だな!」って振り返ったお前の目が不安に揺れていたから、おれは一緒に行くと言ったんだ。

 人並み外れた頑丈さで、おれはお前のつるぎが使命を果たすその時まで、お前の盾になるつもりだったんだよ。


 指の何本かは失った。耳の片方はなくなった。左のつま先は潰れて鉄板で補ってた。折れたことのない骨はないし、まともな歯は半分も残っていなかったし、左目はずっと白く濁っていた。

 それがなんだ。

 それがなんだってんだ。

 なんでおれを聖都に置いていった? おれのためになるとでも思ったのか。

 おれを置いていく代わりに連れて行った、あの女は誰だ。

 いやわかっている。誰なのか、何なのかはわかっている。あの忌々しい女。女神の依代、加護の代行者。

 依代と女神の泉で交わったな? お前の剣の輝き、お前が身に纏う光、それがあの女の今の姿か。

 その力を得られるから、おれは居なくて大丈夫だと、そういうつもりだったんだろう。何が「今まですまなかった」だ。何が「もう傷つかなくていい」だ。おれの気持ちはどうしてくれる。あそこでおれを放り出して、おれにどうなってほしかったんだ。

 なくした指は、耳は、歯は、目は、いったいなんだったんだ。

 

 だからおれは、お前の正面に立ちはだかることにしたんだ。

 隣にも、前にもいられないのならいっそ。


「おれは魔王軍四天王が最後のひとり、鉄恨てっこんのイゼルヴロク。お前の『冒険』はここまでだ」


「そうはさせるか!」


 なんだお前は。


「なんだお前は!?」

「勇者様がイチの弟子である! 勇者様、ここは私に任せて先へ!」

「邪魔をするな小僧! どこから出てきた!? 勇者、貴様、よりによってこんな小僧を隣に!!! くそ! 豆粒みたいなガキが! 待て勇者、ここは通さん! ぐっ……、どけガキ!! お前じゃない、お前じゃない、お前じゃないんだよ!!!」






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