第7.5話 アーマード&フロントホック

「……早くない…?」


 もちろん、絶頂までの時間の事を言っているのではない。

 ……まだ、行為に突入してもいないのだから。

 彼女は、僕の反応をみて……にまにまと満足げでもある。


「ごめん、でも……我慢できない。」


 そう答えて、首筋にそうっと唇を這わす。

「…ん…ふ……ぁ」


 抵抗は……しないようだ。

 その事に、後押しされて僕は彼女の背中と脇腹を柔らかく撫でさすった。

 彼女は目を閉じて、感覚を味わうような仕草を見せた。


 彼女の下半身に身に付けられた……美しいぱんつ。

 僕が諦めた、叶わないと思っていた願い……。

 それが目の前に実現されているのだ……他ならぬ、みさおの身体によって……!


 ゆっくり目を開けて、彼女が……また、にんまりと、

「まぁ、……道中一回くらいは、こういうことするだろうな~♪……って、思ってはいたけど……ふふふっ」


 そういって彼女は、微笑み半分、してやったり半分、といった表情で僕を見る。


 ……世間的には、自分から陥落したことを相手に悟られないようにする駆け引きこそが、恋人付き合いの醍醐味、あるいは真理、みたいな論調があるみたいだが……僕にとってはそんなものクソくらえだ。


 僕は間違いなく、操に酔いしれている。魅了されている、惑わされている、取り込まれている、手玉にとられている……。もう、どれでもいいんだ。


 彼女が求めてくれること、求めに応じてくれることそのものが喜びだ。

 そこに迷いも作為も躊躇も無い。


「……出発してから、一時間持ちませんでしたね~、ふふふっ♪」


 そういって彼女は僕の首に腕を回し、ぎゅっと胸に抱き込んだ。僕はそのまま深呼吸する。


「予想外でしたので……、まさかここで穿くとは……」


 僕は、ぼそぼそと言い訳する。

 操の匂いに包まれる……脳が支配されていくのがわかるが、僕はもちろん抵抗しない。どんどん支配してほしい、僕を操のものにしてほしい…!


 それでも男か……?

 ふん、……当然だ。男だから欲望に逆らえないんだ。


 顔を少し左右に捻って、より深く胸の谷間に埋まろうとする。だが、何か……いつもより抵抗が大きい気がする……

 もちろん彼女の……ではない。彼女のが大きいのだ。もしやこれは……?


 気がはやるが、焦りは禁物。


 彼女の気持ちにちゃんと向き合い、応えなければいけない。

 欲望には乗っていいが流されない、あくまでも操ファースト、これが僕の性行為の掟だ。


 顔を寄せる。

 すると彼女が察して目を閉じる。


 唇を寄せると、彼女は口を半開きにして舌で僕を受け止めるようにして引き込む。


 彼女の脇の下から腕を回すようにして、彼女の髪を撫で、それから頭を支えるようにして唇を絡める。彼女もすぐに僕の頬に手を添えて顔を逃がさないように固定する。


 ぴちゃぴちゃと云う微かな音と、漏れでる二人の息づかいが耳から流れ込み、また快感を増していく。

 舌を差し込み、相手の舌を絡めとるように掬い掻き回し吸い上げる。

 唇でふさいで接触面を増やしたり、相手の唇をついばんだり…ありとあらゆる交感を紡ぎだす。


 しばらくそうして、相手の情感を高めていく。やがてお互いに頃合いをみて、唇を離す。


 操はとろんとした表情で目をゆっくり開く。

 ──この、とろけた感じがたまらなく好きだ。


 さて、彼女の上半身の覆いを解いてゆく。

 ぼたんを一つずつ外していく、下から順番に。

 ……思えば、彼女は性行為が予想されるときには、必ずと行っていいほど前開きの脱がせやすい服を着ていてくれたような気がする。……これに関しては、自意識過剰であってほしくない、そう願った。


 開放部が胸まで到達すると、桃色のブラが視界に飛び込んできた。

 しかし……今朝、支度をしているときに見たブラと違うことに気づいた。

 あの後、彼女はブラも付け替えていたのだろう。


 これは、僕が命名した全くのオリジナル名称だが……アーマード・ブラだ。


 ──アーマードの定義は僕の中でいくつかあるが、最も要件として大きいのは、まず布面積。そして、幅広の肩ストラップと脇のサポートも幅広、谷間を覆い隠すほどの大きな前面部。こういったものである。


 その形態は、フルカップと呼ばれる乳房全体を覆う種類のものが多い。そして、その大きな乳房の重量を支えるために、肩ストラップも必然的に幅広いものとなる。そのカップの構造はモールドカップと呼ばれるものが多い。パッドによる乳房の寄せ上げで形を整えるのではなく、カップ全体が器のように成形されておりそれで全体を包み覆う形状なのだ。そして、大きさと重量を支えるために脇のサポートも必然的に上下幅が広くなる。


 アーマードと僕が呼んでいるのは、その形状が防弾ベストのようにも見えるからだ。女性曰く、形がゴツくてあまり可愛くない、と好意的には取られないこともある。


 だが僕は、このブラも大好きだ。肌を覆う面積が広くレースや刺繍があしらわれる範囲も広い。造形的にも美しい。そして……悲しいかな、男の僕には致命的にフィットしないのである。


 このモールドカップと云うやつは、先述の通り成形されている。つまり膨らみ必須なのである。膨らみが足りないとブラのカップの中にが生まれてしまうのである。他のタイプのブラの場合は、ある程度締め付け具合で調整ごまかしできるのだが、モールドカップはそれができない。平坦な僕の胸ではどうしても着こなすことができないのである。


 一方で……彼女の胸は、結構大きい。


 その為、ブラも必然的に大きくなるのだが、大きな胸には大きなブラ……これはもう必然の調和と言っていいだろう。


 そんな、手の届かない美人ブラであるアーマードに身を包んだ胸に手を添える。アーマードの呼び名にふさわしく、その手応えは結構ハード。胸の感触もあるが、正直上から触れると物足りない。


 だが、そこで僕は気づく。

 これは……ただのアーマードブラではない。

 左右のカップの連結部分にひっそりと隠れていたもの……3段の鉤ホック……

 これは、……フロントホックのブラだ。


 ───フロントホック。


 ブラジャーの概念は、男と女で正反対である。

 即ち、女性にとっては身に付けるものであり、身に付けやすく、身に付けていて快適なものを良しとする。

 ところが男にとっては、ブラはであり、外しやすいものが良しとされるのである。


 僕にとってもそうだった、………3か月前までは。


 いまや、ブラは僕にとっても身に付けるものであり、その要件は身に付けやすく快適であることを求める。


 そんな、人によって様々に求められるブラジャーであるが、フロントホックはあらゆるニーズに応えてくれるのだ。


 まず、ホックが正面の見やすいところにあるので、男女どちらにとっても外しやすい。行為の際に、正面なので女性の方もアシストしやすい。……不慣れな頃にはとても助けられた記憶がある。


 そして、身に付ける時も誠に身に付けやすいのである。実際に僕が身に付けて試してそうだったから間違いないのだ。

 いちいち、上下を確かめ正面で留めてからぐるっとまわして……なんて面倒なことはしなくてよい。先に、袖を通す時の要領で肩を通して、後は正面で留めるだけ。


 この快適さは、癖になるほどだ。


 もう全部フロントホックでいいんじゃないかな?

 ……と、思わせるほどなのだが、残念ながら構造的な弱点もある。


 谷間部分にホックがあるため、ホックは基本的に1組1段階で留める位置の調整ができず、サイズの許容範囲が狭くなってしまうのだ。寄せ上げ性能も併せ持つのだが、調整幅の少なさと相まって、きっちりサイズを合わせないと結構キツめになってしまうこともある。選ぶ際には是非、購入前のフィッティングをおすすめしたい。


 ……………


 ☆この先の特別シーンは、R18サイト「ノクターンノベルズ」にて公開中です。

 カクヨムでの公開分だけでもストーリーは把握できますのでご安心ください。

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